竹中平蔵のポリシー・スクール
2008年5月1日 政権の維持と「良い政策」
福田内閣の支持率低下が伝えられている。実は今年に入ってから、福田首相は相次いで大きな指示を出し、改革へのリーダーシップを発揮しようと腐心しているように見える。1月にはダボス会議で「温暖化ガス排出の数値目標設定」を明示した。2月には、公務員制度改革に関連して「内閣府に人事庁を設置する」ことを明らかにした。そして3月には、「2009年度道路財源の一般財源化」を指示したのである。いずれも、政府として大きな意思決定だ。にもかかわらず支持率は低下し、メディアはすでに政権維持の「危険水域」という言い方を始めている。
過去20年の間に、日本では13人の首相が登場している。この間、6年近くは小泉内閣であったことを考えると、それ以外の内閣は平均して1年程度しか続かなかったことになる。各首相の政権担当期間がかくも短いために、中長期的な視点に立った政策が実施されないという批判は、確かに重要な論点である。
日本の政治制度は、英国をモデルにした議院内閣制であると言われている。しかし英国の政権運営は、日本とは対照的だ。1970年代の終盤以降、サッチャー11年、メージャー7年、ブレア10年と、3名の首相がそれぞれ長期間政権を担当してきた。
そもそも議院内閣制というのは、議会における与党のトップが首相となり、行政のトップを占めることを意味している。現状で言えば、自民党の総裁である福田康夫氏が首相である。首相は議会と行政府双方のトップという立場にあり、本来、相当に強い権限を持っていることになる。英国のケースを見る限り、確かにそのように映る。
しかし現実に日本では、首相の立場は決して安定したものではない。その最大の理由は、日本では思い切った政策を進めることが、同時に政局につながる仕組みになっているからである。例えば、道路財源の一般財源化を行うという福田首相の決断は、政策的には前向きなものであり、評価されるべきものだ。しかし道路建設に特定の利害を持つ産業グループは、当然一般財源化に反対である。彼らの利害を代表する立場の国会議員(いわゆる族議員)も強く反対する。そうなると、こうした前向きの政策を採用することによって、内閣は政治的に大きなリスクを負ってしまうことになる。
前向きの政策をしようとすればするほど、反対する立場の政治家と対立が強まる。前向きな政策の実施が、政治的リスクにつながるというトレードオフが存在する。ここで内閣の支持率は、どれだけ積極的に前向きの政策を実施するかで決まると考えよう。前向きの政策を行えば行うほど、国民による内閣支持率は上昇することになる。一方で、前向きの政策を行えば行うほど、党内の首相支持率は低下する。政権を維持することは、このトレードオフをどうバランスさせるか、という側面を持つことになる。
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(日本経済研究センター特別顧問)