先週のことである。車で市内を走ると、あちらこちらに奇妙な看板が立ち始めていた。ピンク色の地に、白く大きな「?」マークが描かれている。そして、上のほうにこう書かれている。
「まがい物に注意」
この目立つ看板が、道路沿いのあらゆるところに立ち、町じゅうに「?」マークがあふれる光景になった。
たしかに昨今、偽造品、模造品の問題が出てきている。欧米の一流企業の歯磨きや化粧品が、ずいぶん安く出ていると思って、買って使ってみると、体に良くない成分が入っていたり、肌荒れを起こしたりする。一流品とそっくりだけれど、実はどこかで違法に作ってコートジボワールに大量に運び込まれた、模造品なのだ。そういうことがあるので、「まがい物に注意」するようにという新聞記事が、何度にもわたって出ていたのを知っている。また、選挙前の慌しい時期に、どういうわけで模造品追放のキャンペーンなどが始まったのだろうか。
いや、これはバグボ大統領側の、決選投票に向けての選挙キャンペーンなのだ。「まがい物」とは、対抗馬ウワタラ候補のことを示唆している。ウワタラ候補は本当のコートジボワール人ではないのではないか、という疑問が、「象牙性」の議論のもとに呈されてきた。だから、このピンク色の「?」の看板には何もそう書かれていないけれど、コートジボワールの政治の経緯を知る人々には、ああそういえば、ウワタラ候補が真正のコートジボワール大統領候補とはいえないのではないか、という疑問を起こさせるようになっている。
これがバグボ大統領側のキャンペーンということは、今週になってこの「?」の看板が、すべてバグボ大統領の看板に置き換わったことで明らかである。そして、同じピンク色の看板はこう訴える。
「私は、本物のほうを選ぶ」
「私は、本物を求めている」
そして、だからバグボ候補に投票するのだ、と添え書きされている。
前の週に「まがい物追放」を潜在意識に植え付け、今週になって「本物に投票」と訴える宣伝手法は、けっこう見事なものであると感心する。しかしながら、自分だけが本物で、相手は偽者だと決め付けるような標語は、あまり褒められたものではない。選挙運動は、自分の良さや政策を売り込むものであるべきであり、相手を貶めるようなものは選挙の訴えとして二流である。それに、今回のコートジボワールの決選投票で、対立の側面が増幅されると、全国各地で暴力沙汰になりかねないと、皆が怖れている矢先である。誹謗中傷の類は、憎悪や対立を増幅するので、できるだけ避けるようにするのが、責任ある指導者としての務めであろう。
ところが、バグボ大統領は、週末の選挙運動で、さらにウワタラ候補批判を強めた。
「私の対立候補は、実は1999年のクーデタの首謀者だった。」
新聞の見出しには、そう踊る。バグボ大統領は、アビジャン近郊の町で始めた選挙運動の冒頭に、そう演説した。
「彼は、その1999年のクーデタで、ベディエ大統領を追放した張本人だったのだ。」
1999年のクリスマスに起ったクーデタで、ベディエ大統領は失脚し、パリに亡命せざるを得なかった。ベディエ大統領と「民主党」にとっての屈辱の歴史を作ったのは、実はウワタラ候補だったのだ、それなのに、今はそのウワタラ候補を支援するなど、馬鹿げているじゃないか。バグボ大統領はそう言いたいのである。つまり、第一回投票でのベディエ候補の得票25%に、バグボ大統領のほうに付くように呼びかけている。
バグボ大統領はさらに続ける。
「今回の選挙は、政治において暴力を追放するための選挙なのである。政治の中に押し込み強盗のように入ってきた連中を、私に投票することによって阻止しよう。もし、わが国に暴力の暗雲が湧き上がるなら、私は敢然と立ち向かう。国の未来がかかっているのだ。」
そして、こうも言った。
「この戦いは、昼と夜との戦いである。この戦いは、善と悪との戦いである。民主主義者とクーデタ主義者の戦いである。」
かなり激しい。
対するウワタラ候補は、自分は相手への誹謗中傷はしない、と以前から宣言していた。立派な心掛けである。ところが、バグボ大統領が露骨に自分への攻撃を始めたのを見て、ウワタラ候補も攻撃に転じた。同じく、選挙戦の開始にあたって、アビジャンで行われた決起集会で、こう演説した。
「バグボ大統領は、2000年の大統領選挙で、ゲイ候補からクーデタ的な選挙で政権を奪い取ったのだ。」
つまり、バグボ大統領が大統領になったこと自体が、そもそも間違いであったと言わんばかりである。そして、2002年に殺害されてもうこの世にはいないとはいえ、国民にけっこう人気のあるゲイ将軍を引き合いに出して、バグボ大統領の評判を落とそうとしている。
続けて、こうも言った。
「10年の間、何もできなかった男に、これから5年間何を期待できるというのだ。国を運営することもできず、戦争に解決を導くこともできず、つまり失敗した場合は、普通は政権を退くべきなのだ。バグボよ、もう静かにしなさい。」
そして、町中にこういう看板を掲げ始めた。
「失業に投票しないように」
「教育の失敗に投票しないように」
「汚職に投票しないように」
ウワタラ候補も、自分の政策を訴えるよりは、バグボ大統領の失政を非難する戦術に転じたのである。
決選投票にむけての選挙運動は、双方の候補者からの激しい非難の応酬で、火蓋が切って落とされた。これは良くない兆候である。候補者自身がそういう変な手本を見せれば、それぞれの支持者たちは、相手陣営に対する猛烈な攻撃を行っていいのだ、と解釈するに違いない。だから、これから全国各地で、双方の支持者たちが衝突するという事態が出てくるかもしれない。それより厄介なのは、投票結果が出た後で、勝者と敗者が握手していっしょに国家再建に取り組む、といったことが不可能になることである。
選挙を行うとは、民主主義を実現することだ、と単純に喜んではいられない。それどころか、選挙がかえって国民の間の亀裂を深めてしまう結果をもたらすのだ。 先週の初めから、あちこちにピンク色の看板が立った。
大きな「?」に「まがい物に注意」とだけ書いてある。
今週の選挙運動期間に入って、それがバグボ候補の看板に変わった。
「私は本物を求めます」との標語
そして、「教育の無償化は、バグボ」 「私は本物を選びます」と書いてある。
「医療の無償化は、バグボ」
お医者さんが、「私は本物を処方します」 「バグボ、100%」
天然果汁のようだ。 「あなたの生活を変えよう」、とウワタラ候補の看板。
「あなたの生活を変えるための、選挙協力」
ベディエ候補が、ウワタラ候補に寄り添う。 野党連合の看板
「学校教育の失敗に投票してはいけない」 「汚職に投票してはいけない」
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