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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

決選投票を占う

2010-11-22 | Weblog
決選投票の11月28日まで、あと1週間を切った。選挙運動が、ふたたび開始された。そして、来週の今頃には投票が終わり、新しい大統領が決まるのを待っているはずである。

第一回投票で勝ち残ったのは、得票率38%のバグボ大統領と、32%のウワタラ候補の二人である。このどちらかの候補が、得票を50%にまで伸ばすためには、第一回投票で他の人に入れた有権者の票を、自分の側にどれだけ取り込めるかが勝負になる。とくに大事なのが、第三位で落選したベディエ候補の得票25%の行方である。

ウワタラ候補は、その25%は全部自分のところに来ると公言している。そして、32%+25%=57%なので、決選投票で勝つのは自分であると考えている。たしかに、ウワタラ候補の「共和連合(RDR)」と、ベディエ候補の「民主党(PDCI)」は、第一回投票の前に選挙協力を約束している。どちらかが決選投票に残れば、落ちた方は相手を支持するという約束である。

そして二人は、第一回投票に際して、他の諸派政党とともに、「民主主義と平和のためのウフエボワニ主義者連合(RHDP:Rassemblement des Houphouétistes pour la Démocratie et la Paix)」という長い名前の政党連合をつくった。ウフエボワニ主義者というのは、建国の父ウフエボワニ大統領の政治の流れを汲む人々という意味である。バグボ大統領は野党党首時代、ウフエボワニ大統領に抵抗して来た政治家だから、つまりはウフエボワニ主義者という表現は「反バグボ大統領」ということを言いたい。現職のバグボ大統領を落とすために、野党が連合を組んだわけである。

第一回投票の結果、第三位で落選したベディエ候補は、はじめはその選挙結果に不服を申し立てていたけれど、結局受け入れた。そこで、RHDPの決起集会が開かれ、ベディエ候補がウワタラ候補と並んで現れた。ベディエ候補は、決選投票においてはこれまでの約束通り、ウワタラ候補を支持することを再確認し、自分の支持者に対して、ウワタラ候補に投票するように求めた。

そうなると、決選投票の結果はもう初めから分っているようなものじゃないか。ウワタラ候補が、57%を得票して勝つのである。ところが、そう計算通りにはいかない、というところが選挙の常である。第一回投票でベディエ候補に投票した「民主党」の支持者たちは、決選投票でほんとうにウワタラ候補に投票するかどうか、これが必ずしも明らかではない。その理由は、おそらく3つくらい上げられるであろう。

第一には、そもそもベディエ候補がウワタラ候補を支持する、という話が、コートジボワールの政治の歴史を知る人からすれば、眉唾である。話は1993年に、初代大統領のウフエボワニ大統領が逝去した時にさかのぼる。逝去直後、憲法上の規定から暫定大統領になるべきとされていた、当時のベディエ国会議長を差し置いて、当時のウワタラ首相が権限を掌握しようとした。混乱の後、結局ベディエが第2代の大統領になる。そしてベディエ大統領は、1999年にクーデタで大統領の座を追われるまで、ウワタラ元首相を目の敵にし、その政治復帰をとことん阻んできたのである。

そのためにベディエ大統領は、「象牙性」という概念を持ち出した。ウワタラ元首相はコートジボワール人ではない、だから大統領にはなれないのだ、という議論であった。この議論を援用して、ウワタラ元首相を徹底的に排除した。この「象牙性」の議論は、コートジボワール在住の外国人移民を排斥する動きになったのみならず、土地所有権などの問題において、北部の部族の人々への差別的な扱いに繋がった。この南北間の不和が、2002年のクーデタの背景にあると考えられている。

その張本人のベディエ候補が、何を変節したのか、ウワタラ候補と一緒に政党連合を組んでいるのみならず、よりによって彼が大統領に当選することを後押ししている、というのだ。もちろんバグボ大統領を落とすためには、敵の敵は味方ということだろう。しかし、昔からのコートジボワール政治を知る人々にとっては、たちの悪い冗談としか思えない。そんな筋の通らないことをしているから、第一回投票で25%しか取れないのだ、と責任論さえ出てきている。だから、ベディエ候補が「民主党」支持者に訴えても、支持者たちの心がもうベディエ候補から離れている、だから言うことを聞かない、ということはありうる。

第二は、そもそも「民主党」の支持母体であるバウレ族は、南部の部族である。心情として、北部の諸部族出身であるウワタラ候補を支持するよりは、同じ南部の部族を支持母体とする、バグボ大統領の「人民党」を支持するほうが、まだずっとすっきりくる。バウレ族はキリスト教徒であるのに対して、北部の部族はムスリム教徒が多い、というような理由だけではない。北部からの移民労働者のために、南部の農園での労働環境や土地所有権などが脅かされていると感じている。もしウワタラ大統領になったら、自分たちの権利が損なわれるのではないか、といったかなり具体的な不安がある。

その不安感は、バグボ大統領の「人民党」にとって狙い目である。ウワタラ政権になったら南部の農民は危ないぞ、というキャンペーンが功を奏するのである。さらには、あの国を南北に分断する危機をつくってしまった2002年のクーデタは、実はウワタラ一派が起した陰謀なのだ、そしてブルキナ人たちが国を乗っ取ろうとしているぞ、といった風説さえ流れ始めている。だから、ベディエ候補の支持層のなかには、ウワタラ候補とバグボ大統領の間の選択ということになったら、やはりバグボ大統領のほうが安全だ、という見方が広まる可能性があるわけである。

第三は、決選投票前に、それぞれの候補と政党による、激しい票獲得の攻勢があるということである。ましてや、今回は第一回投票の投票結果という数字がある。全国2万ヶ所の投票地区ごとに、どういう支持者の分布になっているか、誰の目にも明らかだ。だから、バグボ大統領の「人民党」側も、ウワタラ候補の「共和連合」側も、相手の弱そうなところや、ベディエ候補の得票が行先を迷っていそうなところを目がけて、いろいろな手で働きかけを進めるに違いない。それは、道路を舗装するとか学校を建てるとかの公約だけではない。買収かもしれないし、脅迫かもしれないし、まあ現場ではいろいろなことが起こっても不思議はない。その結果、どういう得票の分布になるのか。第一回投票の得票は、大きく組み替えになる可能性がありうる。

つまりは、決選投票の行方は、第一回投票の得票の足し算だけでは、簡単には占えないということである。ベディエ候補の得票25%の、半分がバグボ大統領に流れると、バグボ大統領の得票数が50%を越える計算になる。バグボ大統領がそこまで、ベディエ候補の「民主党」支持層を分断できるかどうかが、重要な鍵となっている。

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