小泉農相 備蓄米の随意契約での売り渡し 詳細を発表

農林水産省は、26日、備蓄米の随意契約での売り渡しに関する詳細を発表しました。
ネット通販などを含めた大手の小売業者を対象にこれまでの平均落札価格の半額程度で売り渡すとしていて、これによって、店頭での販売価格は税抜きで2000円程度に抑えられる見通しだとしています。

【ノーカット動画 2分18秒】詳細発表する小泉農相

備蓄米の放出以降もコメの価格高騰が続くなか、農林水産省は、備蓄米の売り渡し方法をこれまでの競争入札から随意契約に見直す方向で検討を進めてきましたが、26日、その詳細を発表しました。

それによりますと、
▽放出するのは、令和3年と4年に収穫されたあわせて30万トンで
▽年間1万トン以上のコメを扱うことができる、ネット通販なども含めた大手の小売業者を対象に、
▽ことし8月末までに消費者に販売する量について、
▽毎日、申請を受け付けるとしています。

▽価格は収穫された年で異なりますが、平均では、これまでの平均落札価格の半額程度の、60キロあたり消費税込みで1万1556円、5キロに単純に換算すると963円で売り渡すとしています。

農林水産省は、これに一般的な流通経費が上乗せされると、店頭での価格は、5キロあたり税抜きで2000円程度、税込みで2160円程度になると試算しています。

また、▽業者が希望する場所まで運んだ上での引き渡しとし、
▽これまであった、政府が同じ量を買い戻すとした条件は盛り込まれていません。

農林水産省は、26日から、希望する業者からのメールでの申請の受け付けを始め、今回、放出する備蓄米は、早ければ6月上旬にも店頭に並ぶ見通しだとしています。

小泉農相「これまでと同じやり方では期待に応えられない」

小泉農林水産大臣は、農林水産省の職員に訓示し「これまでと同じやり方では国民の皆様の期待に応えられないと考えた。国が定めた定価で毎日、売り渡し、早ければ6月上旬に店頭に並べることができる。早く、安定した価格を実現し、これ以上のコメ離れを防ぐ」と述べました。

農水省に米の価格高騰対策チーム 発足

農林水産省は、26日、省内にコメの価格高騰に対応する新たなチームを立ち上げました。

新たに発足したチームは、およそ40人で、地方農政局の人員も含めるとおよそ500人の体制になり、チームのトップは事務次官が務めます。

発足式に出席した小泉大臣は、「いま最も国民が求めているのは間違いなくコメの価格を安定させることで、安くおいしいお米を一日も早く消費者に届けるのが喫緊の課題だ。これ以上、高止まりをさせず、コメ離れを防ぐことで、農林水産省の責任を果たしていくためにどうか皆さんの力を貸してほしい」と述べました。

【ノーカット動画3分5秒 】対策チーム発足式の小泉農相

石破首相「消費者の不安 払拭されること期待」

石破総理大臣は総理大臣官邸で記者団に対し「非常にスピーディーな対応だったと思う。消費者が異様な高騰とも言うべき価格上昇に苦しんでいる状況に鑑みて一日も早く対応する必要があったという小泉大臣の判断であり、消費者の不安が払拭されることを期待している」と述べました。

その上で「諸費用を加えればもう少し高いかもしれないが2000円を目指して全力をあげている。随意契約という今までにない方法を活用することで実現する可能性は極めて高いと思っており政府としても実現するようあらゆる手だてを講じていく」と述べました。

【ノーカット動画2分22秒】

小泉農相「小規模スーパー対応できる体制作っていきたい」

小泉大臣は、詳細を公表したあと、記者団から、契約の透明性をどう確保するのか問われたのに対し「契約が整う段階で社名を公表していく。しっかり透明性を確保して世の中に説明をしていきたい」と述べました。

また、対象を大手の小売業者としたことについては「これから町のコメの販売店や、もう少し小規模なスーパーへの対応をどうするかという課題が絶対、出てくると思う。きょう発足したチームの人員を整え、そうしたところに対応できる体制を作っていきたい」と述べ、今後、売り渡し先の拡大も検討していく考えを示しました。

さらに今後のスーパーなどでのコメの販売について「これから店頭では、備蓄米ではない一般的なブランド米と、これまでの3回の入札で放出された備蓄米を使ったブレンド米、それに、今回、2000円のラインで放出される安い備蓄米という複数の選択肢を消費者の皆さんに提供できるのではないか」と述べ、大きく3通りの価格帯のコメが並ぶという見通しを示しました。

農水省が業者向け説明会 開催

随意契約での備蓄米の売り渡しに向けて、希望する業者からの申請の受け付けが始まり、26日夕方には、農林水産省による業者向けの説明会が開かれました。

業者向けの説明会は、26日午後4時からオンラインで行われ、今回、備蓄米の購入を検討している大手小売業者の担当者らが参加し、説明会のあと、購入の申し込みをするため、希望する量などを書き込んだメールを農林水産省に送っていました。

農林水産省は、26日から希望する業者からの申請を受け付け、契約が成立した業者から順次、備蓄米を引き渡していくとしています。

《備蓄米の売り渡し 小売業者各社の対応は》

ホームセンターなど展開 アイリスオーヤマ
大山晃弘 社長

「コメの価格が高騰する中でコメ離れが起きないか懸念があり、できるだけ値ごろ感のある価格で皆さんに食べていただきたいという思いだ。税抜き2000円で、まずネット通販で販売をしながら順次ホームセンターなどでも販売していきたい」

大手ディスカウントストア「ドン・キホーテ」などの運営会社
国内事業担当 初山俊也 常務
「コメは日本人にとって欠かせない食品だと改めて感じている。顧客に直接つながる小売業として期待に応えるためにも、迅速に店頭に並べられるよう、全力を尽くしたい」。

これまで備蓄米を使った商品を5キロ税込み3000円台で販売していましたが、売れ行きが好調なことから在庫が不足気味だということで、説明会のあと随意契約の申請を行う意向を明らかにしました。
契約の条件などを確認した上で、26日にも手続きを行うということです。

大手スーパー イトーヨーカ堂
農林水産省の説明会のあと、備蓄米の購入に向けて申請を行うことを決めたということです。今後、販売のスケジュールや方法について検討することにしています。

ネット通販大手 楽天
「契約の内容を確認しつつ対応していきたい」としていて購入の申請を検討しています。

LINEヤフー
前向きに検討しているとしています。

大手スーパー イオン
購入の申請を前向きに検討していて、全国の店舗にどのように配分するかなどについて詰めの調整を行っています。

首都圏や近畿地方中心にスーパーを展開 ライフ
コメを消費者に安く提供する必要があるとして、購入の申請を検討しています。

ただ各社の間では、備蓄米が玄米で納品された場合、店頭で販売する前に精米や袋詰めといった作業を専門の業者に委託しなければならないことから、費用がどの程度かかるかなどを精査する必要があるという声もあがっています。

専門家「価格は三極化してくる可能性」

宮城大学 大泉一貫名誉教授

政府の備蓄米が大手の小売業者に随意契約で売り渡されることについて、コメの生産や流通に詳しい宮城大学の大泉一貫名誉教授は「スピーディーに消費者に安いコメを届ける役割が備蓄米にはある。今回スピード感をもってこれまでのやり方を大転換したことは評価に値すると思う。政府としては安い備蓄米の放出によって高いコメの需要を冷やし安くしたいねらいがある」と話しています。

ただ、5キロで税込み4000円以上となっているコメの平均価格が大きく下がるかどうかについては「仕入れ価格が高くなっている。価格を安くすることは誰かが損切りをすることになりそれができるかどうかだ。政府は高いコメも安くなる可能性があると踏んでいるが、そうなる可能性は意外と少ないのではないかと懸念を持っている。高いコメは高いまま推移する可能性の方が大きいのではないか」と指摘しました。

そのうえで今後の価格の見通しについては「これから出される安い備蓄米と 今までに31万トン放出された5キロ3000円程度の少し高い備蓄米、それに普通に流通している4000円台のコメと、価格は三極化してくる可能性がある。5キロあたり2000円のコメを出すことによって、4000円台のコメの値段が下がっていくかどうかはまだ未知数だ。そのとおりになるかどうか、これは大いなる実験だと思っている」と話していました。

《農家・卸売会社などからの反応は…》

山形の農家「価格大暴落は避けてほしい」

山形県鶴岡市の農家 武田 壮一さん

山形県鶴岡市の農家、武田 壮一さんは、およそ10ヘクタールの田んぼで「つや姫」などを栽培し、JAに出荷するとともに、地元の弁当店や保育園などにも直接販売しています。

備蓄米の随意契約での売り渡しについて、武田さんは…
「現在の価格では、消費者がコメ離れを起こし農家もコメが売れなくなるという危機感を持っていたので、備蓄米を2000円程度にするという国の方針は理解できる」。

その上で、農家の収入も確保できるコメの価格の水準として「市場の平均価格は、5キロで3000円台半ばに落ち着いてほしい」と期待感を示しました。

一方、今後の農業政策については…
「国が増産へ動いているが、将来的に需要と供給のバランスが崩れて、価格が大暴落することは避けてほしい。国には今後のコメのあり方をしっかりと考えてほしい」。

福岡のコメ卸売会社「流通が心配」

コメの卸売会社「カネガエ」米穀部門長 森島一紗さん

福岡県広川町にあるコメの卸売会社「カネガエ」は、九州各地の農協や生産者から年間およそ1万2000トンの玄米を仕入れ、精米した上でスーパーなどに販売しています。

森島さんは、備蓄米の売り渡しの対象を大手の小売業者にした場合、精米を含めて店頭に並べるまでの作業が円滑に進むかどうかが課題になるとみています。

「ある程度の規模の精米機がないと、すぐには精米できないかなと思います。コメがうまく流れるか、流通が心配です」。

その上で、備蓄米の放出をめぐる政府の対応については…
「当初は20万トン出せばスタックしていたのが落ち着くというような話でしたが、いまはもう価格を下げるために放出するという、なにか目的が変わっているのかなと感じています」。

一方、卸売会社が必要以上にコメの在庫を確保しているのではないかといった見方に対しては…

「ためられるほどあったらいいんですけど。毎日何十トンと精米するので在庫はどんどん減っています。新米の時期までどうやって持たせるか、不安です」。

消費者からは価格低下に期待の声も

静岡市内の消費者からはコメの価格が下がることへの期待や、実際に備蓄米が行き渡るのか疑問視する声が聞かれました。

静岡市駿河区のスーパーでは26日、5キロのコメが税込み4600円から4700円ほどで販売されていました。

スーパーによりますと、4月か5月にかけて備蓄米を含むブレンド米140袋が入荷し、5キロ3800円余りで販売したところ、すべて売り切れたということです。

スーパーでは、今回、国が、随意契約で売り渡すとしている備蓄米が入荷できた場合はできるだけ早く店頭に並べたいとしています。

買い物に訪れていた70代の男性
「コメの価格をみると4000円から高いと6000円もして、家計も苦しい。5キロで2000円なら同じ金額で10キロ買えるので実現してほしい」。

40代の女性
「この価格が本当に全国に浸透するのか気になる。4人家族で1か月に10キロはコメを食べるので本当に価格が半分以下になれば家計にもやさしく助かる」。

赤坂真彦 店長
「コメが『高い』という声をいただいていたので、値段が2000円に下がれば消費者は喜ぶのではないか。供給が増えて値段も下がり、しっかりとコメが行き渡ればいいと思う」。

名古屋 NPO法人「寄付してくれる方が増えること期待」

NPO法人「セカンドハーベスト名古屋」 前川行弘理事長

名古屋市にあるNPO法人「セカンドハーベスト名古屋」は、食料品の寄付を受けて、生活に困っている人たちや福祉団体などに届ける「フードバンク」の活動に取り組んでいます。

26日は労働団体の「連合愛知」が組合員などから集めたコメや食品など合わせて450キロを寄付していました。

NPOによりますと、支援に必要なコメは年間でおよそ40トンですが、価格高騰を背景に寄付が減っていて、このままのペースだとことしの寄付は20トン程度にとどまる見通しだということです。

政府が今後、放出する備蓄米は、店頭での販売価格が税抜きで2000円程度に抑えられるという見通しを示したことについて、NPO法人の前川理事長は「コメの値段が安くなれば、寄付するハードルは下がるのではないか。コメを寄付してくれる方が増えることを期待しています」と話していました。

スペシャルコンテンツ