過疎化に悩む自治体からすれば羨ましい限り…ソフトバンクの育成施設ができた"無名の街"の劇的な変化
■安くない投資に見合う恩恵 水田によると、新人選手の契約金にかかる課税は、全体で4千万円ほど、多い時には6千万円近く入ってくることになるという。これは、他の自治体がいくらやりたいと思ってもやれることではない。プロ野球球団がある街の恩恵である。 球場などが建つ約7ヘクタールの土地は20年間の無償貸与。ファーム施設は開業後3年間の固定資産税放棄。それを“誘致への投資”と考えれば、そのリターンも、きちんと見込めるだけのシステムになっているわけだ。 さらに、市への転入者が1人でも増えることで、1人あたり数万円の、国からの交付税が増える仕組みになっている。5年に一度行われる「国勢調査」。この調査時の人口数に基づき、国は補助金や事業予算の配分を決めるのだ。 ドラフトの本指名、育成指名で、毎年15人程度の新人選手が入団してくる。地域包括連携協定に基づけば、そのルーキーたちはイコール、市への転入者となる。 市の収入の中で、地方交付税の割合は大きい。 毎年1月、新人選手の「転入手続き」を行う日がある。午前中に高卒選手、午後から社会人、大卒の選手に分かれているが、国民健康保険への加入は「親の扶養から離れるので、社会保険の喪失届を持ってきてくださいねと選手に言っても、なかなか分からないですよね」と水田。 ■新人選手は全員「筑後市民」 面倒な手続きとあって、高卒の選手の場合は、両親が寮見学に来るタイミングで、必要な書類の説明なども行うのだという。 以前は市役所の職員が寮に出向いていた。市民課の住民担当、国民健康保険、国民年金の担当者が出向き、書類の書き方を指導し、その場で提出してもらった後、市役所に持ち帰って手続きをしていたという。ところが昨今は「マイナンバーの関係で、市役所にある機械を通すしかないので、来てもらわないといけないんですよ」 水田のこうした説明にも、時代の流れを感じる。 こうして、鷹のルーキーたちが続々と「筑後市民」になっていく。 「自治体は人が増えて、交付税が上がってなんぼ、なんですよ。そこが増えない限りは、内部でいかに歳出抑制をしても、国から来る交付金が人口の減少に合わせて減るだけなんで、増減の帳尻が合うだけなんです。人が増えたら、全体のパイも増えていく。だから、人を増やさないといけない。他のところは、全体のパイが下がって、交付税も下がるので、苦労されていると思います」 ---------- 喜瀬 雅則(きせ・まさのり) スポーツライター 1967年神戸市生まれ。関西学院大学経済学部卒。90年に産経新聞社入社。94年からサンケイスポーツ大阪本社で野球担当として番記者を歴任。2008年から8年間、産経新聞大阪本社運動部でプロ・アマ野球を担当。産経新聞夕刊連載「独立リーグの現状 その明暗を探る」で11年度ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。17年7月末に産経新聞社を退社。以後はフリーランスとしてプロ野球界の取材を続けている。 ----------
スポーツライター 喜瀬 雅則