過疎化に悩む自治体からすれば羨ましい限り…ソフトバンクの育成施設ができた"無名の街"の劇的な変化
■市役所の担当者「奇跡的です」 その“減りゆく人口”を巡って、地方の各自治体での人口争奪戦は、激しさを増す一方だ。5年に一度行われる「国勢調査」の人口数に基づき、その人数分に定められた金額をかけたものが、国からの交付金になる。だから、一人でも人口を増やすことが、自治体にとっては死活問題でもある。 定住支援策や子育て世代への厚遇策など、いかにして自分たちの街に人を呼び込むか。住民サービスを手厚くすることによる競争だが、結局は減りゆく人口の取り合いであり、先行きはじり貧になるばかりだという。 その「人口減」というトレンドの中で、福岡県筑後市は、その逆の「人口増」という、他の自治体にしてみれば、羨ましい限りの現象が起こっている。 「平成30年(2018年)前後のところで、どの自治体も(人口の)将来勾配は全部右肩下がりになっているので、その中で維持、増加というのはほとんどない。なので奇跡的です。増えない中で増えているので。(ホークスが)その直接的原因かどうかは分かりません。その一部ではあるんでしょうけど。もちろん、全然それが関与していないとは、施策を推進している立場上は思っていないです。ただ、子育て支援策とかも、市長マニフェストとかでもやっていますので」 筑後市役所の商工観光課で、ホークスファーム事業推進担当を務める水田進は、慎重な言い回しで断言こそは避けた。それでも「それらも含めた中で、ホークスのことも入っていておかしくないですよね」と私が更問いすると、小さくうなずいた。 「おかしくないですね、はい。そう思いますね」 ■起爆剤としての「プロスポーツ」 ソフトバンクの育成施設「HAWKSベースボールパーク筑後」が本格稼働する前年、2015年の国勢調査で、筑後市の人口はその5年前より173人減の4万8339人。そこから一転、2020年の国勢調査で、筑後市の人口は488人増の4万8827人、世帯数も1373世帯増の1万8752世帯となった。 2015年から20年までの5年間で、全国の市町村の82%が人口減少している中で、たとえ500人足らずとはいえ、人口5万人前後の筑後市だと1%の伸び率になる。しかも2024年1月31日現在、住民台帳による人口は4万9259人、2万980世帯と、さらに増加傾向にあるのだ。 とはいえ、育成施設だ。1軍ではないのだ。 それでも「筑後」の名前が普及し、人口流入が増える。それはイコール、税収も増え、国からの交付金も増え、観光人口も増える。その起爆剤としての「プロスポーツ」という視点で見ると、筑後の育成施設が存在する効果は絶大なものがある。