「ヘイトを止めながら取材する」神奈川新聞石橋学記者の矜持 訴訟にも…レイシストを徹底的に非難する理由

2023年10月15日 17時00分 有料会員限定記事
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 在日コリアンに関する発言を「悪意に満ちたデマ」と記され名誉を毀損きそんされたなどとして、2019年の川崎市議選で落選した佐久間吾一氏(57)が神奈川新聞の石橋学記者(52)に対し、損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で東京高裁は今月、石橋記者の敗訴部分を取り消し、佐久間氏の請求を全て棄却した。新聞記者が起こされた異例の訴訟から、ヘイトスピーチとどう向き合うかを考える。(安藤恭子)

◆異例の裁判勝訴「取材の正当性認められた」

神奈川新聞の石橋学記者=川崎市内で

 今月4日、東京高裁808号法廷。「原判決中、控訴人敗訴部分を取り消す」。中村也寸志裁判長が主文を読み上げると、約40人で埋まった傍聴席から「よし!」と声が上がり、拍手が起きた。石橋記者は、報告集会で「差別の問題に、どっちもどっちはありえない。取材の正当性が認められた」と笑顔を見せた。
 訴訟は、19年に起きた2つの事案が名誉毀損に当たるかどうかが問われた。
 一つは同年2月の石橋記者の記事。ヘイトスピーチを繰り返してきた「在日特権を許さない市民の会(在特会)」の後継団体で、排外主義政策を唱えてきた「日本第一党」の幹部らが、川崎市内で開いた集会を報じた。
 4月の市議選出馬を控えた佐久間氏が集会で、川崎区の在日コリアン集住地区について「旧日本鋼管の土地をコリア系が占拠」「共産革命の拠点」などと発言。石橋記者は「悪意に満ちたデマによる敵視と誹謗ひぼう中傷」と記事で断じた。今年1月の一審横浜地裁川崎支部判決は名誉毀損を認めなかった。

ヘイトスピーチを警戒する人たち=9日、JR川崎駅前で

 控訴審で争われたのは19年5月、JR川崎駅前での街頭演説を巡るもう一つの事案だ。佐久間氏は16年のデモで公園を使わせなかった川崎市の決定はヘイトスピーチ解消法が根拠であるとし、施行前の法律を適用してはならない原則にてらして問題があると述べた。
 居合わせた石橋記者は、決定の根拠は市の都市公園条例にあると指摘。「そんなことも知らないで、市議会議員に出ようなんて本当に勉強不足」「デタラメ」と発言した。一審は「虚偽やデタラメと一方的に断じることはできない」として、石橋記者に15万円の支払いを命じた。
 石橋記者側は「意見や論評の範囲を逸脱していない」と控訴。高裁判決は、石橋記者の発言を「(佐久間氏の)社会的評価を低下させる発言」と認めつつも、事実を基礎としていて「違法な侮辱行為といえない」と一審判決を覆した。
 佐久間氏は閉廷後の取材に対し「残念。取材と称する演説妨害行為だったと思っている」と述べ、最高裁に上告するとした。
 神奈川新聞の秋山理砂・取締役兼統合編集局長は「今後もあらゆる差別根絶のための報道を続け、記者をサポートし『論評の自由』を抑圧する訴訟には屈しない」とコメントを出した。

◆ヘイトスピーチの源流は京都の事件

 ヘイトスピーチの源流は、09年の冬、京都市の旧京都朝鮮第一初級学校で起きた襲撃事件にある。在特会のメンバーらが学校前に押しかけ「日本から出て行け」「スパイ」などと怒号。中にいた子どもたちはおびえて泣いた。
 事件を取材してきたジャーナリストで元毎日新聞記者の中村一成さんは「ひどい現実があっても、16年にヘイト解消法が成立するまで、加入した国際人権条約を除けば日本に人種差別に対する指針はなかった。記者の主観で差別を差別と報じることが難しかった」と振り返る。
 報道が手をこまねいている間に、在日コリアンを攻撃するヘイトスピーチは東京や大阪から各地へと広がり、100人を超える規模のデモや街宣へと発展していった。中村さん自身も父は日本人、母は在日朝鮮人2世というルーツをもつ。 「石橋記者は自ら価値を判断し、...

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