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「1on1がうまくいかない」の正体とは?【お悩み相談会付き】 ~現場の声に寄り添う人事のための1on1リノベーション戦略~(全3記事)

「なんか話そうよ」では1on1は上手くいかない “意味のない時間”から“有意義な時間”にするために重要なこと [2/2]

適切な1on1により主体的でやりがいのある組織風土をつくれる

資料に戻ります。結論からお伝えしようと思っているんですが、1on1って、組織の心理的安全性にダイレクトに機能するパワフルなツール、なんでも言える職場を作ることができるツールだなと思いますね。

「心理的安全性」が最近流行りのキーワードですが、思っていること・感じていること・自分の意見がチームあるいはこの人にはなんでもしゃべれるなという安心感・安全な状態を形成するのに、ものすごく効果的に機能します。

ですが、1on1のやり方次第でうまくいったり、いかなかったりします。うまくいったら、つまり適切な1on1を職場に実現できたら、主体的でやりがいのある組織風土に変化させることが可能なんですね。

主体的であるというところが、とても重要です。もうちょっと言い換えると、チームのメンバーの主体性を引き出して、そのメンバー一人ひとりがやりがいを感じながら仕事をする風土になっていくということです。

ということで、いろいろな切り口でお伝えしていきたいなと思います。このセミナーでお伝えしたいのは2点です。

実際に1on1を始めたらどういう変化が起こるのかを、データでというかアンケート結果を使いながらお伝えしたいなと思います。

トレーニング前後のアンケート結果比較

関西の大手のエネルギー系の企業さんの営業部門のリーダーの方々17人を対象に、4ヶ月間ぐらいのトレーニングをやりました。そのトレーニングをやって、さらに2ヶ月半ぐらい間を置いて、「そのトレーニングが始まってから今と比較してどんな変化がありましたか?」というアンケートを取ったんです。

(スライドを示して)理想的なリーダーの姿が左側にいろいろと書かれているわけですね。例えば、メンバーから話しかけやすい上司である、話しかけやすい状態を作っているとか。重要ですよね。その他いろいろ、全部で19項目あるんです。その19項目について、プログラムに参加した当初から半年間で自分がどう変わったのか、自己認識を聞いてみたというのが、このグラフ。

どういう選択肢かは下のほうに出ています。悪くなった、あまり変わらない、もともとよかった、当初よりよくなったという4項目にしました。

現時点と半年前ぐらいを思い描いていただいて、「この項目は前より悪くなったなぁ」とか「あまり変わってない」とか。

あまり変わっていないということは、つまり、あまり良くないままだったということを示していますね。なぜかというと3つ目に、「もともと良かった」という項目を用意してあるからです。当初より良くなったという人は、もともとはあまり良くなかったけれど、前より良くなったという回答ですよね。

1on1のトレーニングでリーダーの自認は変わる

こうやってグラフを見てみると、当初より良くなったという人がものすごく多いんですよ。項目によってバラつきがありますが、対象者17人のうちかなりの割合の人がそれぞれの項目で、当初より良くなったとおっしゃっています。もともと良かったのを含めるとですね、かなりの割合で今がいい状態になっているという自己認識をしているということがわかりますね。

1on1をちゃんとやっていくと、少なくとも本人的には、前よりもいい上司になっていると認識しているわけですよ。単に1on1のトレーニングをしていただけです。あとで細かく説明しますが、「部下と定期的な会話をちゃんとやったらこう変わってきた」と本人たちは思っているわけですね。

(スライドを示して)この数字は黄色いところの上位5位までの順位です。上位のやつを集めたものをあとでご紹介しますが、とりあえずご本人たちはこういう変化を感じています。

部下からの評価も向上した

ご本人の認識は当てにならないとは言いませんけど(笑)。実際のチームメンバーから見たらどうなのかは、この人たちのコメントを見ていてもわからないので、対象者の部下の方々にアンケートを取りました。

母数は当然増えます。そうすると、黄色いところが先ほどより少ない結果になっています。本人が「変わったぜ!」と思っているほどには、部下からは変わっているように見えないという結果です。ただよく見ると、「もともと良かった」というのが、けっこうな割合を占めています。

部下から見ていて、もともとそんなに悪いとは思っていないという人が多かったわけですよね。ですが良くなったところもけっこうあるというのがメンバー目線ですね。

よく見てみると、例えば「話しかけやすいリーダーである」という項目について、「あまり変わらない」という人が5人いて、「当初より良くなった」という人が9人います。

つまり14人の人たちは、このプログラムが始まる前は話しかけやすいリーダーだとは思っていなかったということです。その14人の方のうちの9人が右側に移動したことになります。そう考えると、けっこうな変化を起こしていますね。

ということで、いろいろな切り口でアンケートを取っていますが、1on1をちゃんとやると、望ましいリーダーの姿により近づいていっていることがわかります。

1on1が有意義な時間に

メンバーの方々にはさらに複数回答可のかたちで「どうですか?」と聞いています。

「当初に比べてどんな変化を感じていますか?」ということですが、まず「リーダーと会話をする機会が増えた」というのがけっこう多いですね。つまりリーダーとの関係性が向上した。面談が有意義な時間になった。業務改善や課題解決など仕事が進むようになった。この4項目が多くの人が選択していることになります。

ですが、「仕事にやりがいを感じるようになった」までは、ほとんどいっていない感じではあります。ということなので、「1on1をやっていてなにか意味があるんですかね?」というと、この4項目を見ていただいたらわかるとおり、確かに価値が生じていることがわかります。

面談が有意義な時間になっているわけですから、やっていて良かった状態になっていると言えると思います。

自己認識の変化として大きかったもの

先ほどの上位5項目をリーダーとメンバーとで並べてみました。リーダーが自己認識として一番大きく変わったなと思っている項目を順に並べています。

まずは、「メンバーの伝えたいことをきちんと受け止めるようになった」ということですね。今まで受け止めていなかったという話なんですね。リーダーの方々はけっこう忙しいので、十分にメンバーの話を聞けていないことは多いなと思います。一人ひとりに期待を伝えていなかったけれど伝えるようになった。

それから、「メンバーはあなたの質問をきっかけに新しいアイデアや解決方法を思いつくことがある」。会話の中でメンバー自身がいろいろ気づくということですよね。そういう場が作れるようになった。

それから、「ちょっとした変化に気づいて声をかけている」。これはよく見ていないとできないんですよね。だから、よく見ている状態になっているということです。

そして、「感謝やねぎらいの言葉をかけている」というところも変化したわけです。それまではちょっと照れくさくて言えなかったとかの状態だったんですが、それを言えるようになったということでもあります。

1on1で重要なのは主体的な思考を引き出せるか

メンバー側はどうかというと、「私の目標や達成するための計画について相談に乗っている」というものが1位に来ました。これには私も、ちょっとだけビックリしました。この項目はあまり上位に来ないんですけど、この会社の場合は上位に来ました。おそらく1on1の中で仕事の内容について話を聞いてもらっている状態ができあがったんだろうなと思います。

そして、リーダーの3番目にも出ていますが、「質問をきっかけにいろいろ思いつく時間になっていた」ということですね。そして当然ですが、1on1で1対1で話す機会を定期的に確保しているはずです。プログラムの中でやりなさいとなっているので、確保されたということですね。リーダーの方々が一生懸命に取り組んだということです。

「リーダーの率直な指摘が私の仕事の改善や、やる気につながっている」。これはいわゆるフィードバックをちゃんとしているかどうかなんですね。「あなたってこう見えているよ」「ここが課題だよね」とかをちゃんと言うということです。それがメンバーにとって機能しているということを示しています。

それから「私の強みや弱み、個性を理解して関わってくれている」。これもよく見てもらっていることを示している項目で、ここも変わってきたと捉えられています。これは一言で言うと、リーダーとメンバーとの関係の質が変化してきているんですね。だから単に1on1をやって、「なんでも話そうよ」というだけではなくて、2人の関係が変わってきているということです。

それから、その話の中でいろいろ気づいたりするということは、思考の質も変わってきていることを、このアンケートの結果は示しているなと思います。なので1on1でとても重要なのは、メンバーの主体的な思考を引き出せるかどうか。単に「なんか話そうよ」だけではうまくいかないです。

相手に考えさせる。自分がどうするのかを決めさせるような会話をしないと、良い1on1にならないということなんですね。逆に言うと、今回のこの対象者の方々はそれが実現できていたので、こういう変化を起こしていることを意味しているなぁと思います。

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伝わらない理由は「知りすぎている」から:知識の呪いとそのメカニズム(全3記事)

「相手の立場になって考える」では認識のズレを解消できない 解釈の偏りをもたらす「思い込み」の発生を抑える方法 [1/2]

【3行要約】
・コミュニケーションの大敵「知識の呪い」は、自分が知っていることを相手も知っていると過大評価し、さまざまな業務場面で支障をきたす現象です。
・この現象は単に「相手の立場になって」と意識するだけでは解決せず、情報の流暢性から生じる根深い認知バイアスとして研究されています。
・効果的な対策は「もし理解していなかったら?」と逆の視点を持つこと。また組織の習慣として定着させ、準備の質向上などポジティブな側面も活用すべきです。

前回の記事はこちら

「相手の立場になって考える」では解決できない

伊達洋駆氏:「知識の呪い」をできれば抑制していきたいわけですが、「どうすればいいんだろうか?」ということです。ちょっとやっかいなのが、一般的に「こういうふうにしたら収まりそうだな」「『知識の呪い』を抑えることができそうだな」という方法があまり効かないことが、今までの研究の中で明らかになっています。

具体的には「相手の立場になって考えてください」といった指示をするだけでは、なかなかうまくいかないということなんですね。これはけっこう意外な結果ではないかなと思います。

例えばコミュニケーションの中で、「相手は情報を持っていません。情報を持っていない相手のことを、ちゃんと意識してくださいね」と明確に指示をされたとしても、「知識の呪い」はなかなか抑制できないというのが、実験研究の中で明らかになっています。「相手のことを考えてね」と言うだけでは、なかなかうまくいかないんです。

「相手の立場に立ってください」ということを「パースペクティブ・テイキング」と呼びます。相手の視座(パースペクティブ)を取る(テイキング)ということですね。この重要性は誰しも理解していると思うんですが、その重要性を理解したとしても、なかなか「知識の呪い」という認知バイアスを回避することは難しいんですね。

これは要するに何を意味しているかというと、意識するだけではなかなか防ぐことが難しい、より深い認知プロセスの中で処理されている現象が「知識の呪い」なんだということを示しているかと思います。

「説明責任の強化」や「慎重な判断」でも抑制できない

「では、どうしていけばいいんだろうか?」というところなんですが、1つヒントとなる研究をみなさんに紹介させていただきます。監査業務に関する研究です。経験豊富な監査人を対象とした実験を行いました。企業の破綻情報を事前に監査人が知らされていると、その破綻の兆候を過大評価してしまう傾向、「わかるだろう」と思ってしまう傾向があります。

すなわち、「知識の呪い」が確認されたわけですね。ただ、どの企業が破綻するかなんてことは、当然ながらわからないわけですね。ところが、結果を知っている、つまり知識を持っていると「知識の呪い」が発現してしまうわけですね。

じゃあ「知識の呪い」を抑制していくために、「説明責任を強化します」とか、あるいは「より慎重に判断してくださいね」と求める。よくあるというか、一般的に思いつくような介入を行っていくんですが、なかなか「知識の呪い」が抑制されません。

凝り固まった思考を緩和させる

ところが、1つ有効な方法というのがありまして、それが「反論を作成してください」「あえて逆のことを考えてみてください」という課題を与えた時に、「知識の呪い」が抑制されることが明らかになりました。

どういうことかというと、「破綻に至らなかった可能性のあるシナリオを考えてみてください」と言うと、「破綻することって、当たり前じゃないんだ」と思えるわけですね。

破綻という事実だけ知らされていると、「これはもう、絶対破綻するじゃないか」というふうに、その視点しか持てなくなってしまうんですが、「破綻に至らなかった可能性は、どういうふうなシナリオとして考えられますか?」と言われると、自分の凝り固まった思考が少し緩和されるんですね。

凝り固まった思考が緩和されるというところがすごく大事で、「そうか。これはみんなにとって当たり前というわけじゃないんだ」と思えるようになって、他のシナリオを考えられるようになるんですね。

そうすると、「知識の呪い」も幾分緩和される可能性がある。つまり、当たり前なんですが「いろいろな見方があるよね」ということを理解できるようになる。世界を知っていたり、知識を持っていたりすると、「これは当然こうだよね」と思ってしまって、それが流暢性につながって「知識の呪い」になっていくんですが。

「当然じゃないかも」と別の観点、つまり逆の観点から考えてみる。「もしも破綻しなかったら」とか、そういうふうに別のシナリオを考えてみると、自分の頭を柔軟にさせることにつながって、それが結果的に「知識の呪い」を下げていくところに結びついていきます。

想定シナリオとは異なるシナリオを考える

こうしたことは職場の中でいろいろな応用が効くのかなと思います。例えば重要な判断を下していく会議の前に、「この判断や、この情報が間違っていたらどうなるの?」みたいなことを考えてみる。そうすると、「これを知っているのは当然」「こういうふうにやるのは当然」と思う気持ちに対して、少しセーブをかけることができるんですね。

自分の知識とか持っている情報を、「当たり前なんだ」「これはみんな知っているよね」と過度に拡張してしまわないようにする。そのために、「自分の知っている知識が違っていたらどうするの?」みたいなことを考えていくと、思考が硬直化するのを防げて、結果的に「知識の呪い」を抑制していくことにもつながっていくわけです。

他にも、例えば部下とか同僚に説明していく時に、「これ、わかるでしょ」と思って説明していく。これに対して、逆の発想をぶつけていくわけですね。「相手が理解していない場合、どんな感じになるんだろうか」とかを想定してみるわけです。

「相手の立場に立ってくださいね」というのは難しいんですけど、「理解不足だった時にどんな状況になるのか」をシミュレーションしていくと、「説明の仕方を変える必要があるな」「もう少しちゃんと説明しないと駄目だな」とか、そういったことが見えてくるわけですね。

あるいは、ディスカッションを行っている時に、いわゆる「Devil’s Advocate」と呼ばれる、「悪魔の代弁者」の役を設定していくのも1つの手ですね。何か意見が出されていく時に、反論を組み込んでいくというか、「あえて反論を言うと」みたいな感じのことを言う役割の人がいると、「知識の呪い」が集団的に発生していくのを防いでいける可能性もあるわけですね。

「みんなわかっているでしょ」と思う傾向を防ぐことができます。要するに、自分が考えているシナリオとは違うシナリオを考えるのが、「知識の呪い」を抑制する方法だということですね。

組織の習慣として定着させていくことが重要

ただこうしたことは、1回だけやっても、効果が即座にずっと表れるわけではないので、うまく組織の習慣として定着させていくことが重要ではないかなと思います。反論を考えるとか、あるいは代替するシナリオを考えることが、日常的な業務の中に組み込まれていくことがやはり重要だと思うんですね。

例えばプレゼンを行う時には、「相手が理解できないとしたら?」という可能性について考えると、「あれ? ちょっと省略しすぎかな?」というふうに考えられるわけですね。

資料を誰かが作っている時に、「これ、相手が理解できないとしたら、どんな感じになりますかね?」と一言言うだけでもぜんぜん違う。そういう役割の人を設けておくというのが、1つ考えられるところかなと思います。

そして一方で、先ほど申し上げたとおり、「知識の呪い」は私たちの脳に深く刻み込まれた認知プロセスなわけですね。完全になくすのは非常に難しいというか、我々の認知処理のメカニズムそのものを変えていく必要があるぐらい、難しいわけです。先ほどの説明もあくまで抑制できるという話で、除去できるとか、あらゆる状況で完全になくすという話ではないわけです。

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