大阪・西成の訪問介護事業所「閉鎖強行」に労組らが怒りの抗議
白崎朝子・介護福祉士|2025年7月29日2:48PM
大阪市西成区「やまき介護すてーしょん」内の訪問介護事業閉鎖問題(※)で、経営元の社会医療法人山紀会(山本時彦理事長)は6月末に閉鎖を強行。同事業所の介護職の労働組合「ケアワーカーズユニオン山紀会支部」(全国一般全国協 福祉・介護・医療労働者組合山紀会支部)はこれに抗議し、7月10日午後1時から組合員3人が指名ストライキを行なうとともに同事業所と山紀会の法人本部前で支援集会を開いた。
「訪問介護閉鎖で施設入所した方がご飯を食べなくなり、どうしたらいいかとの相談の電話が施設からありました」「ヘルパーが代わることで体調を崩し、入院や入所した利用者がいたことを医師である理事長は理解していない」
当日は炎天下、利用者や支援者の見守る中で、訪問介護の管理者だった中尾さおりさん、デイサービス管理者の志賀直輝さんなど、現場を支える組合員たちの渾身の叫びが街頭に放たれた。猛暑にもかかわらずスト開始の30分前から現場に組合員や支援者ら約30人が集結。事業所前には猛暑対策のテントが設営されたが、法人側の管理職は支援者を敷地外へ排除。法人本部前でスト宣言の読み上げと申し入れを行なった後は、事業所で施設利用者も交え“ストライキかき氷”を食べたり炭坑節を歌ったりしながら交流を重ねたほか、「この場所をなんとか守ろう」「団結頑張ろう」と気勢を上げた。
「やまき介護すてーしょん」は、経済的に困窮した人や家族の支援がない利用者も積極的に受け入れてきた。他方でハラスメント行為が多い職場環境の改善などを求め2013年には労組が結成され、社会活動に無縁だった女性職員が多数加入したが、法人側はこれを監視するため同事業所に施設長を配置。施設長と職員の会話を秘密録音するなどの行為を続けた。
法人は府労委命令も無視
14年には事業所内のケアプランセンターが閉鎖され、法人からの利用者紹介が激減。特に訪問介護はほとんど紹介がなくなったため経営難に陥った。労組側は“西成区・住之江区介護事業所交流会”を運営し、他事業所からの利用者紹介で事業の安定化を図ったが、法人はこれも業務として認めず、コロナ禍では感染対策に集中するため労組が求めた労使紛争停止も拒否。組合活動を理由に二度の懲戒処分や損害賠償請求訴訟も起こした。労組は大阪府労働委員会に救済申し立てを行ない、これまで10件中8件につき不当労働行為として改善命令が出たが、法人は23年に管理者の一時金・定期昇給の評価を下げ、今年6月末に閉鎖を強行。ストは苦渋の選択だった。
今回、労組が法人に突きつけたのは①訪問介護閉鎖への抗議と団交への理事の出席要求、②法人内で発生した利用者の生活保護費の横領、架空請求等の事件の真相を明らかにせよ、③12年に及ぶ組合潰しへの抗議、の3点。志賀さんは「山紀会は社会医療法人。公益性が高く、税制優遇を受けるが、不当労働行為に加えて説明責任を果たさないのは憲法や労働組合法を無視した労働者への人権侵害、利用者への不利益な取り扱いだ」と憤る。障がい者ヘルパーの久保田順哉さんは府労委命令に法人が向き合わないことについて「命令の効力が弱いのも問題」と指摘。
山紀会支部の闘いは労働者も利用者も守れない行政・法制度の脆弱さを可視化した。労使紛争を超えた問題として認識されることを望みたい。
※『週刊金曜日』2025年4月25日号参照。
(『週刊金曜日』2025年7月25日号)