“名画座の閉館”相次ぐなか東京のど真ん中に「ミニシアター」が誕生 「岩波ホール」「ギンレイホール」の“遺伝子”を受け継ぐ

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「キミもオーナーになれる!」が始まり

 取材に応じてくれたのは、支配人の稲田良子さんと、副支配人の藤永一彦さん。おそらく、神楽坂にあった名画座「飯田橋ギンレイホール」のファンだったら、藤永さんの顔には見覚えがあるにちがいない。

「わたしは、もともと法律事務所に勤務する会社員だったのですが、映画が好きで、結婚前の夫とともにギンレイのファンで、年間パスポート会員でした」(稲田さん)

 ギンレイの年間パスポートは“名画座界”の名物システムで、いまでいう「サブスク」の先取りだった。

「そろそろ、人生の後半に差しかかり、何か新しいことを始めたいと思っていたところ、映画館オーナーになれるチャンスがあるけど……という話が舞い込みました」

 にわかには信じられない話だが、映画館とは「たまたまチャンスが舞い込んで始められる」事業なのだろうか。

「実は、その時の話は、あっさりなくなりました。ですが、いったん浮上してきた“映画館を始める”という考えは簡単には消えてくれず、あらためて一から自分で調べ始めました。ところが、先々で出会う方々が、みなさん、面白がってくれて、どんどん話が進んでいったんです。たとえば不動産屋さんに電話して相談すると、相手にされないどころか、『いまどき面白い話だ』と最初から協力的でした。そうやって、あちこちに相談するうちに、ギンレイホールの藤永さんとお知り合いになりました」

 藤永さんは、日本のミニシアターの草分け的存在、「シネ・ヴィヴァン六本木」を経て、「ギンレイホール」で長くつとめてきた、ベテランの映画館スタッフである。

「ギンレイは、あくまで建物の老朽化にともなう、“一時閉館”でした。実は、移転先も、すぐ近くで、かなり具体的になっていたんです」(藤永さん)

 たしかに館主の加藤忠さんは、2022年11月の閉館時、「このまま閉館はしません。いま、新しい場所の最終調整中です」と語っていた。しかし、諸般の事情で、いまだ実現には至っていない。

 そこで、藤永さんが、ひと肌脱ぐような感じで、「シネマリス」プロジェクトに参加することになった。

「藤永さんが加わってから、さらに具体的に進むようになりました。〈ヴィレッジヴァンガードお茶の水店〉の跡スペースという、奇跡的なまでに、広さも地の利もピッタリの場所が見つかりました。地下ですが、興行許可が下りるための諸条件も、なんとかクリアできました。ビルのオーナーさんが、文化芸術に造詣が深く、こういうポップ・カルチャー的な事業にたいへん理解のある方で、その点も、とてもうれしい出会いだったと思っています。小さいながらも、2スクリーンの映画館ができましたので」

 ええ? 「シネマリス」は、「2スクリーン」?

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