相続手続きや遺産の調査は、煩雑で遺族の負担が大きいもの。一方、これらを効率的に進めるための様々な制度も、近年スタートしています。今回はそれらの概要を紹介します。
すべての戸籍をまとめて取得【戸籍の広域交付制度】
相続手続きには、故人の出生から死亡までの連続した戸籍が必要になります。戸籍は結婚や法改正などで一生涯に複数作られることが多く、従来は遺族が故人の戸籍を過去に遡りながら探し、その後、それぞれの自治体に請求する手間がかかっていました。
2024年3月1日に始まった「戸籍の広域交付制度」を使えば、全国どこの戸籍でも、自分の戸籍に限らず、父母などの直系尊属や子や孫などの直系卑属の戸籍も、最寄りの市区町村役場の窓口でまとめて請求・取得できるようになりました。手数料も従来と変わりません。
ただし、相続人の立場であっても兄弟姉妹の戸籍は取得できません。また、郵送や代理人による取得はできず、請求する本人が窓口へ出向く必要があります。請求当日には交付されない場合がある点、対象外の戸籍も一部ある点など、自治体によって対応は異なります。事前に電話で確認してから請求した方が安心です。
預貯金口座の有無をまとめて照会【預貯金口座管理制度】
遺族が故人のすべての口座を探すのは一苦労です。通帳がないと、遺産分割協議や相続税申告が済んで1年以上たった後に、「他にも口座が見つかりました」ということも。
その対策として、2025年4月1日に始まった「預貯金口座管理制度」が使えます。生前に任意で、ひとつの取引金融機関の本人口座にマイナンバーをひも付ける申請を行うと、本人の希望により他の複数の金融機関の口座にも、まとめてマイナンバーをひも付けられるようになりました(預金保険機構を経由し、他の金融機関に連携する形がとられます)。
このひも付けは、マイナポータルを使って自分で行うこともできます。また、他の金融機関の口座にはひも付けないことも可能です。
もし生前に、口座名義人がこの手続きをしておけば、死後に相続人などが最寄りの金融機関で照会をかけることで、他の金融機関の口座情報も一括で取得できるようになりました。ただし、他の金融機関にも死亡の事実が知られ、口座凍結の可能性が生じる点に注意が必要です。
照会には5,060円(税込)の手数料がかかり、結果は後日郵送で通知されます。
生命保険契約の有無をまとめて照会【生命保険契約照会制度】
亡くなった親や配偶者がどんな保険に入っていたかを知っている人は、少ないかもしれません。
2021年7月から始まった「生命保険契約照会制度」を使えば、死後に相続人や遺言執行者などが、故人が契約者または被保険者になっている生命保険契約の有無を、生命保険協会を通して一括で調べることができます。
ただし、分かるのは「契約のある保険会社名」だけです。具体的な契約内容の確認や、保険金の請求手続きは、各保険会社に対しそれぞれ行う必要があります。
なお、現在3,000円の手数料は2026年4月1日以降、WEB申請が6,000円、書面申請が7,000円に改定される予定です(いずれも税込)。
証券口座の有無をまとめて照会【登録済加入者情報の開示請求制度】
ネット証券の利用が主流になり、紙の配当金支払通知書などが郵送されないことが増えたため、証券口座の把握もれも多くみられます。
証券保管振替機構(ほふり)の「登録済加入者情報の開示請求制度」を使えば、故人の相続人や遺言執行者などは、故人がどこの証券会社に口座を持っていたかをまとめて調べられます。
生命保険と同様、分かるのは「口座を開いていた証券会社名」だけなので、株式や投資信託などの保有状況や相続手続きの方法は、各証券会社に個別に問い合わせる必要があります。6,050円(税込)の手数料がかかります。
全国の不動産情報をまとめて取得【所有不動産記録証明制度】
現状、故人の不動産の所有状況は、その不動産が所在する市区町村から発行される「名寄帳」で確認しています。しかし、その管理は市区町村ごとで、全国もれなく調べる手段はなく、遠方の不動産は把握もれになってしまうことがありました。
2026年2月2日に運用が開始される「所有不動産記録証明制度」を相続人などが使えば、故人が所有していた全国の土地・建物の登記情報を、未登記のものを除き、最寄りの法務局で、一括で取得できるようになる予定です。
以上のような制度を活用すれば、故人の財産をよりスムーズに、もれなく把握できます。
とはいえ、申請に必要な書類はそれぞれ異なり、回答を得るまでに1か月以上の期間を要する手続きもあります。日程に余裕を持って、手続きを進めましょう。
執筆/福田真弓(税理士・生活設計塾クルー提携先)(発行日:2025/7/26)
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