すでにご存じの方も多いかと思いますが、現在、小説「教皇選挙」の翻訳を進めております。まだ正式な契約を交わしてはいませんが、ほぼ確実と言えるため、正式決定を待たず、すでに1回目の下訳を終えました。
この「教皇選挙」は、映画化され受賞作ともなっており、大変好評を博している作品です。私自身も映画を見ましたが、実に面白い!大ヒットして賞を取るだけのことはあります。そこで感じたのが「映画を見た人が、原作翻訳を読んだとき、映画と同等の面白さを感じていただける」ものにしなければならないということでした。映画を見てから翻訳を読む人も、英語原作を読んでから翻訳を読んだ人も、映画を見ておらず原作も読んでいないが、翻訳だけ読む人も、誰もがこの作品の情緒と深みと興奮を満喫して欲しいと思っています。
そのため、単なる言葉の置き換えではなく、自分自身に著者を憑依させ、登場人物の顔や性格、場面、建物などの風景が目に浮かぶような表現に苦心しています。本来、翻訳は、「翻訳されたものを読んでいる」という感触を与えず、「まるで日本人の作家が最初から日本語で書いたもの」を読んでいるような後味を残すべきなのですが、バチカンやローマ教皇という、カトリック教徒ではない日本人から見ると、日常から大きく隔絶した世界が描かれています。英語だけでなく、ラテン語も沢山出てくるのですが、「普通の英語」と「ラテン語」からの翻訳では文体を変え、ラテン語からや聖書からの引用など古風な言葉の味わいを出すべき箇所は、日本人にとっての「漢文の読み下し」のような非日常的な文体も活用します。
映画と比較すると、主人公の名前や出身地が、原作と変更になっていたりもします。また映画を見た人の記憶に残っている登場人物の名前(カタカナ表記)とずれが生じないように丁寧に突き合わせる必要もあります。カトリック関連の用語に馴染まない一般の日本人には、何を指しているのか分かりにくい用語も多いため、「カトリックの間で一般的」とされている日本語だけで通すと、意味がつかみにくいこともあり、一般読者がスムーズにストーリーを追うことができ、なおかつカトリックの方から用語の使用についてクレームが出ない配慮も必要です。
今回の仕事は、単に語数やページ数だけからその作業の重さを察することが困難です。しかし、取り組んでいて大変、楽しく興味深い仕事でもあります。最後まで妥協なく完成度の高い翻訳をお届けできるように最大限の尽力をして参ります。
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