ロシア軍がゆっくりと前進を続ける前線から約40キロ離れたウクライナ東部ザポリージャで、ロシアの占領下から避難してきた人々を支援するカトリック教会のコミュニティーがある。
教会はウクライナ軍や前線近くの村に人道的支援を提供するほか、シスター(カトリック修道女)らが戦渦から逃れてきた家族、特に子どもたちをいたわる活動を行っている。
教会コミュニティーに所属する少女の膝を治療するシスター・ベルナデッタ・ドベルニツカ。6月1日、ザポリージャにある聖バジル大聖堂の修道院で撮影(2025年 ロイター/Thomas Peter)
ロシア軍がゆっくりと前進を続ける前線から約40キロ離れたウクライナ東部ザポリージャで、ロシアの占領下から避難してきた人々を支援するカトリック教会のコミュニティーがある。
教会はウクライナ軍や前線近くの村に人道的支援を提供するほか、シスター(カトリック修道女)らが戦渦から逃れてきた家族、特に子どもたちをいたわる活動を行っている。
「子どもたち、特に小さな子どもが来ると、彼らは安心感を覚えて私たちにひっつき、ハグやぬくもりを求めてくる。新しく来た子は皆、そうした抱擁を必要としている」とザポリージャの聖バジル大修道院院長、シスター・ルキア・ムラシュコは言う。
修道院にはウクライナの国旗や兵士から送られてきたカードが飾られ、明るい雰囲気に包まれている。6月にはシスター・ルキアと2人の修道女が15歳の誕生日を迎えたエブヘンさんにお祝いのケーキを作っていた。エブヘンさんはロシア軍の占領下にあるメリトポリから母親と共に避難し、現在はザポリージャ市内のホステルで暮らしている。
ウクライナ・ギリシャ・カトリック教会(ウクライナ東方カトリック教会)はバチカン(ローマ教皇庁)の傘下にあり、東方教会に似た典礼風習などからこの名で呼ばれている。現在400万人以上の信者を要する同国最大のカトリック支部だ。
ウクライナ正教会が依然として同国最大の宗教ではあるものの、ロシアとの関係を巡る緊張の中、過去10年間で信者数は減少している。一方カトリック教会は信者を増やしており、ウクライナのシンクタンク、ラズムコフ・センターによると現在人口の12%に上るという。
カトリック教会は伝統的にウクライナ西部で広く信じられてきた。ただ、2014年にロシアが一方的に併合したクリミア半島や2022年の全面侵攻以降、大部分でロシアが領有権を主張するウクライナ東部にも信仰が広がっている。
ザポリージャ市はロシア軍の支配化に置かれておらず、占領地域から逃れてきた国内避難民の中心地となっている。同地では信者の増加に伴って市内にある木造の聖ボロディミル礼拝堂の増築が進められているほか、ローマ・カトリック教会もわずかに存在感を示しつつある。
6月の取材中、アンドリー・ブフバク神父による聖体典礼が礼拝堂で執り行われていた。金織物の法衣を着た3人の司祭と20人余りの信者が参列していたが、その多くは避難民だった。
ロシアは22年にザポリージャ州の大部分を占領して政権を樹立。同年12月6日、外国の情報機関のために活動したり、武器を保管しているとして、法令でウクライナのカトリック教会やカトリック慈善団体を法令で禁止した。
この法令では、教区民が「22年3ー4月にかけて発生した暴動や反ロシア集会に参加した」と非難している。
ロシアが占領地域で設置したザポリージャ州知事は、ロイターのコメント要請にすぐには応じなかった。
オレクサンドル・ボホマズ神父(36)は22年3月のロシア軍によるザポリージャ州占領後、2人の神父と共に沿岸の町メリトポリで9カ月間にわたって4つの小教区を取り仕切り、当局による弾圧後も避難できずにいた信者らの世話をしていたという。
「最終的に強制退去させられるまで、各地を転々としながら出来る限りの奉仕を続けた」
占領当時、ロシア当局は教会の礼拝に押し入り、信者の指紋を採取したという。ボホマズ氏は22年12月、尋問を受けたのち検問所に連れていかれ、ウクライナ支配下の領土に渡るよう命じられた。
ザポリージャ地域には、より過酷な扱いを受けた神父もいる。
ロシア軍は22年11月、メリトポリから沿岸沿いに100キロ離れた町ベルジャンスクでウクライナ・ギリシャ・カトリック教会を襲撃した。
アイバン・レビツキー、ボフダン・ゲレタ両司祭は、違法な武器所持の容疑で逮捕された。国連ウクライナ人権監視団の24年12月の報告書によると、同年6月の捕虜交換まで釈放されなかったという。教会は武器所持の容疑を否定している。
「聖なる闘い」
宗教は戦争と密接に絡み合っている。モスクワでは、ロシア正教会のキリル総主教がウクライナ戦争を支持し、「聖なる闘い」と称した。
ウクライナ政府は24年8月、少数派のロシア正教会系「ウクライナ正教会(UOC)」の活動を禁止。23年にはUOCのパブロ府主教に自宅軟禁を命じていた。UOC側は教会法上におけるロシア正教会とのつながりを絶っているとして、政治的な「魔女狩り」の被害者だと主張した。
米国務省が主導して設立された43カ国からなる「国際宗教または信条の自由同盟(IRFBA)」は、ウクライナでの広範な宗教迫害についてロシアを非難した。
IRFBAは2月の報告書で、ウクライナへの侵攻開始以降、ロシア兵がさまざまな聖職者67人を殺害したと述べているが、詳細は明らかにしていない。また、630カ所以上の宗教施設が被害を受けており、うち596カ所はキリスト教の教会だとしている。
ロイターはウクライナ当局が度々引用しているIRFBAの主張内容について、独自に確認することはできていない。ロシア外務省はIRFBAの報告が党派的かつ偏った情報だとして、いかなる行動も法律に基づいていると主張した。
ウクライナ東部にあるほとんどの教会を統括するウクライナ・カトリック教会ドネツク総主教区は、14年以降、ザポリージャに避難して活動している。77教区のうち36教区がロシア当局の管理下におかれているという。
24年に引退するまでドネツク総主教区長を務めていたステパン・メニオク司教(75)は、14年にロシア主導の分離派がドネツクを占領した際、教区を追い出されたと話す。その後メニオク氏はザポリージャに移住したという。
「多くの避難民がここを通過し、財産や人命について、数え切れないほどの喪失の話を聞いてきた」とメニオク氏は言う。両国の和平交渉に期待していると話を続けた。
前述のボホマズ神父は、ロシア当局が占領に反対の声を上げるウクライナ・カトリック教会を脅威とみなしていると話す。
「人々が暴行され、殺され、奪われ、破壊されているのを目の当たりにしている。われわれは人々に連帯する」
写真:Thomas Peter
取材:Thomas Peter、Aleksandar Vasovic
文:Aleksandar Vasovic、Frank Jack Daniel
写真編集:Marta Montaña、Maye-E Wong
編集:Alexandra Hudson、小島健太郎
デザイン:Marta Montaña、照井裕子
翻訳:大澤優花