中国の大学では、経済的に困難な学生を支援するため、学生食堂(学食)においてハイテクを活用した取り組みが進められている。
南京理工大学では、貧困と判断された学生に対し、学食専用の食事カードへ自動的に補助金をチャージする仕組みを導入している。対象となるのは当初、月60回以上食堂を利用し、総額420元以下の支出にとどまる学生だった。学生ごとの利用状況や個人差を考慮し、11.63元(1元≒20円)から340.53元までの金額がカードにチャージされる。チャージ後には「食事手当が届きました」とのメッセージがスマートフォンに送られる。
この基準では、1食当たりの平均は約7元となるが、現在の中国では10元以下で満足な食事を取るのは難しく、学食であっても7元ではぎりぎりの価格帯である。そのため、後に基準額は750元以下に引き上げられ、支援対象者は年間300人から600人程度に増加した。
この制度の特徴は、学生や保護者に対して貧困の証明書提出を求めず、審査も不要である点にある。公の場で自薦・他薦を行う必要がないため、メンツを気にして申請をためらうこともなく、手続きの煩雑さによって支援を受け損ねることもない。学食カードの利用データを活用することで、学校側は真に支援が必要な学生を正確に特定し、ひっそりと補助金をチャージすることで、学生の尊厳も保たれる。この仕組みは、資金調達のプロセス全体をより効率的かつシンプルにするものでもある。
中国メディアはこの制度について、人々が尊厳を保ちながら支援を受けられることこそが最高の優しさであり、そっと手を差し伸べるフォローこそが最高のケアであると高く評価している。
南京理工大学以外にも、同様の取り組みを行っている大学がある。西安電子科技大学では、デジタルとアナログの手法を組み合わせ、月60回以上学食を利用し、1日当たりの平均支出が8元未満の学生310人を特定。そのうち144人は既に貧困学生として登録されていたが、残りの166人は未登録だった。カウンセラーによる審査の結果、59人が質素な生活を送っていることが判明し、144人に加えて203人が支援対象となった。大学は1日当たり6元、1学期で計720元を学食カードに入金している。
杭州電子大学でも同様の制度が導入されており、キャンパス内で利用できるカードの食事回数が月50回以上、総額500元以下の学生に対して、申請不要で300元をチャージする形で支援を行っている。
このような制度の原型を作ったのは中国科学技術大学である。2004年に学生支援プログラムの運用を開始し、キャンパス内でのカード利用データの統計分析と各学部のカウンセラーとの連携により、経済的困難に直面している学生を把握し、毎月特別な財政支援を提供していた。2015年からは単一の基準を廃止し、学生部スタッフがビッグデータを活用した動的な評価アルゴリズムを導入。これにより、家庭の経済状況の変化を追跡し、支援対象者リストを定期的に更新できるようになった。この先行事例を全国の大学スタッフが学び、各大学が独自に制度を導入する流れが生まれた。
一方で、制度運用における課題も存在する。2023年には天津中徳応用技術大学で、選考スタッフが職権を乱用し、本当に支援が必要な学生ではなく、特定の学生を優遇して補助金を支給するという事件が発生した。また、中国科学技術大学でも、ビッグデータ導入以前には、システムを不正に操作して貧困学生を装い、補助金を受け取ろうとする事例があった。
さらに進んだ事例として、安徽師範大学では、大学システムによる自動分析により、入学時点で貧困学生を特定し、授業料免除や生活費支給、航空券代の負担などの支援を行っている。同大学では、各部門の業務システムを統合し、学生の提出物や消費記録、家庭の収入、住宅の面積などの個人データをもとに、9つの二次指標と79の観察ポイントを設計し、数理モデルを構築。動的にスコアリングを行い、支援が必要な学生を特定し、困窮度に応じてランク付けする仕組みとなっている。学生や保護者が補助金申請のための書類を提出する必要はないが、学食補助の事例と比べると、より多くの個人情報が活用されている点が特徴である。
- 山谷剛史(やまや・たけし)
- フリーランスライター
- 2002年から中国雲南省昆明市を拠点に活動。中国、インド、ASEANのITや消費トレンドをIT系メディア、経済系メディア、トレンド誌などに執筆。メディア出演、講演も行う。著書に『日本人が知らない中国ネットトレンド2014』『新しい中国人 ネットで団結する若者たち』など。