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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

発表を急がせるべきか

2010-11-03 | Weblog
投票後2日目(11月2日)、私は朝8時から、公邸で朝食会を開催した。前日の米国大使主催の朝食会に引き続き、チョイ代表と主要国大使に集まってもらい、意見交換である。

昨日(11月1日)一日待ったけれど、選挙管理委員会の発表がなかった。おそらく、全国2万ヶ所の投票所で行われた開票結果は、順次携帯電話などで、各政党の本部に集計されつつあるだろう。私たち外交団には、そのような連絡網はないので、どういう趨勢にあるのかさえ正確な情報が来ない。その趨勢次第で、これからの動きが大きく変わってくる。情報がない状態に置かれているのは、とてもつらい。だからまず、チョイ代表から最新の情報を得る。そして、国際社会の立場から、何をすべきか打ち合わせる。そのための朝食会だ。

「結果の趨勢は判明したのですか。」
やってきたチョイ代表を取り囲んで、誰もがまず何より知りたい情報である。チョイ代表が答える。
「それが選挙管理委員会では、まだ出ていないのです。手動で集計される調書作成に、思ったよりもずっと手間がかかっているようで、最後の地方集計所19ヶ所のうち、昨夜の段階でまだ5ヶ所しか調書が集まっていないという現状です。」

やはり、懸念があたったようだ。選挙管理委員会の正式発表まで3日かかるのは仕方がないとしても、趨勢くらいは言えるようになるだろう。確定数でなくとも趨勢を早くから発表しておけば、歪曲された情報に人々が踊らされる可能性を、最小限に抑えられると私たちは考えた。しかし、その趨勢さえ、2日目になっても出てこない。情報の無い状態が、長く続けば続くほど、風説や誤情報がとびかって、話がややこしくなる。

「でも、国連にだって、一枚ずつ調書の写しが来るわけでしょう。国連として開票結果は分からないのですか。」
かなり不安が募って、大使の一人が聞く。チョイ代表は、肩をすぼめて答える。
「来ていますよ。全国から、段ボール箱に詰められた写しが。でも、それらが全部集まったとしたら2万枚ですよ。それを皆整理して計算するにはそれこそ数日はかかるし、現実には国連にまで届いたのはまだその一部分でしかない。だいたいの趨勢については国連として把握しつつありますが、全国の結果の具体的数字はまだ出てこないのです。」

一方で、各政党は、全国2万ヶ所すべての投票所に監視員を送っているので、各投票所での開票結果を知る立場にある。おそらくもう数字を合算して、選挙結果についてかなり承知をしているはずだ。全国の開票結果はどうなるのか。正確な情報を手に入れていないのは、国連と、われわれ外交団だけなのか。そして、多くの一般市民もそうである。

「でも考えてみたら、どの政党も事実上開票結果を知っている、ということは、今回の選挙で負けることになる政党は、そのことをもう知っているということですよね。それで、国内のどこでも目立った騒動が起きている気配が無いということは、つまり、負けた候補者はもう選挙結果を受け入れているという、そういう良い兆候ではないですか。」
私はそう言って、楽観的な立場を開陳した。

いや、そんなに簡単な話ではないだろう、と他の大使が言う。
「負けそうな候補者と政党にとって、正式な結果が出る前に、何とかその数字をひっくり返そうとする誘惑が働くでしょう。つまり、不利な数字を覆すための、いろんな誤情報を流すかもしれない。」
別の大使も言う。
「投票結果がすでに分かっているとしても、もしそれが競り合っているとすれば、いろいろな工作の余地が出てきてしまう。」
皆は、おおいに心配をしている。

「そういう混乱を避けるためには、選挙管理委員会として、部分的にでも確定できている数字を、順次発表するなりして、変な数字が独り歩きしないようにしていく必要がある。外交団の強い意見として、さっそく選挙管理委員会に働きかけよう。」
そういう意見が、一人の大使から出た。透明性を確保し、公明正大な数字がだんだんに積み上がっていくようにしなければいけない、と言う。

私は、ちょっと違う考え方だ。
「でも、選挙管理委員会が数字を出すとしても、あまり外から圧力のように思われる働きかけをして、その結果、後で問題になるような数字を、選挙管理委員会が尚早に出してしまうことのほうが、より大きな問題でしょう。」
そして私は、コートジボワールの人々の英知を信じるべきだ、と言った。選挙管理委員会が、選挙結果を出すのに時間がかかるというなら、そうした現実を尊重して、待ってみることが必要だろう。そう主張した。

しかしやはり、選挙の結果について、何の説明もないまま日にちが過ぎることには、大きな危険があるという意見が強かった。その危険について、選挙管理委員会によく認識してもらわなければならない。大方の大使たちは、そう言った。私は、まあ皆がそう言うならば、あえて素直に従うことにした。選挙管理委員会が「数字を段階的にでも発表していく」ように、バカヨコ委員長に働きかけ、それと並行して、ソロ首相にも、状況が悪化しないように働きかえることになった。私は、バカヨコ委員長にこの方策を求めるのは気がひけたので、ソロ首相のもとに出かけるほうに加わった。

ソロ首相と外交団の会談は、午後3時から始まった。外交団の側から、ソロ首相に要望する。選挙には透明性の確保が最も重要だ。その点でもたつくと、人々はだんだん不安を感じ、あるいは混乱した動きを示し始めるかもしれない。それはとても危険なことである。だから、ソロ首相から選挙管理委員会に働きかけて、部分的ながらでも、選挙結果についての情報を出していくように求めてほしい。

ソロ首相は、私たちに対して、こう述べ始めた。
「投票が平穏に行われるかについて、私も正直いって大変心配していたのです。しかし、見てください。10月31日は、実に規律と秩序のなかで、無事に投票が終わりました。」
ほら、やはりコートジボワールの人たちを信頼してほしい、これだけ立派な投票をする国民なのだから、ということなのだ。このあたり、欧米諸国の大使たちは、心配し過ぎるあまり、コートジボワールの人々の自尊心を傷つけるところがある。

そして、ソロ首相は言った。
「選挙結果については、選挙管理委員会の権限と責任のもとにあるのです。私にできることは、選挙管理委員会の作業が進むように、励ますことだけです。今の不透明をおおいに懸念されることは理解しますけれど、これを乗り切るためには、選挙管理委員会が、誰にも異議が唱えられない、きちんとした数字を出すことが、唯一の要諦であると考えています。だから、私はむしろ、国民に対して、忍耐をもって、正式発表が出るまで静かに待つことが大事だ、と訴えています。」

私は、ソロ首相の言うとおりだな、と思った。そこに来ている大使に、順番に発言が促されたので、私はこう述べた。
「コートジボワールの人々が、高い投票率を記録し、平静のうちに投票を終えたことは、まさに国の誇りと威厳を高めました。だから、投票結果の発表においても、その誇りと威厳を損なうことのないように、全ての政治勢力に訴えることが重要だと考えます。ソロ首相が、選挙結果の数字を出すという選挙管理委員会の作業を、十分尊重したいという立場を取られることは分ります。それでも、数字以外のところで、つまり選挙結果をどう受け入れるかというところで、強い主導力を発揮していただきたいと考えます。」

ソロ首相は、各候補者にまさにその点を納得してもらわなければならない、と言った。自らもすでに、どのような結果になろうとも、選挙管理委員会の発表にきちんと従ってほしい、と3人の候補者に伝えている、だから外交団の大使方からも、同じ趣旨を伝えてくれないか。私たちは、ソロ首相に逆に要望されてしまった。

首相府からの帰り道、私はやはり、自分の見方が正しかったな、と内心思った。ソロ首相が言うとおり、選挙管理委員会がきちんと権威ある数字を出すまで待つ必要があるのだし、コートジボワールの国民は大人の心をもって、あと2日くらいは待てるだろう、と思った。だから、選挙管理委員会から発表が出てこなくても、何も混乱は起こらないはずだ。

ところが、夕方頃から様子が変になってきた。アビジャンの中心部の街路から、人という人、車という車が、忽然と消えてしまった。大使館の現地職員たちも、何やらそわそわしている。これはいけない。何かが起こりそうだ。現地の人々は、良くないことが起こる兆候を感じて、避難を始めたのだ。私は冷静にならなければいけない、と思った。まず、現地職員たちを早めに帰途につかせ、次いで大使館員たちにも帰宅するように促した。

私も、すぐに車に乗って、公邸に向かった。道を走っている車は、すでに疎らである。不安な気持ちを抱えて、公邸に着いた。早速、テレビをつける。するとそこに、マングー参謀総長の姿が映った。放送局から国民に呼びかけている。ああ、やはり戒厳令という話だったか。ところが、マングー参謀長の呼びかけの趣旨は、少し違っていた。

「先だっての日曜日、人々は規律と平静のもとに、素晴らしい投票を行いました。私は、皆さんとともに、これを祝いたい。ところが、今日になって人々は怖がっています。アビジャンの中心部は、すべての街路から人や車が消えてしまった。しかし、私は保証します。アビジャンだけでなく国内のどこにも、何らの異変はありません。携帯電話の簡易メールでは、あれが起こる、これが起こるというような偽情報が出回っています。でも、私は皆さんに言いたい。何もそういうことは起こらない。私たち正規軍は、国連軍、新勢力軍、リコルヌ軍と緊密な連絡をとっており、互いに相談することなしに、いかなる行動もとられることはありません。心配しないでください。平静な気持で、平常の活動を続け、選挙結果の発表を待ちましょう。」

クーデタや戒厳令などを怖れる心理が広がるのを目の前にして、軍の参謀長自身が、あわてて否定に努めて、人心の安定を訴えている。そこで私は悟った。クーデタや内戦を経験した人々は、私が想像する以上に、事態の急変の怖さを知っている。そういう経験をしたばかりの人々に、平静を保ってもらうためには、やはり情報がなければならない。投票結果について、選挙管理委員会が、ずっと黙り続けているのは、人々の憶測を呼び、不安をかきたてていた。やはり、多くの大使が懸念していたとおり、それは良くないことだったのだ。

夜8時のニュース報道のあと、ソロ首相が画面に現れた。つい先ほど、選挙管理委員会に数字を出させるのは難しい、というようなことを言ったばかりのソロ首相が、中継画面の中でこう言った。
「これから、選挙管理委員会により、現在までに判明している開票結果について、順次発表していきます。ただし、あくまでも部分的な結果です。」

そして、驚いたことに、選挙管理委員会の報道官が出てきて、県ごとの投票結果を読み上げ始めたのである。私たち外交団の懸念は、一般の市民こそが一番強く感じているものであった。人々が態度で反応し始めたのを見て、ソロ首相も選挙管理委員会も、建前にこだわってはいられなくなった。人々の無言の圧力こそ、物事を動かす一番の原動力になっていた。

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