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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

選管発表を待つ間

2010-11-02 | Weblog
投票日から一夜明けて、11月1日。カトリックの「万聖節」なので、コートジボワールでは国民の休日となっている。といっても、選挙に関係した全ての人々が、早朝から忙しく走り回っているはずである。

午前11時から、国連(UNOCI)のチョイ代表が、記者会見を行う。昨日の投票日についての、国連の感想を表明する。
「2週間にわたった選挙運動は、選挙への情熱と感情を高めるものであったと同時に、規律とフェアプレーの精神に満ちたものでした。そして歴史的な10月31日に、人々はその熱意のみならず、民主主義の精神を記したのです。人々は、平和と秩序のうちに、大挙して投票箱に向かい、意思を表明したのです。」

チョイ代表は、コートジボワールの人々を褒め称える。
「投票率は、世界でも例を見ない高さでした。そして、目につくような人権侵害事案は一切ありませんでした。単なる選挙でなく、危機からの脱出という文脈での選挙であるだけに、これらは特筆すべきことです。コートジボワールの人々は、大きな挑戦を見事に克服し、その政治が成熟していること、危機を終わりにしたいと考えていることを、世界に向けて示したのです。コートジボワールの人々に祝意を述べたい。今日こそ、コートジボワール国民であることを、誇りに思ってください。」

「さあ、選挙結果が明らかになる時が来ました。投票で表明された人々の政治的意思が、尊重されるであろうことに、私は些かも疑いを持ちません。投票結果についての立場を、非民主主義的な手段に訴えて表明する候補者など一人もいないことに、疑いを持ちません。」
そう、ほんとうの心配は、選挙結果の発表にある。さまざまな国で、選挙結果がどうなるかが分るころから、騒動が起こってしまっている。

「選挙管理委員会が、開票結果を速やかに発表することを、皆さんとともに待ちたいと考えます。」
チョイ代表は、冒頭発言をそう締めくくった。

日本で言う「選管発表」は、まだ出てきていない。それに日本の選挙のように、投票締め切り後、すぐに「当確」の花が咲き始めるのとはわけが違う。全国2万ヶ所以上の投票所で開票し、その結果を調書に書き込んだものを、順に上部組織に運んで届け、上部組織ではそれを集計して調書に書き込んで、さらにその上部組織に届け、最後にはアビジャンに辿り着く、という仕組みである。

まあ、日本とは違うと言うなら、気長に待つしかないではないか。ところが、その待つ時間が危ないのだ。なぜなら、全国2万ヶ所の投票所では、それぞれ各政党の代表者が出て、集計作業に立ち会っている。調書を作って、それを上部組織に届けるという、悠長な作業が行われている傍らで、それぞれの政党は、もう10月31日の深夜までには出てきた2万ヶ所の開票結果を、携帯電話などでアビジャンに連絡しているはずだ。つまり、選管発表が公式に出せるようになる前に、各政党の本部は結果を知る。そのときに、負けることが分った政党の本部は、おめおめと敗北を受け入れるだろうか。公式の結果発表を妨害するとか、歪曲した数字を流布するとか、もっと悪くすれば、チョイ代表が言うように、「非民主的手段に訴えて」選挙の結果を歪めようとするのではないか。

チョイ代表の記者会見をさかのぼること、数時間ほど前のことである。私たち外交団は、全国2万ヶ所からの情報などを持たないので、11月1日の朝時点では選挙結果がどちらに行くのか、殆ど分らない。分らない者どうし、情報を交換するために、米国大使の主催する朝食会に、主要国の大使たちが皆で集まった。チョイ代表も来た。いったい、どういう投票結果になるのだろうか。チョイ代表のところ、つまり国連には、全国2万ヶ所からの調書の写しが、1枚ずつ届くはずだ。だから、国連としてウエブサイトにそれを貼りつけていって、どの数字が正しいのか、国連としての数字を作って示すということを、米国大使が提案した。この提案に、チョイ代表は、ひとつやってみよう、と言っていた。どうなったのか。

「数字の混乱を避けるために、国連としても透明性のある形での調書の公開を行いたい。そう選挙管理委員会に申し入れました。そうしたら、選挙管理委員会はその考えに断固反対だ、と言ったのです。それが国連であれ、自分たち以外の者が開票結果について取り扱うということは、選挙管理委員会の権威を傷つける。そう言うのです。まさに、国連として、選管発表の権威を補強するために、この提案をしたのですがね。断固拒否されてしまいました。」
チョイ代表は、そう答えた。ウエブサイトの提案は、結局採用されなかったのだ。

「あの開票データの伝送システム、「シルス社」の情報伝達はどうなっているのですか。手作業による集計と並行して、通信による集計が行われるはずでしょう。選挙管理委員会が、それを先に使って、確定票数の選管発表ではないにしても「趨勢」を発表すれば、各政治勢力とも、下手な工作はできなくなるのではないですか。」
ドイツ大使が質問する。ああ、ドイツ大使は知らないのだ。「シルス社」のシステムの実態を。

選挙管理委員会の決定が二転三転して、結局、「シルス社」のシステムも使うけれども、基本は「手動で」、つまり調書を順次送付して加算作業を進めていくのだ、と決まった。そのときに、私たち外交団はみな、ああ何てことだ、正式結果発表まで数日はかかってしまう、と頭を抱えたのである。ところが、この話にはとんでもないオチが付いていた。

大使たちが集まって、この問題を議論し、選挙管理委員会は頭が固い、といって嘆きはじめた時、スイス大使だけが違う、と言いだした。
「ソロ首相が設置した、「シルス社」の選挙結果送信の保全と信頼性を確保するための、「技術専門委員会」では、スイスのもう一つの情報関連会社「クリプト社」が、技術的な支援をすることになりました。その関係で、私はそこでの検討の内容を知るめぐりあわせになったわけですけれど。」

そして、スイス大使が述べたことは衝撃である。
「伝えられていることと現実は、まったく違います。「シルス社」が既に4百ヶ所以上の結節点に設置していると巷間伝えられている通信機材は、まだ現場にも届いていません。ましてや、これを扱う手順を知る人は、誰もいません。つまり、選挙結果を伝達できると言われている通信網は、まだ紙の上に書いたものでしかないのです。このシステムを信頼することはできない、このシステムを使うわけにはいかないと結論付けた選挙管理委員会の決定は、土壇場での大混乱を回避する、たいへん賢明なものだったと言わざるを得ない。」

私は、北部のブアケに派遣している、日本の選挙監視団の分隊に連絡した。ひとつ、地方の集計所を覗いてみてくれ。そこに「シルス社」の機材が設置されているか、その通信について試験が行われているか。そうしたら、回答はスイス大使の指摘を裏付けるものであった。配備されるべき機材は、投票の前々日になってもまだ届いていなかった。そして、それを扱うべき人も分らなかった。投票日の当日にでも届くのだろうか。しかし、通電してデータ伝送試験もしないで、いきなり本番に使うわけにはいかない。結局、「シルス社」のシステムというのは、今回の投票には使えない代物だった。

とにもかくにも、投票結果を集計するのには、はじめから昔ながらのやり方、つまり手作業によるしかなかったのだ。ここでも、私たちは思考の罠にはまっていた。現代の通信技術が導入される、と聞いた途端に、そちらのほうが当然信頼できると信じてしまっていた。ところが、電気や電話回線や、機械を扱える人が存在するという、現代社会に当然である前提が、ここアフリカでは当然ではない。信頼できるのは「手動」だけなのである。だから、選管発表に3日かかる、というならば、それに頭を抱えても仕方がない。3日かかることを受け入れて、どうしのぐのかを考えるしかないのだ。

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