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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

投票日の長い一日

2010-11-01 | Weblog

いよいよ投票日(10月31日)である。朝起きて、すぐにテレビを付けた。朝6時半のニュースが始まる。
「ヨプゴン(注:アビジャンの下町地区)から届いた映像です。人々は、朝4時からこれだけ集まっています。」
そして、まだ暗いのに、大勢の人がすでに列を作り、カメラに向かって手を振っている。投票は朝7時からと分っているのに、これだけの人がもう待ちきれなくて、投票所にやってきているのだ。ほんの市井の人々が、選挙にここまでの熱意を見せている。

ドログバ選手が、テレビ画面に現れた。コートジボワール国歌の流れる中で、訴える。
「選挙にはフェアプレーを。フェアプレーで選挙をすれば、誰が勝とうが、勝利はコートジボワールのものなのだ。」
国民の英雄が、そう述べるなら、人々は言うことを聞くだろう。今日の投票には、第一に、たくさんの人々が出かけて、高い投票率をあげることが大切である。これだけ準備したのに、肝心のコートジボワールの人々が無関心、あるいは選挙に関わりたくないと考えるようではがっかりだ。それに加えて、第二に、選挙が自由で公正なもの、なにより暴力や衝突のないものでなければならない。

朝7時になったので、さっそく近くの投票所に出かけてみた。投票所は、高等学校の教室に設えてある。順調に投票が開始されただろうか。そうしたら、門の外にはたくさんの人々が集まっている。ところが、まだ門が開かれていない。私は、門を開けてもらい、中に入った。ここは高校の教室を使って、地区ごとの投票所を8ヶ所設けてある。どの投票所にも、すでに3人ずつの選挙係員がいて、それから投票箱と投票用の仕切り板がひとつずつ置いてある。日本が提供した選挙物資である。ちゃんと届いているではないか。そして、選挙係員が手順書を読みながら、これはこうして、とか議論しながら準備している。もう7時を15分以上過ぎているのに、まだ投票を開始できない。

そのうち、門が開かれて人々がなだれ込んできた。人々は選挙人票に書かれている番号の投票所に、順に到着してたちまち長い列を作った。準備がもたもたしているのは、とても残念だ。でも、これだけの人々が、こんな朝早くから投票所にやってきた。私は、コートジボワールの有権者たちの熱意を感じた。先ほどのテレビの映像といい、朝からこの調子なら、けっこう高い投票率になるのではないか。

そういう予感を感じながら、私はアビジャン空港に向かった。国連が外交団を対象に、地方の投票状況の視察をするために、国連機によるツアーを組んでいる。大使たちや各大使館の政務担当者たちは、5方面に分れて、それぞれのツアーに乗った。私は、西部方面を選んだ。行先は、サンペドロ(San-Pedro)、マン(Man)、ズアンウニアン(Zouan-Hounien)、トゥルプル(Toulepleu)の4ヶ所である。

午前10時すぎに、サンペドロに着陸。すぐに車で投票所に向かう。サンペドロの文化センターの建物の外に、おおぜいの人々が詰めかけている。8つの投票所が設えてあって、ここではすでに投票が始まっていた。投票は、次のような手順で行われている。

有権者は、事前に配られた「選挙人票」を持参して、受付に向かう。そこで「選挙人票」と引き換えに投票用紙を受け取る。投票用紙には、候補者14名ごとに、名前、顔写真、政党の名前と標章、そして空白の四角が、1枚に並んで印刷してある。有権者は、自分が投票する候補者の、空白の四角に、「×」と記すか、指で拇印を押す。投票用紙を折って、投票箱に入れると、それで投票が終わる。有権者は、投票が終わったことを示すために、小指に紫色のインクをつける。このインクは2~3日は消えない。同じ人が、二度投票しようとしても分るようになっている。そして、各人の投票が誰の影響も受けず。自由に行われていることを、各党の代表が来て監督している。

さて、文化センターを出て、近くの小学校の投票所を視察した。こちらでも、驚くほどの人出である。いつから並んでいるの、と子供を背中にくくりつけたお母さんに聞いてみた。
「朝からよ。列がぜんぜん進まないの。もう3時間も並んでいるわ。」
まわりの人々も、口々に列が進まないと不平を言っている。選挙係員が慣れていないし、一人一人間違いなく投票してもらうために、決められた手順はかなり手間がかかるものとなっている。選挙係員は、慎重に手続きを進めているので、どうしても一人当たりの時間がかなりかかる。

いずれにしても、ここでもたくさんの人々が、早朝から投票所に詰め掛けている。私は、コートジボワールの人々が、ここまで選挙を待ち焦がれて来たのだ、と素直に感心していたのである。そこで、情報が入る。
「早朝から大勢の人が来ているのには、理由があるようです。」
何、理由といって、それはもちろん、人々が選挙に熱意をもって取り組んでいるからだ。それ以外に、何の理由があろう。

「ある候補者の支持者が、とにかく朝から全員投票を済ませ、その後で暴力沙汰を起して、それ以外の候補者の支持者が投票に来られない、あるいは来ることを躊躇するようにするという作戦が指令されているという噂があります。」
あっ、そういう作戦があったのか。朝4時というような早朝から詰めかけていたのは、その候補者の支持者たちであったということなのか。とにかく自分たちの投票を済ませておいて、それから妨害行為を始めるのだ。つまり、午後くらいからあちこちで、妨害行為や衝突が始まる。これは大変なことになる。

懸念をかかえて、私たちは再び国連機でマンに向かった。マンで訪れた投票所も、すでに大勢の人々が列を作っていた。私は、数多くの女性が並んでいることに気づいた。この西部地域では、かならずしも女性の地位は高くない。多くの伝統的家庭の主人たちは、妻たちが外にでて社会的活動に参加することを、好ましく思わない文化がある。その中を、ちゃんと市民の権利と義務を果たすために、家庭を出て投票所に来ている。のみならず多くの女性たちは、乳飲み子を抱えている。乳飲み子を抱えて、朝からもう何時間も暑い日差しの中を1票のために並んでいるのだ。

マンの小学校の投票所で聞いた。朝に投票を始めようとしたら、ちょっとしたいざこざがあったという。
「対立する候補者の支持者たちが、投票所の前で口論を始めて、投票が妨害されそうになったのです。」
選挙係員の一人が、私に説明する。
「ところが、驚きましたね。並んでいたご婦人方が何人も出てきて、あんたたち、何を詰らないことを言っているのだ。さっさと出て行って、喧嘩は他所でやってくれ。あんたたちに、私たちの投票を妨害する権利はない、と。そしたら口論していた男たちは、すごすご引っ込みましたよ。」
私は思わず、拍手をしてしまった。

ふたたびマンの飛行場に戻り、こんどはヘリコプターに乗り換えて、ズアンウニアンとトゥルプルを順に訪れた。朝から見てきたような、大勢の群衆が投票所にいない。ああ、こちらでは投票率は低いのだな、と思って聞いてみたら、違う。
「もう、午後2時を過ぎているでしょう。皆朝から並んで投票して、おおかた済んだのですよ。」
選挙係員が、そう解説する。そして、有権者台帳を見せてもらった。おおかた署名や拇印で埋まっている。何人の有権者が来たのかを数えてもらったら、すでに投票率は8割を越えている。

「これはすごい。」
一緒にまわっているスイス大使が声をあげる。
「スイスでは、こんな高い投票率はなかなか難しい。このあいだの国会選挙など、投票率は5割しかなかった。そんな投票率、コートジボワールの前に、恥ずかしいね。」
私はあえて、日本の例を引くのを控えた。

私は、アビジャンやブアケで視察をしている、日本の選挙監視団の人々と電話で連絡する。あの噂の暴力沙汰は始まったか、と聞く。いや、全然。国連に入っている情報でも、西部で私が見たように、北部でも東部でも、各地でどんどん人々が投票にやってきて、高い投票率を記録しつつある。どこでも、誰も妨害行為をしているという連絡はない。そして、そのまま午後も遅くなった。暴力沙汰はおろか、妨害行為などはほとんど見られなかったようである。私は、何だか奇跡を見ているような気分で、国連機でアビジャンへの帰途についた。

さて、私が西部地方視察をしている間、日本の選挙監視団の面々も、1日中、アビジャン市内や周辺の投票風景を視察した。ブアケ分隊からも、視察結果の連絡がある。それらをまとめて、日本としてのとりあえずの評価を作る。そして、夜9時に国連(UNOCI)本部に赴いた。ここで、各国・機関の選挙監視団がみなで集まって、選挙監視の結果についてお互いに情報交換をし、今回の投票を妥当なものであると考えるかについて、評価を出しあうのである。

チョイ代表が真ん中に座り、ここでの評価の様子は、ニューヨークの国連本部の会議室と映像中継で繋がり、議論はそのまま国連の平和維持活動局に伝わる。

(カーターセンター(米国)):「我々の予想を越えた、劇的な選挙であったと言えるだろう。全国で選挙への熱狂が示されながら、何らの怒号が聞こえなかった。コートジボワールの国民にとって、偉大な日となった。」

(仏語圏機構):「嬉しい驚きである。コートジボワールの有権者は、平静を保ちながら情熱を示した。人々は投票のために、3時間以上並んだのだ。その忍耐力はすごい。いくつか不具合があったことは確かであるが、これらは瑣末である。大きな目で見れば、素晴らしい選挙だったと言ってよいだろう。」

(西アフリカ通貨同盟):「平和で透明性のある選挙であった。コートジボワールの人々は、平和に向けて歩んでいく力があることを示した。」

(米国大使館視察団):「コートジボワールの国民は、実に賢明な国民であることを示した。おそらく7割を越える高い投票率を達成したことは、ほんとうに驚きである。」

(欧州連合(EU)):「明後日にまとめを発表するので、それまでコメントは控えたい。」

おおむね、今回の選挙の結果を、予想外に良いものであったと捉えている。日本の監視団も、同じ趣旨の発言をした。私は、自分の目で見て回ったことが、ほかの選挙監視団の人々の感想とも軌を一にするものであるので、とても安心した。それとともに、これだけ褒められたコートジボワールの人々の選挙行動に、こっそり得意な気持ちを持った。やったじゃないか、わがコートジボワールよ。

投票日の長い一日が終わった。コートジボワールの国民は、ほんとうに皆が選挙を待ち望んでいたのだ。投票に行けることを、心から喜んでいたのだ。こんなに選挙を大切に思っている人々を前に、コートジボワールに民主主義が実践できるのかと、片時でも疑ったことを、私は恥じた。

 サンペドロの文化センターが、投票所になっている。

 文化センターの中

 これが投票用紙

 選挙人票を、有権者台帳と照合する。

 仕切り板の陰で、投票用紙に記入する。
仕切り板は、日本の供与。

 投票箱に投票する。
投票箱は、日本の供与。

 投票したら、指にインクを付ける。
インクは、日本の供与。

 選挙係員が手にしている、手順書。
研修にも日本が資金を出したので、日の丸が描かれている。

 サンペドロの小学校では、たくさんの人が待つ。

 朝から待っているのだ、と口々に言う。

 赤ちゃんをかかえているご婦人は、待たされて大変だ。

 マンでも多数の人が順番を待つ。

 ズアンウニヤンでは、投票が順調に進んでいる。

 有権者台帳には、投票済の印が並ぶ。
投票率は8割以上だ。

 投票箱にも、投票用紙がたくさん詰まっている。

 トゥルプルでは、もう午後3時なので、投票はおおかた終わって人影もまばら。

 夜9時からはじまった、選挙監視団の評価打ち合わせ会合
一番右はチョイ代表
後ろには、ニューヨークの国連本部とのテレビ会議映像


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2 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

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Unknown (かじみさ)
2010-11-01 22:28:31
おお、bravo!  exciting であることね。 続きのプロセスも見守ってます!
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感謝です (トク)
2010-11-05 01:40:05
はじめまして。

Ivorianの友人からこの選挙に対する日本のたくさんの支援にとても感謝していることを伝えてほしいと頼まれましたので、この場をお借りしてお伝えいたします。

お互いの都合がつけばチャットをしているのですが、そのやり取りの中でそう言われて、ちょっと感動してしまいました。

決着がついたわけではないようですので、まだまだ楽観はできないでしょうが、誰もが結果に従って、新しい大統領の下で一丸となって、再建してほしいと心から思います。
そうでないと、日本の支援も水の泡になってしまいますから・・・。
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