投票が順調に、かつ平穏に行われるか、という問題もさりながら、投票が締め切られた後、投票結果発表までの手順が円滑に進むか、という問題も重要なのである。つまり、各投票所で、各政党の代表者立会いのもとで、厳正に得票数が数えられる。その数が調書に記入され、立会い人全員により署名され、そしてその調書が地方の選挙管理委員会を通じて、中央の集計所に送られる。全国に、投票所は20073ヶ所、そして地方選挙管理委員会は415ヶ所ある。その全ての結節点で、投票終了後速やかに、作業を進めなければならない。
この手順を円滑かつ迅速に行う、そして選挙結果を開票場所から中央に至るまでしっかり保全するために、最新の通信技術を用いる、ということになっていた。つまり、地方の選挙管理委員会で、開票の結果を書き込んだ調書を、映像として読み込んで電子データにして、中央の選挙管理委員会まで送信する。その通信には厳重に秘匿をかける。開票データは、数時間のうちに中央に集まり、結果発表が行えるようにする。そういう通信網を全国の選挙管理委員会に構築する仕事を、選挙管理委員会が「シルス社(Sils Technology)」という会社に委託していた。
ところが、土壇場になって、この「シルス社」には中立性に問題がある、という疑義を、選挙管理委員会の一部の委員が唱えはじめた。つまり、「シルス社」はここの「開発技術公社(Bnetd)」と関係の深い会社であって、そしてこの「開発技術公社」の総裁は、バグボ大統領の側近ではないか。「シルス社」が現代の通信技術と称して導入するソフトのなかに、バグボ大統領に有利なように票の工作をする仕組みが、組み込まれていないとは限らない、というのだ。選挙管理委員会の委員のなかで、野党つまり、ベディエ候補(民主党)、ウワタラ候補(共和連合)の政党から来ている人々が、この疑義に賛同した。
そういう疑義があったのなら、もっと前から問題にすべきで、なぜ今ごろ言いだすのだ。もう、投票日までわずか2週間というような時期になって、今さら投票結果の集計作業を任せられるような会社を、別に探し出すわけにはいかない。その「シルス社」を使わないというなら、すなわち他の会社を探すというなら、また何週間も必要ということであり、つまりは投票日を延期しろということなのか。
新聞でさらに議論が昂じ、どうなることやらと思っていたら、とうとう選挙管理委員会が特別会合を開き、「シルス社」のシステムは使わない、と決定を下した(10月21日)。何ということだ、そうすると、別の会社を探すために、投票日を延期するというのか。いや、投票日は動かさない。10月31日にちゃんと投票する。そうしたら、どうやって集計データを運ぶのだ。
「手動で」
というのが、あわせて下された選挙管理委員会の決定である。つまり、全国20073か所の投票所で開票作業をしたあと、その結果を調書に書いて封筒に入れ、それをアビジャンまで運んで、アビジャンで集計をするという。
何ということだ、と私よりももっと激しく、頭を抱えた人がいる。チョイ国連代表である。チョイ代表は、翌日いそいで主要な大使連中に声をかけた。私も含まれている。昼食のテーブルを囲んで、チョイ代表は私たちに説明する。
「これはたいへん悪いニュースです。投票の直後に開票し、全国の集計結果を即座にアビジャンに送信して、間髪をおかず選挙結果を発表する、というのが、混乱を避けるための要諦でした。だから、「シルス社」のシステムを導入したのです。しかし、それを使わず、データを人が運んでくる、それを手で計算するということになると、3日はかかる。その間に、非公式な結果が流布されたり、勝手に勝利宣言をする候補者が出たりして、混乱に陥るのは必至です。」
「今になってこの問題が取り上げられたのには、野党候補者側の、バグボ大統領側への根強い不信感があるのです。バグボ大統領は、投票結果を自分たちに有利なように改竄する、秘密の工作をしているに違いない、と。その不信感があるから、「シルス社」が大統領側と近しいらしい、という情報が出るや、野党側の委員たちはその疑惑に飛びついた。そうか、そういう陰謀だったのか、と。このシステムがどれだけ信頼でき、トーゴの大統領選挙など各地の選挙で使われて、有用性が実証されているものか、というような専門的な分析をすっ飛ばして、「シルス社」を排除するという決定に至ってしまった。」
しかし、そもそもの話として、投票結果に改竄とか散逸とかの工作が加えられる余地を最小限にするために、このシステムが導入されたのでしょう。むしろ野党の懸念に応えるためのシステムではないですか。それを拒否したら、選挙結果の保全が不十分になり、つまりは選挙の中立性・公正性が危うくなって、それは野党が自分で自分の首を絞めるような話ではないですか。私がそう質問すると、チョイ代表は、そう、その通り、と言う。
「野党側は、そこのところが分っていない。私はウワタラ候補を直ちに会って、そのところを強く説得したのです。今そんなことを言い出すと、選挙そのものが危うくなるぞ、と。ウワタラ候補は、そうだ、その通りだと納得していたのですけれどね。昨日になって、選挙管理委員会では、やはり「シルス社」は大統領側に有利になるように考えているに違いない、そのシステムは拒否するという結論になってしまった。」
チョイ代表は、頭を抱えている。
「シルス社」をそんなに疑うなら、新しい会社を探す必要がある、そのために例えば2週間ほど投票日をずらすということにすればどうですかね、と別の大使が質問する。チョイ代表は、問題外という顔をする。
「駄目です。今のところ、10月31日の投票日を動かしたいと思っている政治勢力がいても、選挙を熱望する国民の前に、誰も言いだせない。国際社会が、投票日を動かしたほうがいいんじゃないか、と言い出せば、これ幸いと使われてしまいます。そして、もし延期に反発する人々がいて、衝突でも始まろうものなら、国際社会が混乱を作りだしたことになってしまう。だから、絶対に駄目。」
その場に集まっていた大使連中の間で、とにかく野党関係者に働きかけ、「シルス社」を排除するというのは野党側に損な決定なのだ、だから再考すべしということを説得する、ということになった。やれやれ、世話の焼けることだ。その日の夕刻になって、米国大使から私のところに電話がかかってきた。
「あれから後、ソロ首相に会う用事があったので、私は強く言いましたよ。「シルス社」排除の決定を野党が下した以上は、選挙が失敗した場合の責任は野党側にある、と言わざるを得なくなる。そう野党側の首脳に、伝えてくれ、と。ウワタラ候補とベディエ候補に、これを直接話す機会があればいいのだが。日本大使、あなたにそういう働きかけのチャネルはありませんか。」
私は、ウワタラ候補、ベディエ候補は選挙活動で国中を飛び回っていることだろうし、本人に働きかけても、このような一見技術的な話がすぐに理解されるとは思わない。むしろ、野党の有力幹部を説得したほうがいい、野党幹部なら、何人か知っているので、私も働きかけてみよう。週末には出張を控えていて動けないので、月曜日からやってみる、と答えた。
私が動き出すまでもなかった。日曜日(10月24日)にソロ首相が声明を出して、この件は一件落着となった。
「首相は、選挙管理委員会の決定に対して、最良の妥協案を探るため、本件に関与することとした。首相は、「シルス社」の選挙結果送信の保全と信頼性を確保するために、選挙管理委員会、周旋者(ブルキナファソ大統領)代表、国連(UNOCI)の選挙監視員、スイスのもう一つの情報関連会社「クリプト社」からなる、技術専門委員会を設置することを提言する。」
つまりは、新しい委員会によってその信頼性をきちんと監督しながらも、引き続き「シルス社」のシステムを使うということである。少し冷静に考えたら、野党側にも自らの考えの誤りが分ったのだろう。米国大使の「脅し」がきちんと奏功したのかもしれない。いずれにしても、投票後3日以上も結果を公式発表できないという、宙ぶらりんな状態になる事態は回避されそうだ。私は胸をなでおろしたし、きっとチョイ代表も胸をなでおろしているはずである。
この手順を円滑かつ迅速に行う、そして選挙結果を開票場所から中央に至るまでしっかり保全するために、最新の通信技術を用いる、ということになっていた。つまり、地方の選挙管理委員会で、開票の結果を書き込んだ調書を、映像として読み込んで電子データにして、中央の選挙管理委員会まで送信する。その通信には厳重に秘匿をかける。開票データは、数時間のうちに中央に集まり、結果発表が行えるようにする。そういう通信網を全国の選挙管理委員会に構築する仕事を、選挙管理委員会が「シルス社(Sils Technology)」という会社に委託していた。
ところが、土壇場になって、この「シルス社」には中立性に問題がある、という疑義を、選挙管理委員会の一部の委員が唱えはじめた。つまり、「シルス社」はここの「開発技術公社(Bnetd)」と関係の深い会社であって、そしてこの「開発技術公社」の総裁は、バグボ大統領の側近ではないか。「シルス社」が現代の通信技術と称して導入するソフトのなかに、バグボ大統領に有利なように票の工作をする仕組みが、組み込まれていないとは限らない、というのだ。選挙管理委員会の委員のなかで、野党つまり、ベディエ候補(民主党)、ウワタラ候補(共和連合)の政党から来ている人々が、この疑義に賛同した。
そういう疑義があったのなら、もっと前から問題にすべきで、なぜ今ごろ言いだすのだ。もう、投票日までわずか2週間というような時期になって、今さら投票結果の集計作業を任せられるような会社を、別に探し出すわけにはいかない。その「シルス社」を使わないというなら、すなわち他の会社を探すというなら、また何週間も必要ということであり、つまりは投票日を延期しろということなのか。
新聞でさらに議論が昂じ、どうなることやらと思っていたら、とうとう選挙管理委員会が特別会合を開き、「シルス社」のシステムは使わない、と決定を下した(10月21日)。何ということだ、そうすると、別の会社を探すために、投票日を延期するというのか。いや、投票日は動かさない。10月31日にちゃんと投票する。そうしたら、どうやって集計データを運ぶのだ。
「手動で」
というのが、あわせて下された選挙管理委員会の決定である。つまり、全国20073か所の投票所で開票作業をしたあと、その結果を調書に書いて封筒に入れ、それをアビジャンまで運んで、アビジャンで集計をするという。
何ということだ、と私よりももっと激しく、頭を抱えた人がいる。チョイ国連代表である。チョイ代表は、翌日いそいで主要な大使連中に声をかけた。私も含まれている。昼食のテーブルを囲んで、チョイ代表は私たちに説明する。
「これはたいへん悪いニュースです。投票の直後に開票し、全国の集計結果を即座にアビジャンに送信して、間髪をおかず選挙結果を発表する、というのが、混乱を避けるための要諦でした。だから、「シルス社」のシステムを導入したのです。しかし、それを使わず、データを人が運んでくる、それを手で計算するということになると、3日はかかる。その間に、非公式な結果が流布されたり、勝手に勝利宣言をする候補者が出たりして、混乱に陥るのは必至です。」
「今になってこの問題が取り上げられたのには、野党候補者側の、バグボ大統領側への根強い不信感があるのです。バグボ大統領は、投票結果を自分たちに有利なように改竄する、秘密の工作をしているに違いない、と。その不信感があるから、「シルス社」が大統領側と近しいらしい、という情報が出るや、野党側の委員たちはその疑惑に飛びついた。そうか、そういう陰謀だったのか、と。このシステムがどれだけ信頼でき、トーゴの大統領選挙など各地の選挙で使われて、有用性が実証されているものか、というような専門的な分析をすっ飛ばして、「シルス社」を排除するという決定に至ってしまった。」
しかし、そもそもの話として、投票結果に改竄とか散逸とかの工作が加えられる余地を最小限にするために、このシステムが導入されたのでしょう。むしろ野党の懸念に応えるためのシステムではないですか。それを拒否したら、選挙結果の保全が不十分になり、つまりは選挙の中立性・公正性が危うくなって、それは野党が自分で自分の首を絞めるような話ではないですか。私がそう質問すると、チョイ代表は、そう、その通り、と言う。
「野党側は、そこのところが分っていない。私はウワタラ候補を直ちに会って、そのところを強く説得したのです。今そんなことを言い出すと、選挙そのものが危うくなるぞ、と。ウワタラ候補は、そうだ、その通りだと納得していたのですけれどね。昨日になって、選挙管理委員会では、やはり「シルス社」は大統領側に有利になるように考えているに違いない、そのシステムは拒否するという結論になってしまった。」
チョイ代表は、頭を抱えている。
「シルス社」をそんなに疑うなら、新しい会社を探す必要がある、そのために例えば2週間ほど投票日をずらすということにすればどうですかね、と別の大使が質問する。チョイ代表は、問題外という顔をする。
「駄目です。今のところ、10月31日の投票日を動かしたいと思っている政治勢力がいても、選挙を熱望する国民の前に、誰も言いだせない。国際社会が、投票日を動かしたほうがいいんじゃないか、と言い出せば、これ幸いと使われてしまいます。そして、もし延期に反発する人々がいて、衝突でも始まろうものなら、国際社会が混乱を作りだしたことになってしまう。だから、絶対に駄目。」
その場に集まっていた大使連中の間で、とにかく野党関係者に働きかけ、「シルス社」を排除するというのは野党側に損な決定なのだ、だから再考すべしということを説得する、ということになった。やれやれ、世話の焼けることだ。その日の夕刻になって、米国大使から私のところに電話がかかってきた。
「あれから後、ソロ首相に会う用事があったので、私は強く言いましたよ。「シルス社」排除の決定を野党が下した以上は、選挙が失敗した場合の責任は野党側にある、と言わざるを得なくなる。そう野党側の首脳に、伝えてくれ、と。ウワタラ候補とベディエ候補に、これを直接話す機会があればいいのだが。日本大使、あなたにそういう働きかけのチャネルはありませんか。」
私は、ウワタラ候補、ベディエ候補は選挙活動で国中を飛び回っていることだろうし、本人に働きかけても、このような一見技術的な話がすぐに理解されるとは思わない。むしろ、野党の有力幹部を説得したほうがいい、野党幹部なら、何人か知っているので、私も働きかけてみよう。週末には出張を控えていて動けないので、月曜日からやってみる、と答えた。
私が動き出すまでもなかった。日曜日(10月24日)にソロ首相が声明を出して、この件は一件落着となった。
「首相は、選挙管理委員会の決定に対して、最良の妥協案を探るため、本件に関与することとした。首相は、「シルス社」の選挙結果送信の保全と信頼性を確保するために、選挙管理委員会、周旋者(ブルキナファソ大統領)代表、国連(UNOCI)の選挙監視員、スイスのもう一つの情報関連会社「クリプト社」からなる、技術専門委員会を設置することを提言する。」
つまりは、新しい委員会によってその信頼性をきちんと監督しながらも、引き続き「シルス社」のシステムを使うということである。少し冷静に考えたら、野党側にも自らの考えの誤りが分ったのだろう。米国大使の「脅し」がきちんと奏功したのかもしれない。いずれにしても、投票後3日以上も結果を公式発表できないという、宙ぶらりんな状態になる事態は回避されそうだ。私は胸をなでおろしたし、きっとチョイ代表も胸をなでおろしているはずである。
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