稲作の近代化は、コートジボワールの農業にとっての喫緊の課題である。豊富な湿地帯を、稲田に開発していっても、昔ながらの鍬で耕し、鎌で刈り取るやり方では、生産効率の向上という点では大きな限界がある。耕運機やコンバインを導入し、機械化を実現していく必要がある。私が稲作を行っている農民に会えば、彼らは口を揃えて、機械化を実現したい、そのための協力がほしいと言う。先日の稲作農家の集会でも、バグボ大統領にそのことを訴えていたし、バグボ大統領も機械化の必要性に同意していた。
ところが、WFPのアクビア専門家によると、それはちょっと違う、機械化の促進には慎重なのだ、と言う。
ボンドゥクから南に30キロほど走って、こんどはグメレ村(Gouméré)に別の稲作農家の様子を見に行った。街道沿いの湿地帯は、約20ヘクタールの稲田に開発されていた。田に降りていくと、ちょうど稲穂がたわわに実っている。稲はきれいに揃えて植わっており、几帳面な田植え作業によって、効率的な農業が行われていることが伺える。
「ここの湿地帯は、降雨や川の流れではなく、湧水によってできています。したがって、年間を通じて安定した水の供給があり、稲作に適しています。それだけではなく、農業組合が技術習得にたいへん熱心であり、その結果ここの水田はとても高い生産力を上げています。」
アクビアさんの解説によると、この田では、開墾当初1ヘクタールあたり年1トン程度の収穫量であったところ、耕作方法の改善と、新しい品種の導入によって、今では年4トンに向上している。
農業組合の農民たちが、ここでも私を取り囲み、力説する。自分たちは、これだけの広さの田を、鍬と鎌の手作業だけで耕している。ぜひともトラクターを導入して、機械化を図りたい。そういう声をすぐ横で聞きながら、アクビアさんは私に言う。
「私たちは、そういう農民たちの要望に対して、こう答えています。農業機械は、生産を上げて収入を積立てて、自力で買いなさいと。つまり、機械が先なのではなく、生産が先だ、と言っています。」
「実際に、アフリカでは、尚早な機械化はたいがい失敗します。」
アクビアさんは、ダカールのWFP事務所の農業専門家であり、コートジボワールだけでなく西アフリカ全体で、WFPの食糧生産計画を進めてきている。これは、アフリカ各地でのWFPの経験を踏まえた観察である。
「まず、トラクターや耕運機は、燃料を買う必要があるし、維持管理の経費をかける必要がある。人々にしっかりした経費の管理ができなければなりません。そして、このように遠隔地だと、部品調達は至難の業なのです。どこかに故障が出るだけで、修理不能に陥り、機械が動かなくなる。動かないまま、もう数ヶ月放置するだけで、他の部分も駄目になる。そうしてわずかな原因から使えなくなった農業機械が、各地に放置されて錆びているのが実情です。」
なるほど、農業機械にあこがれても、それを維持管理する能力がなければ、遅かれ早かれ無駄なことになる。
「それに、もともと機械が必要となるのは、土壌の耕起や稲穂の収穫など、年に限られた時期だけですから、それ以外の時期には機械は放置され、非常に非効率なことになるのです。私たちの試算では、耕運機やコンバインの導入は、およそ50ヘクタール以上のまとまった田を耕すというのでなければ、生産効率向上に繋がらない。」
機械化よりも先に、まだまだするべきことがたくさんある。
「この地方の稲田のほとんどは、小規模なものが湿地ごとに点在するものです。そういう小規模な稲田では、機械化はあまり意味がない。むしろ、改良品種の導入と適切な施肥だけで、相当な生産量向上が図れます。そして、稲作管理の工夫。たとえば、苗の時期に田に水を張る方式は、これは日本などから技術導入されたものですけれど、雑草を遮断するためにとても有効です。苗代や田植えの技術も、単位面積あたりの収量を上げるために、たいへん効果的です。」
「実は、この地方の稲作農家にはもっと深刻な問題があります。それは、作り過ぎても仕方がない、という問題です。」
生産力向上をめざしている農家に、身も蓋も無い言い方だ。
「米というのは、収穫した後、脱穀し精米して、白米に製品化しないと、市場に出して売ることができません。つまり、精米機が必要です。そして、そのような精米機は、この地域には都市部に行かないとなく、つまりは作った米を、稲田から何十キロも輸送しなければならない。だから、大量に米を生産しても、その後の処理に困るだけなのです。」
どんなに稲作の近代化を図り生産力を上げても、商品化ができなければ意味がない。商品化のためには、精米の施設、流通の整備など、解決しなければならない課題が、まだまだ多い。そういうことだと、「稲作振興」といっても、ちょっと意気が挫けますね。
「いや、そうがっかりする話ではないのです。この地方の農業の一番の課題は、貧困の村々での食糧自給の確立なのです。そうすると、米はとても有望です。湿地帯において、貯水池の造成などで、安定した水の供給を工夫するだけで、年間に一定量の収穫が期待できる。そこに、品種・肥料・耕作技術などの改善を加えて、それぞれの村で消費するために必要な量の米を確保していく。それが、WFPの「稲作振興計画」の目標です。」
「稲作振興計画」では、地元の消費と直結した稲作を考えている。一番重点を置こうと考えているのは、学校給食制度との連携である。稲作振興で確保された米を、学校給食に安定して供給する。それによって、学童期の子供の栄養と学業を向上させる。あくまでも、その地域の食糧の必要に応じた、農業の発展を考えていく。そういうところが、WFPならではの主張である。 グメレ村の稲田
稲がたわわに実っている。
稲田を開発した農民の皆さん
村人たちによる歓迎の踊り
しゃべる太鼓が、打ち鳴らされる。
村の長は今はいかめしいが、元中央省庁の局長だった。
フランス語も話すインテリだけど、口上は語り部に代弁させるのが仕来りである。
羊と鶏2羽とヤム芋とジュースがお土産
見物の子供たち
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