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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

テントがなくて困る話

2010-10-16 | Weblog
机上の電話が鳴る。取ると、秘書が国連(UNOCI)のチョイ代表から私に電話だと言う。私からチョイ代表に電話をかけることはままあるけれど、チョイ代表のほうから電話がかかって来るとは珍しい。何だろう、と思いながら待っていると、チョイ代表がつながった。

挨拶もそこそこに、本題にはいる。もちろん、あと3週間と迫った大統領選挙の、準備の話である。
「例の、テントの件ですよ。相談があるのです。」
とチョイ代表が言う。ああ、あの厄介な件ですね。どうなりました、とまずはその後の経過を聞こう。

テントの件とは、こういう話である。今度の選挙で、全国に設けられる投票所は、1万6千ヶ所以上ある。多くの投票所は、学校や公民館のような公共の施設を使って開設される。ところが、村によっては、そうした公共施設がまったくないところがある。そういう村々に、屋根のついた投票所を開設するために、テントを運び込んで臨時の施設を作らなければならない。

臨時の施設をつくらなければならないそうした投票地点が、全国に3600ヶ所あるという。つまり、3600張のテントを、調達して運ばなければならない。テント程度だったら、町々、村々にあるでしょう、ここの国の人々は、葬式や結婚式というと、どこでもテントを張って盛大にやるのだから、地元業者に設置を発注すればいいじゃないですか。私ならずとも、誰もが持つ疑問である。

いや、あの屋根だけあるテントでは駄目なのだ。投票所というからには、投票の秘密が確保されなければならない。つまり、隔離された空間を確保するテント、四方を壁で囲われた形のテントでなければならない。そういうテントは、特別に海外で調達しないと手に入らない。

ちょっと待ってください、と私は聞いた。だいたい、コートジボワールがはじめて行う選挙だ、というわけではあるまいし、これまではどうしていたのですか。村では皆、人々は家に住んでおり、四方に壁のある建物くらい、どこかにあるでしょう。その答えは、これまではたしかに、おおかた村長の自宅で投票を行っていた。しかし、それでは投票の自由意思が確保できない、ということで、今回の選挙ではそれは避けよう、ということとなった。これまで村長の家で投票していたような村には、新たにテント小屋を建てるのだ、というのである。そんな理想論を振り回して、とため息が出るが、既にワガドゥグ合意の際に決まっていたことであるという。

そういう面倒な話があるのなら、もっと早くから手当しておくべきだったのに、つい最近になって、選挙管理委員会が、この問題があると言いだしたのである。四方が囲われたテントは、一張日本円にして10万円以上する。それを3600張というと、すでに膨大な金額である。それが、日本と欧州連合(EU)とで、選挙費用の洗い出しをしている過程で上がってきた。日本が出すのか、EUが出すのか、とにかく議論は先送りで、大至急に調達にとりかかることになっていた。

「ところが、これだけの量のテントが、結局のところ国際市場にも存在しないと分ったのです。」
チョイ代表が私に説明する。
「例のパキスタンの洪水の支援のために、大量のテントが買い上げられてしまった後なので、時期も悪かった。もうテントの在庫が払底しているのです。はじめは南アフリカの業者に、在庫を確認しました。あれば購入して南アフリカの軍用機で運ぶ手筈も考えていました。でも、結局南アフリカに、3600張ものテントは無いと分りました。急遽、モロッコの業者にも、照会したのです。でも、モロッコにも、それだけの量のテントはありませんでした。」

そこまでの経緯は、別の情報源から聞いていた。どうするのだろう、と心配してはいたのである。チョイ代表が続ける。
「さきほど、私は選挙管理委員会との会合に出ていたのです。テントの問題はどうするのだ、と私は聞きました。バカヨコ委員長以下、みなが顔を見合わせて、答えがない。ここの人々は、問題があっても誰も見ないふりをする。責任をとる立場の委員長ですら、そうなのです。それで、そのうち期限が来て、やっぱりできませんでした、仕方がなかったと言いだす。」

それで、チョイ代表はどうしたのですか。
「私はもう我慢ならなくなりました。このまま手を拱いていては、駄目じゃないですか、と私は委員長に言いました。テントの問題だけで、大統領選挙ができなくなりましたなんていう説明は、国際社会には通用しませんよ。それで、私は投票所を作るのに、テント以外の方策はないのか、と詰め寄りました。そうしたら、いや建てればいい。どうやって。日干し煉瓦に茅葺の小屋なら、1週間で建つ、と言う。それなら、それで行こう。」

そこで急遽決まったのは、3600ヶ所の村々に、大急ぎで小屋を建設するように指示を出すこと。小屋は縦5メートル、横4メートル、高さ2メートルの屋根つきのものとすること。これを「国連開発計画(UNDP)」が一括して監督し、村々で完成し次第、かかった費用について支払っていくこと、などである。

「この小屋だと、一つ建てるのに、およそ10万フラン(2万円)あればいい。つまり、費用は5分の1、いや輸送費が要らないからそれ以上の節約になるのです。それに、その小屋であれば、選挙の後も残るので、何か公共目的に使えますよね。また、地元の大工や左官には、仕事が発注されることになるので、地元経済にも利益がある。」
チョイ代表は自画自賛である。

それで、とチョイ代表。ほらきた、と私。
「あの資金協力計画の枠内で、日本から費用を出してほしいのです。EUにはいろいろ難しい条件があって、すぐには結論がでない。日本大使が、原則了解と言ってくれるだけで、UNDPは作業に取り掛かれるのです。」
そう言われては、了解しないわけにはいかない。もともと、選挙準備に割り当てた日本の資金だから、テントであろうが、小屋建設であろうが、度外れた見積もりでなければ、日本として反対する理由はない。

私は、了解ですよ、と言った。
「ブラボー。素晴らしい、即決ですか。ありがとう、ありがとう。」
私は、たった2万円で小屋が立つものなのだろうか、と少し疑問を呈しながらも、とりあえずはチョイ代表の苦境を救う立場になったことに満足を覚えた。それに、テントの件は、ここ数週間、多くの選挙関係者の頭を悩ませていたはずだから、ここでもまた日本が救世主に見えるだろう。それにしても、コートジボワールの選挙とは、手間と費用のかかることである。

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