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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

自由な選挙への脅威

2010-10-15 | Weblog
「行動規範」への署名式(10月7日)で、正面に設えられた机に、14人の大統領候補者(本人または代理人)が順にやってきて、一人ずつ署名を行った。ある候補者のところまできて、本人が机に座ったまではいいが、なかなか署名をしない。しばらくして、難しそうな顔をして立ち上がり、演説を始めた。

「私はこの「行動規範」に署名することをためらっている。」
会場がざわついた。そうすると、誰かがマイクを回した。こういう不規則なことをする人がいると、日本だと叱責がくる。ところが、コートジボワールではマイクがくる。
「私は、前回の大統領選挙(2000年)にも立候補した。その時の経験からは、この「行動規範」に書いてある通り、ほんとうに規則が守られるのか、おおいに疑問がある。」

そして、2000年の選挙の時、自分の支持者の選挙活動に対して、官憲が妨害を繰り返し、とうとう3人が大怪我をさせられた、という話をした。権力が警察組織を使って、候補者の自由な運動を妨げるということが、この国ではありうるのだ。これを今回、何としても防ぐという固い決意が、選挙管理委員会になければ、このような「行動規範」には単なる紙きれ以上の意味はない。そう述べて、署名をしないまま席に戻った。

憮然としているバカヨコ選挙管理委員長を横に、委員会の事務局長が、機転を利かせて代わりにマイクを取る。
「選挙管理委員会は、今の候補者が述べたような事案が、前回の選挙で、実際に起こったということを認識しています。私たちは、暴力がいささかでも行使されることがないよう、断固とした姿勢で臨むことを約束いたします。」
席に戻っていた候補者は、これを聞いて立ち上がり、机に戻って署名を行った。誰もが、おおいに拍手喝采をおくった。これは彼にとって、一つの儀式だったのだ。

数日後、私の執務室を、14人の大統領候補の一人であるコベナ氏が訪ねてきた。
「私が当選して大統領になったときに、日本大使がコベナとはいったい誰だ、ということであってはいけないでしょう。だから、選挙の始まる前に、自己紹介にお伺いしたのです。」
コベナ氏は、ソロ内閣ができるまで運輸相を務めていた人物であるから、私もこれはいったい誰だ、ということではないのである。それでも、3大候補以外はまず当選の見込みは無い中で、この自信は立派である。

「それと同時に、日本大使には、これから選挙でどういう横暴が起こりうるかを、よく分っておいてほしいと思うのです。」
コベナ氏はそう言って、次のような話を始めた。

「私は、もともとバグボ大統領の人民党(FPI)の創設者の一人であり、人民党のことをよく知っています。しかし、次第に人民党のやり方に批判的になり、今ではバグボ大統領と袂を分かつことになりました。だから、私には分っています。今度の選挙では、バグボ大統領は手段を選ばず、当選しようとするでしょう。」
コベナ氏は、仇敵のバグボ大統領を、はげしく批判する。

「選挙運動の間に、有権者が身の危険を感じるような、脅迫行為が行われるということが、この国ではありうるのです。大使のお国とか、皆さんの常識ではおそらく想像がつかないでしょう。いえ、詐欺的な行為というわけでも、暴力的な行為というわけでさえないかもしれない。でも有権者の多くは、投票に際して脅迫を受けることを、真剣に恐れています。」

たとえば、どういうことでしょう、と私は聞く。
「たとえばですね、中西部の農園には、東部から多くのコートジボワール人が出稼ぎに出ている。つまり農園に、労働者として出ているのです。もし、農園主の意向に反したような投票をすると、その後仕事を続ける上で、迫害を受けるのです。もちろん、秘密投票ですよ。でもその人が投票をしたということは投票所で分るので、それはきっと、反対政党に投票しただろう、ということになる。そういう疑いを持たれないために、出稼ぎ農夫たちは、投票に行かないのです。」

だから、「行動規範」が定められたではないですか。自由・民主的・公正・非暴力・透明性の確保された選挙を、皆で実現すると決められたでしょう。それに、つい先日(10月8日)はタグロ内相が、全国の県知事・郡知事たちを集めて、訓示をしたと報じられています。選挙にあたっては、厳正中立をまもるべし、という訓示でした。私はそう応える。

「全国の知事たちは、バグボ大統領に任命されているのですよ。バグボ大統領が落選すれば、その地位を失うわけですから、もう立場は決まっています。軍だって警察だって憲兵隊だって、まったく同じです。国営テレビ・ラジオも同じです。もし「行動規範」に反するようなことが起こっても、見て見ないふりをするだけですよ。そこには、暗黙の了解があって、人民党の意向に反することは、誰にもできない。」
コートジボワールはフランス方式で、地方の知事は、民選ではない。すべて、大統領の代官として、大統領に任命されている。

「それに、私たちは知っています。大量の軍服、つまり正規軍や憲兵隊と同じ制服が、大量に注文され、縫製されてどこかに隠されています。選挙運動が始まるや、そうした制服を着た人々が、村々にやってきて、人々を脅しはじめるに決まっています。いったい人々に区別できると思いますか、本物の軍人とそうした偽物の軍人とを。それで、村人たちは恐怖に怯えながら、投票日を迎えるのです。」

「見ていてごらんなさい。投票の当日、朝7時から投票が始まりますよね。ところがおそらくその日の正午までには、もうバグボ大統領の当選が決まったと、大騒ぎを始める連中が組織的に出てきますよ。もちろん、投票がすべて終わってもいないうちから、そんな当選が分るわけはない。それでも、人々を扇動して、それ以外の結果が発表できないようにしてしまう。これが人民党のやり方です。」

コベナさん、分った、分った。そういう動きがありうることは、よく分りました。私はまさか、バグボ大統領とその支持者たちが、そんな不正で横暴なやり方をするとは思っていないけれども、コベナさんが正しいのか、私の見方が正しいのかは、いずれ選挙当日に判明するでしょう、と答える。

「日本大使は、もしバグボ大統領が、選挙結果が不利とみるや、軍事力に訴えて政権を取る動きに出た場合、その政権を承認しますか。」
厳しい質問が来た。私は即座に応えた。民主的な過程が阻害されたかたちで政権ができた場合には、日本は国としてその政権を認めないですよ。その点について、日本だけでなく、国連そして国際社会全体が、強い関心を持って注視し、判断していくはずです。そして選挙結果は、公式なものが、国連が認証するものが出るはずです。それに従って、必要な判断をします。一方で、民主的な過程がまがりなりにも尊重された上での選択結果であれば、いかなる結果であれ、日本はその政権と付き合って行きます。

これを聞いて、コベナ氏は安心したという顔をした。「行動規範」への署名をいったん拒否した候補者といい、コベナ氏といい、選挙に臨んであらゆる展開、自由な選挙へのさまざまな脅威がありうるのだと訴えている。それを踏まえれば、単に高みの見物しているだけでなく、日本としての判断を下さなければならない場面があるということを、私は改めて認識した。

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