10月に入って、大統領選挙まであと1ヶ月を切ってから、選挙に向けての段取りが本格的に進み始めた。身分証・選挙人票が完成して、欧州から国連輸送機で届き(10月1日)、全国への配布作業が始まった。選挙管理委員会は、全国の公立施設(小学校など)を投票所に指定し、そこで地元の公務員などを選挙係員に指名して、まずは身分証・選挙人票の配布作業が間違いなく行われるように、手順などを伝達した。日本は、この作業に必要な資金を、緊急に手配したということである。
一方で、選挙運動期間が10月15日から開始される。それを前に、選挙管理委員会は、立候補者14人を集めて、選挙関連書類を交付するとともに、立候補者全員が、選挙に臨む「行動規範」に署名するという式典を行うという。私に招待状が来たので、当日(10月5日)に選挙管理委員会に出かけた。
外交団がみな呼ばれているのかと思ったら、来ているのは外交団長のバチカン大使と私だけである。日本は選挙実施に直接の資金協力を申し出ているので、特別扱いなのだ(EU大使も同様の理由で招待されたが、所用で不在)。バカヨコ選挙管理委員長は、かなり日本に気を遣ってくれている。
立候補者全員が招致されているといっても、まさかバグボ大統領、ベディエ元大統領、ウワタラ元首相などは来ないだろうと思っていたら、やっぱり来ていなくて、代理出席である。それ以外の候補者の中には、本人が来ているところもあって、こちらは応援団などもいて、にぎやかに囃している。
さて、バカヨコ委員長の挨拶があって、「選挙関連書類」の伝達式が始まる。「選挙関連書類」というのは何だろうか。説明がある。まずは、全国1万6千ヶ所以上の投票所の場所の一覧。それから、全国570万人の有権者に関する情報。これらが、小さなUSBキーに収められている。さらに、投票用紙の見本。そして、選挙において使われる、各候補者の選挙ポスター。これは、選挙管理委員会の事務所中庭に、山積みになっている。何とこの国では、選挙ポスターは各人が印刷するのではなく、選挙管理委員会が決められた枚数を用意して、それを各候補者が使うという仕組みなのだ。
「これは、皆さん後ほど、トラックで取りに来てください。」
たしかに、簡単には持って帰ることができない量である。
そして、「行動規範」の署名式に移った。「行動規範」というのは、民主的で公正で、暴力のない選挙を実現するために、各政治当事者間で共通の理解を固めるという趣旨で、策定された文書である。選挙にあたって、どういう行動をとるべきか、とってはいけないか、いわば「べからず集」である。つまりは、そういう違反行動がありうべし、という警告にもなっている。
署名の前に、「行動規範」の各条について、丁寧に読み上げられる。日本の選挙などで、選挙を戦う候補者の間で、このような「行動規範」への署名というのがあるのだろうか。どうも、これはコートジボワールの選挙で十分予想される事態について、事前に予防線を張ろうということなのだろう。
「第1条:署名者は、自由で民主的、開放され透明性のある選挙実施を約束する。選挙管理委員会が発表する投票結果に従う。投票結果への異議申し立ては、定められた手続きに従う。」
ここは、原則論である。
「第2条:署名者は、全ての有権者が、投票権を行使し、選挙過程における活動に自由に参加すべきであることを、認識する。
第3条:署名者は互いに、自由に移動し、安全に選挙活動を行い、自分の政治思想・政治原則を訴え、規定に従った公的メディアへのアクセスを有することを尊重する。」
ここも原則論。お互いが有する権利を、きちんと認めあうということである。
「第4条:署名者は互いに、いかなる形ででも暴力を用いることを禁じ、演説・声明・態度において節度を保ち、他者の意見を尊重し、暴力・脅迫・破壊行為を断じて許さないことを約束する。」
そう、何より懸念されるのは、暴力である。
「第5条:署名者は、有権者が自由・独立に選択を行うことを阻害するような、工作活動に訴えることを拒否する。また、有権者の良心を買収したり、選挙過程の一貫性や質や透明性を損なうような工作を拒否する。」
どういう工作活動のことだろうか。買収行為などがありうるということだろう。
「第6条:署名者は互いに、自らの運動員や賛同者や支持者が、人々の安全・尊厳・生活・矜持を脅かし、公的私的を問わず財産を害するような、あらゆる行動・態度・言動を禁じる。
第7条:署名者は互いに、自らの運動員や賛同者や支持者が、他の政党や候補者が文書を配り、選挙ポスターを貼ることを阻害しないこと、貼られたポスターを剥がしたりしないことを約束する。
第8条:署名者は互いに、自らの運動員や賛同者や支持者が、選挙活動を報じる報道関係者や選挙監視団の、安全や身辺警護を害するような、あらゆる行動・言動を行わないと約束する。」
なるほど、選挙運動員たちは、ここに挙げられたようなかなり激しいことをやりかねないのだ。現場では、そうとうな脅迫行為や破壊行為がありうるということであろう。
「第9条:署名者は互いに、国家機構の手段や、地方統治体制その他の国家の組織制度を、選挙運動や政治思想伝達のために使ったり、選挙活動の期間中に政治動員のために用いたりないことを約束する。」
国家機構を使う、などということは、現実には現大統領であるバグボ候補しかできないはずだろう。この規定は、バグボ大統領を、その地位を利用した選挙運動をしないように、牽制しているのだ。
「第10条:署名者は互いに、人種・民族・性差・宗教・生活習慣については、選挙の争点にしないことを約束する。社会の一体性を維持し、平和を確保していく、あらゆる努力に賛同する。」
コートジボワールはさまざまな人々によって成り立っている国だから、そういう区別・差別を選挙の争点にして、国内対立を煽るようなことになってはいけない。特に、民族間の対立を争点にしてしまうと、選挙後にも分裂のしこりが残る。だから、この戒めは重要だ。
「第11条:署名者は互いに、係争が生じたときには、対話やその他の平和な方法により、解決することを約束する。自分のもとに暴力組織や自警団や民兵を雇ったり、それらに資金を供給するようなことは禁じる。すべての軍組織を操ったり、自らの手段として使用したりしないことを、約束する。」
選挙において、そうしたヤクザな連中を雇って、暴力で人々を脅して、自分への投票を強要したり、あるいは投票させなかったりする、といったことがありうる。正規軍でさえ、そういう行為に駆り出される可能性がある。
「第13条:署名者は互いに、選挙管理委員会の公式発表以前に、選挙結果を勝手に宣伝するということをしないことを約束する。」
これが一番危ない、と皆が危惧している。選挙管理委員会の集計に時間がかかっている間に、勝手に自分が勝ったと宣言し、支持者を街に繰り出させる。対抗して、他の政治勢力も人々を動員し、衝突と流血が起こる。そして、正しい結果が出た時に、それが受け入れられない人たちを、おおぜい作ってしまう。
「第17条:署名者は互いに、友愛と誠実の精神により選挙を戦い、フェアプレイを実践し、平和を維持し、そして国の統一と社会の一体性を確保することを、約束する。」
このフェアプレイというのが、ここだけ英語で書いてあるのが気になる。フランス語圏には、もともと無い概念なのだろうか。
とにかく、それぞれの政治勢力が、勝てば官軍だと思っているので、手段を選ばない選挙戦になってしまいがちである。それを牽制するのに、「行動規範」はいくらかでも助けになるだろうか。少なくとも、この「行動規範」は、私にとって、そして選挙監視をしようと準備している人々にとって、どういう点に注意しておかないといけないかを指摘する文書にはなっている。ここに列挙されたようなことが、ほんとうに起こりうるのかどうか、じっくり見せてもらおう。 選挙関連文書交付式で、挨拶するバカヨコ選挙管理委員長
挨拶を聞く、大統領選挙候補者(またはその代理)たち
この小さな箱の中に、全ての情報が入っています、と説明がある。
「行動規範」の内容が読み上げられる。
立候補者(またはその代理)が、「行動規範」に順次署名する。
椅子の後ろに積み上げられた、各候補者の選挙ポスター
これはウワタラ候補の分
これはバグボ候補の分
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