goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

確実に前に進んでいる

2010-09-28 | Weblog
今度こそ選挙がある、という雰囲気が、日増しに強くなってきている。これまで半信半疑だった人々も、9月21日にワガドゥグで「協議継続枠組」の会合が行われてからは、これは本当に選挙に行くことになるのだ、と思い始めている。この会合は、2007年3月の「ワガドゥグ合意」に従って、大統領選挙と国家統合を行っていくための、最高意思決定機関となっている。バグボ大統領、ソロ首相、ベディエ元大統領、ウワタラ元首相の4人が、ブルキナファソのコンパオレ大統領のもとに集まって、政治的な合意を確認する会合である。

その会合で、10月31日に大統領選挙の日取りが決まったことを歓迎し、そして完成した確定版選挙人名簿を認証し、名簿に載った人々への身分証の配布を承認した。今回名簿に載らなかった約5万5千人の人々については、選挙後も引き続き身分認定の作業を行うということになった。国家統合に関しては、旧「新勢力」軍だった兵士たちの「集合」が開始されていることを確認した。

つまり、今進んでいること全てに、主要政治当事者全員がお墨付きを与えた。バグボ大統領は、会合後の記者会見で、次のように述べた。
「もはや、政治的な障害はありません。あるかもしれないのは、実際的な、物理的な問題だけです。国民への身分証の配布とか、選挙人証の配布とか、投票用紙などの書類を投票所にきちんと届けられるか、とかそういうことだけです。
だから、コートジボワール国民に告げたい。さあ、選挙に向けて心の準備をしよう。選挙を仕上げて、危機の傷を塞ぐのです。国民に、選挙に臨む勇気を持つように、呼びかけます。」

選挙準備に際しての物理的な障害がありうる、という留保は、これはこれで少し懸念のもとだけれど、とにかくバグボ大統領が選挙に前向きであるということが重要である。これまで、ややもすれば現職の大統領として、自分の任期を長引かせるため、選挙をなるべく遅らせようとしているのではないか、と疑いを持たれていたからだ。

これまで、バグボ大統領に対して大統領選挙の実施を強く求めてきた、ベディエ元大統領、ウワタラ元首相に、躊躇があろうはずはない。会合を終えて、両者は感想を述べた。
「私たち政治当事者たちが、全員で10月31日を確認したので、安心し満足しました。」(ベディエ元大統領)
「今度こそ、10月31日に投票が行われるでしょう。私は楽観をもって選挙に臨みます。平和な選挙が行われると、私は予想しています。」(ウワタラ元首相)
しかし、どうも他人事のように聞こえる。野党候補者として、これまであれだけ選挙、選挙と言い続けてきたのだから、もっと武者震いのような気迫が見えてもよいのだけれど、二人とも拍子抜けするほど冷静である。

これには、訳があるように思う。数日前の新聞に、野党側の悲鳴のような記事が載った。
「このまま10月31日に選挙が行われたら、バグボが勝ってしまう。だって、彼が今や、野党候補者の誰と比べても、一番選挙準備ができているのだから。」
匿名を条件に、野党の有力者がそう述べている。
「結局、野党側はバグボ大統領側に振り回されてきた。バグボが動けば、物事が動く。彼が動かなければ、何も起こらない。彼が、選挙について語らなければ、誰も選挙を語らなくなる。皆がバグボを追いかけ、バグボを批判することばかりしている。自らの打ち出しがないのだ。選挙を行うのは、自分が勝とうと思うからこそなのに、それを野党は忘れていた。」

この野党の有力者によれば、10月31日と決まった時にも、野党の中ではどうせまたバグボ大統領のはったりだろう、と高をくくっていたという。これまで、2008年、2009年と、選挙期日が決まっては、結局延期されてきた。野党側は、その度ごとに選挙にむけて態勢を組み、資金や人員の動員をかけてきたのに、無駄になった。だから、今度はあまり本気に動かなかった。今頃になり、どうやら10月31日にほんとうに選挙に行きそうだ、という雰囲気になって、野党側がむしろ大慌てなのだ、と告白している。

「バグボ大統領は、はじめから2010年の10月の選挙を考えていたのだ。2008年11月に選挙をやると彼が言っていた時でも、実は念頭にあったのは2010年10月だったのだ。選挙をやるというなら、我々も選挙に行かざるを得ないけれど、野党側にはこれは本当にきつい。」
これは正直な内部事情なのだろう。ただ、私はベディエ、ウワタラの両候補者を見ていて思う。彼らの主張にはバグボ批判だけしかなかった。これではいけない。いったい政権を取って何をしたいのか、政策の打ち出しがまるでなかった。あるのは、バグボを倒せ、とそれだけである。これでは、野党の支持者の中でも、本気で選挙に勝つぞとの奮起が、今一つ出ないのであろう。

さて、「協議継続枠組」の決定を受けて、9月24日、チョイ国連代表は「確定版選挙人名簿」の「認証(certification)」を行った。大統領選挙への国連の役割として、選挙に至る主要な作業が、「開かれた、自由、公正、透明性のあるもの」であることを「認証」するということが、安全保障理事会決議で決まっている。それが、「確定版選挙人名簿」の内容について、行われたということである。

チョイ代表は、5,725,720名の選挙人名簿を、来る大統領選挙の基礎として認証すると述べた後、国連が行う今回の大統領選挙の「認証」とは、次の5つの枠組みから行われるのだ、と説明した。
(1)和平:名簿が作成される過程で、すべてが平和のうちに行われること。
(2)包括性:すべての国民が、対象となっていること。
(3)国営の報道機関:どの政治勢力にも同様の機会が確保されてきていること。
(4)選挙人名簿:いったん認証されれば、選挙人名簿はその後の要求によっても覆せない。
(5)選挙結果:公明なかたちで発表され、その結果について、非民主的な、あるいは談合的なやり方での変更要求には応じない。

国連が選挙人名簿を認証した以上は、もうその名簿の中身について、あれこれ文句を言う余地は無くなった、ということである。「協議継続枠組」で承認したところを、国連がきちんと固め、もう後戻りができないようにした。これで、コートジボワールの紛争のもっとも本質的な問題であった「国籍」に由来する、だれが選挙権を有するのかの問題に、決着をつけたことになる。コートジボワールは、大統領選挙の実施に向けて、確実に前に進んでいる。

最新の画像もっと見る

1 コメント(10/1 コメント投稿終了予定)

コメント日が  古い順  |   新しい順
ブログ拝見いたしました。 (Yumi nomura)
2010-09-28 22:35:01
初めまして。ベナン人の彼と岡村さんのブログを拝見しておりました。彼はベナン出身ですが、現在は香港の金融業界に勤務しています。

彼の周囲には、アフリカ出身の方も多く、日頃からよく出身地の問題点を議論し合っています。
少し前の「人々にはいらいらする」のトラックで、私の彼は本当にその通りだとひどく共感していました。

彼とこの話題になるといつも彼は自国に対して保護的になり、「yumiは日本人だからわからない」と言われてしまいますが、岡村さんの記事には素直に手を叩いて喜んでおりました。笑

私の話し方には説得力がなかったのでしょう。笑

私は宮崎県出身で、上京して10年になります。岡村さんの記事を拝見して、これは日本の地方経済、生産活動にも重ね合わせてみる事ができるとおもいました。

もちろん、彼の国と日本の田舎を同じ土俵で語る事は、彼とこの問題を協議するにおいてよいアプローチ法ではないので、宮崎の問題はさておき。

よく海外青年協力隊の方々のブログを拝見していて思う事があります。みな、現地の人々の為に現地の人々と同じ、またはそれ以下の生活を送っているにも関わらず、あまり地元の人々が協力的でなかったり、賄賂や買収によりせっかくの物的支援や、開発支援が水の泡となってしまう現実に落胆することがあるというような内容の記事を読んで、
「戦後、日本はがれきの山から抜け出し、高度経済成長を成し遂げた。日本人が勤勉だったからこそ、この経済地位を築く事ができた。しかしアフリカはどうだ?独立後、または奴隷解放から何年も経て、さらに海外から山のような経済的、物質的支援を受けているにも関わらず、地面に座り砂をいじって、悲嘆にくれて遠くを見つめている人々の姿がいつまでもアフリカのイメージとして放映される。どれだけの助けを必要としているのか、支援に終わりはあるのか」
といつも疑問に感じておりました。
その問題を彼に問いかけるといつも喧嘩になるので、最近は控えておりましたが。笑

彼はよく私に「日本人は勤勉だけが長所で、社交性に欠けて楽しみ方を知らない。だから日本人は変な事件を起こすんだ。これで日本人である事が幸せか?」という痛烈な批判を受けます。確かに、彼らには日本の企業で働く事は難しいでしょう。ましてや現在では「過労死」や「鬱」などの問題が上げられ、仕事人間である事は、家庭内においても必ずしも良い事ではなくなってきました。

近代化された社会にも、それなりに多くの問題が生まれますが、後進国の人々が「諦め」の呪縛から抜けだし、「個人」だけでなく「団体」として動くことの素晴らしさや、自分たちの手でなんとか作って行くんだという「島国魂」が芽生えてくれるといいなと思いました。

長くなりましたが、次の記事を楽しみにしています!!

返信する

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。