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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

これが選挙運動だ(2)

2010-09-22 | Weblog
最初に演台に立ったのは、ティアサレ市長である。大袈裟な歓迎の文句のあとに、バグボ大統領の偉業を称える。
「バグボ大統領は、ティアサレの町を総合病院を整備し、救急車を配備してくれました。市民一同、大統領にはたいへん感謝しています。今回は精米工場の開所式ということで、大統領に来ていただいた。しかしながら市長としては、バグボ大統領には、ぜひとも選挙の終わった後、ティアサレに大統領としての公式訪問をお願いしたいのです。」
つまり、今度の大統領選挙では、バグボ大統領が勝利することはもう初めから分っている、と言いたいのだ。

次に演説したのは、精米工場を運営することになる、女性による稲作組合の組合長である。
「この国に必要なのは、食糧生産です。それを国の目標に掲げ、そして必要な資機材を動員し、そして農民たちに勲章を授与したのは、それはバグボ大統領、あなたです。私は、大統領のお陰で、今日こうして世界に活躍できている。あなたの足は私の足、あなたの歩みは、そのまま私たちの歩みなのです。」
もともとバグボ大統領の支持者であり、おまけに自分の精米工場にご来駕賜る光栄である。大統領への歯の浮くような賛辞は、これは当然であろう。

そしていよいよ、バグボ大統領の演説となった。バグボ大統領は、その場で立ち上がってマイクを持ち、原稿なしに語り始めた。
「みなさん、コートジボワールの農業は、植民地主義の束縛のもとにあった。コーヒー、カカオ、ゴム、椰子油。私たちの農業は、国外の需要に応えるためにあった。国外の都合により、いびつに変形されてしまった。コーヒーやカカオを大量に作って、その袋の上に座りながら、自分たちは飢えている。」
やんやと喝采を受ける。私は、このネタをバグボ大統領自身から聞くのは、もうこれで3回目である。

「ブラジルでもコロンビアでもタイでも同じ問題があって、これらの国々では商品作物生産から食糧生産への転換に努力して、そして成功した。私たちにも、できるはずだ。ブラジル人がやり遂げたこと、コロンビア人がやり遂げたこと、タイ人がやり遂げたことを。」
そして、バグボ大統領は、ブラジルがコートジボワールへの農業技術支援に積極的で、多くの農業技術者を研修に招いたことを賞賛した。私の隣に座っているブラジル大使が、おおいに拍手をして喜んでいる。

「私は、食糧生産の向上に、努力し続けますよ。何より、農業の機械化を図らなければならない。そう、農業機械を組み立てる工場を、国内に建てるのだ。その工場建設から始めて、21世紀の農業に転換していく。皆さんの努力を、私は支援します。でも、今はちょっとだけだ。だって、これから私は大統領選挙をしなければならない。」
そして言葉を区切って、言う。
「選挙が終わったら、どっさり支援する、支援しますよ。飢餓や貧困と、しっかり闘いましょう。」
だから、バグボ大統領はぜひとも当選しなければならないのである。

「コートジボワールだって、キャッサバ芋(マニオク)を作り、ヤム芋を作り、自分たちで食べるものを作っている。ところが、これらの芋を作っているディンボクロでも、ティエンコでも、グリアでも、ムベングエでも、キャッサバ芋やヤム芋が、腐っている。アビジャンやダロアという大都市では、人々が飢えているというのに、なぜか。」
そして、また一区切り、人々に考えさせる。
「輸送トラックが無いからだ。トラックが無いから、芋を収穫しても、都会にまで運べない。だから、せっかく米や芋や食料を作っても、輸送ができない。売りに出すことができない。」

「芋が腐っている一方で、都会の人々は飢えている。そんなこと、私は容認しないですよ。」
聴衆は、バグボ大統領の次の言葉を待って、静かになる。
「皆さん、私のところに来てください。輸送トラックを買いましょう。働く人々が、もっと働けるようにすること。これこそ、国がやらなければならない仕事だ。私は、働く皆さんの声に必ず応え、皆さんにトラックを配ります。」
拍手と歓声が沸く。もちろん、この公約が実現するためには、バグボ大統領はぜひとも当選しなければならない。

(続く)

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