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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

これが選挙運動だ(1)

2010-09-21 | Weblog

お米や稲作の話になると、私に声がかかるようになった。それで、今度はティアサレ(Tiassalé)という町で、精米工場の完成式があるので、日本大使にも参加してほしいということである。私は喜んで出席しましょうと答えた。なぜなら、完成式にはバグボ大統領が主賓だという。それなら、バグボ節が聞ける。私としても出るかいがある。それから、ティアサレという町にはちょっと個人的な関係がある。その町を私的な用事ではなくて公式な招待客として訪れ、町の一大行事に参加できるというのは、ひとつの巡り会わせである。

ティアサレというのは、アビジャンから北西に110キロ走ったところにある、バンダマ川沿いにある町である。個人的な関係というのは、友人を訪ねて、ときどきこの町に出かけているということだ。それなので、私は町に知り合いもいるし、町の地元事情に、少しは詳しいのである。

だから、バグボ大統領が来るというので、前の週から突然ブルドーザーがやって来て、でこぼこだった道を均し始めたということを知っている。それから、会場となる精米工場の隣が、たまたま町の共同市場のゴミ捨て場になっていた。これはバグボ大統領の目に触れてはいけないということで、同じブルドーザーがゴミを全部押しのけた、ということも知っている。気の毒な隣の土地の持ち主は、とつぜん大量の生ゴミがブルドーザーに押し出されて、自分の土地にうず高く積まれてしまった。

当日は、朝10時から完成式典が始まるとの案内である。そんな、バグボ大統領が朝10時という時間に来るわけはない、と分っている。分っているけれど、ティアサレには知り合いもいるし、きっと会場で会って話するとか、いろいろ暇潰しはできるはずだ。それに、精米工場の完成式といっても、工場を運営する婦人団体は、バグボ大統領の「人民党」の支持者たちである。時期が時期だけに、式典が、バグボ大統領の、事実上の選挙運動になることは分っていた(正式の選挙運動は10月14日から)。いったいどういう展開があるのか、興味もあるので、朝10時過ぎには会場に到着した。

そうしたら、予想通り、貴賓席には誰も座っていない。まだ、赤絨毯を引くなどの準備をしている。ところが、すでに一般客側の会場のテントは満席になっている。人々がぎっしり座っているのを見ると、米生産農家の組合など、精米工場に関係する人々である。でもそれだけでここまで満席になるわけはない。ティアサレの人々が、朝早くから詰めかけているに違いない、と私は考えた。何といっても、大統領が町にやってくるのだ。大統領を一目見ようと、今日の一日、町は大騒ぎになっていることだろう。どんなに長く待たされると分っていようが、ティアサレの人々は、早朝から座席を陣取っているに違いない。

そう思って、誰か知り合いの顔でもあるか、と見回す。まあ、これだけの人数では、見つけ出すのは至難の技であろう。ただ、私は案内されて、貴賓席の最前列に座っている。だから、誰か私を見つけて声をかけに来てくれてもいいのだ。でも誰も来ない。客席にいるおおぜいの人々に向かって、すでに司会者が盛り上げたてている。そして、余興が次々に繰り出される。

男の歌手が、マイクを持って飛び出した。
「バグボに投票しよう、バグボに投票しよう。
バグボに投票するのは、平和に投票することだ。」
大袈裟な身振りで、音楽に合わせて歌う。そうすると、観客席からご婦人がたがぞろぞろ出てきた。歌手の歌に合わせて、前の広場で、腰をふりながら踊る。たいへん楽しそうである。あくまで精米工場の開所式なのだから、ここまで露骨にバグボ大統領の支持を歌いあげるというのも、どういうものかな、と思う。ティアサレの人々の中には、別の政党の支持者だっているだろう。そういう人々は、怒りださないのだろうか、と人ごとながら心配だ。

さすがに正午を過ぎたあたりから、私以外の賓客も、順次到着して着席した。私は結局、すでに2時間近くの待ちぼうけであるし、ティアサレの知り合いたちにここで会うという目論見も外れた。それでも、次々に登場する、バグボ大統領万歳の歌や踊りを見ながら、こちらの選挙運動というのはこういうものかと感じることができた、と負け惜しみを言っておこう。たしかにこの経験は私には得がたく、とても興味深く勉強になっている。

そして、それからさらに1時間半。午後1時半になって、ようやくバグボ大統領が到着した。私は合計、3時間半をここで待ち続けたわけだ。でも、参列の人々はそれをさらに数時間上回る時間、ここで待ち続けて、ようやくバグボ大統領の尊顔を拝している。司会者が絶叫している。全員総立ちで、大騒ぎで迎える。あたかもティアサレの市民が総出で、バグボ大統領への熱狂的な支持を表明しているようだ。さすがに、大統領の政治や何かに、日ごろはぶつぶつ言っていても、こうして本物を目の当たりにすると、人々も大声援を送りたくなるものなのだ。

そうしていよいよ、精米工場の開所式典がはじまった。

(続く)

 完成した精米工場の外観

 大統領出迎え準備のためブルドーザーが来た。(式典の1週間前)

 押しやられる公営市場の生ゴミの山

 さて、式典当日の精米工場前
開始時間を過ぎているのに、赤絨毯も引いていないし、まだ箒で掃除をしている。

 貴賓席にも、人の姿はまばら

 でも、おばさんたちは大いに盛り上がっている。
先頭の歌手は、「バグボに投票しよう」と歌っている。

 どこでも出てくる、ザウリという祝儀の踊り

 脈絡無く、さまざまな歌、踊り、道化が登場する。

 3時間半待って、ようやくバグボ大統領(白服)が、用心棒に囲まれて到着した。


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