「チョコレートは、一般には菓子として知られていますけれども、実は重要な薬効があるのです。」
と、ワタラ工場長が力説する。「テオブロミン(theobromine)」という薬用物質が、このカカオにとくに豊富に含まれる。そして、テオブロミンには、利尿を促進し、循環器系の働きを良くする働きがある。だから、疲労回復に効果がある、という。
「他にも、いろいろな薬効がありまして、例えば赤ワインに含まれ、動脈硬化を防ぐ物質として注目されているポリフェノールですね。チョコレートの中には、このポリフェノールが、赤ワインよりもはるかにたくさん、含まれているのです。ビタミンも豊富で、とくにビタミンB2、ビタミンP、ビタミンPPなどが、チョコレートから摂取できます。ポリフェノールや、各種ビタミン、フラボノイド類は、悪性コレステロールを低減し、体内脂肪の分解を促進します。それだけでなくてストレス軽減、免疫力の向上、カルシウムの定着促進による骨の強化、アレルギー症状の抑制など、様々な薬効があります。」
「単位あたりのカロリー量も多いのです。肉100gあたり170Calであるのに対して、チョコレート100gは550Calなのです。それでいて、血糖値を抑える働きもあるので、糖尿病の人はむしろチョコレートを食べたほうがいい、という研究結果もあります。」
私は、医学の門外漢だから、ここはワタラ工場長の説明のままを記しておくに留める(糖尿病の方は、チョコレートをたらふく食べる前に、一度お医者さんに相談してください)。ほんとうかな、と訝る私の表情を読んだのだろうか、工場長が力説する。
「チョコレートの薬効は、古くから知られていたのです。原産地の南米では、すでに疲労回復の飲み物として知られていました。また、マヤ文明では、便秘の薬として常用されていたということです。何より、うちの祖父です。」
お祖父さんが、どうされました。
「うちの祖父は、毎日カカオ豆を炒ったものを、2、3粒ずつ食後に口にしています。そのお陰で、病気もせず大変元気です。」
お祖父さんまで持ち出されては、私は工場長に説得されるしかない。とにかく、健康食品が持て囃される世の中で、世間はもっとチョコレートに着目するべきである、というのが工場長の意見である。
「それで、カカオ豆にも品質の差が、けっこう大きいのです。西アフリカ、つまりコートジボワールとガーナの両国で産するカカオ豆は、もうこれは、世界でも第一級の品質です。」
ワタラ工場長の力説は続く。それで、カカオ豆の品質とは何ですか。
「私は仕事柄、世界中のカカオ豆を賞味する機会があります。それで、明らかに、インドネシアやマレーシア産のカカオ豆は、酸味が強すぎて、チョコレートに加工しても、特有の馥郁たる香りに乏しくなるのです。」
なるほど、そうであれば、チョコレートでも、原産地表示というかブランド化をすればいいですね。コーヒーにはすでにあるじゃないですか。モカとか、キリマンジャロとか、ブルーマウンテンとか。それで「チョコレートといえば、コートジボワール産にかぎる」という評判にすれば、いいですよね。私は提言する。
「全くその通りです。しかし、チョコレート生産大手の巨大多国籍企業たちが、それをさせないように抑えこんでいます。なぜなら、彼らは結局、世界のチョコレート原料の市場を寡占しているので、自分たちの製品の間での差別化が始まることを好まないのです。他の生産地で仕入れる、味の劣ったカカオ豆も、どこかで使わなければなりませんからね。そういう豆でいわば薄められたチョコレート原料の味を、標準の味と称して売るほうが、安いコストで生産でき、かつ安定した売り上げを上げられるというわけです。」
ワタラ工場長の口調には、小規模加工企業の、大手企業に対する闘争心が伺える。工場長の話のとおりならば、この国に住む私は、純粋コートジボワール産の、世界一おいしいチョコレートを、手軽に味わえる幸せに浴しているわけだ。ともかくも、この工場で生産する、純正コートジボワール産カカオ豆からのチョコレート原料が、他と比べて優位性のあるものならば、例えば日本の菓子製造企業などに、直接の販売ルートなども築けるのではないか。そういう可能性を探ってみるのも、大使の仕事かもしれないと考えたのである。
と、ワタラ工場長が力説する。「テオブロミン(theobromine)」という薬用物質が、このカカオにとくに豊富に含まれる。そして、テオブロミンには、利尿を促進し、循環器系の働きを良くする働きがある。だから、疲労回復に効果がある、という。
「他にも、いろいろな薬効がありまして、例えば赤ワインに含まれ、動脈硬化を防ぐ物質として注目されているポリフェノールですね。チョコレートの中には、このポリフェノールが、赤ワインよりもはるかにたくさん、含まれているのです。ビタミンも豊富で、とくにビタミンB2、ビタミンP、ビタミンPPなどが、チョコレートから摂取できます。ポリフェノールや、各種ビタミン、フラボノイド類は、悪性コレステロールを低減し、体内脂肪の分解を促進します。それだけでなくてストレス軽減、免疫力の向上、カルシウムの定着促進による骨の強化、アレルギー症状の抑制など、様々な薬効があります。」
「単位あたりのカロリー量も多いのです。肉100gあたり170Calであるのに対して、チョコレート100gは550Calなのです。それでいて、血糖値を抑える働きもあるので、糖尿病の人はむしろチョコレートを食べたほうがいい、という研究結果もあります。」
私は、医学の門外漢だから、ここはワタラ工場長の説明のままを記しておくに留める(糖尿病の方は、チョコレートをたらふく食べる前に、一度お医者さんに相談してください)。ほんとうかな、と訝る私の表情を読んだのだろうか、工場長が力説する。
「チョコレートの薬効は、古くから知られていたのです。原産地の南米では、すでに疲労回復の飲み物として知られていました。また、マヤ文明では、便秘の薬として常用されていたということです。何より、うちの祖父です。」
お祖父さんが、どうされました。
「うちの祖父は、毎日カカオ豆を炒ったものを、2、3粒ずつ食後に口にしています。そのお陰で、病気もせず大変元気です。」
お祖父さんまで持ち出されては、私は工場長に説得されるしかない。とにかく、健康食品が持て囃される世の中で、世間はもっとチョコレートに着目するべきである、というのが工場長の意見である。
「それで、カカオ豆にも品質の差が、けっこう大きいのです。西アフリカ、つまりコートジボワールとガーナの両国で産するカカオ豆は、もうこれは、世界でも第一級の品質です。」
ワタラ工場長の力説は続く。それで、カカオ豆の品質とは何ですか。
「私は仕事柄、世界中のカカオ豆を賞味する機会があります。それで、明らかに、インドネシアやマレーシア産のカカオ豆は、酸味が強すぎて、チョコレートに加工しても、特有の馥郁たる香りに乏しくなるのです。」
なるほど、そうであれば、チョコレートでも、原産地表示というかブランド化をすればいいですね。コーヒーにはすでにあるじゃないですか。モカとか、キリマンジャロとか、ブルーマウンテンとか。それで「チョコレートといえば、コートジボワール産にかぎる」という評判にすれば、いいですよね。私は提言する。
「全くその通りです。しかし、チョコレート生産大手の巨大多国籍企業たちが、それをさせないように抑えこんでいます。なぜなら、彼らは結局、世界のチョコレート原料の市場を寡占しているので、自分たちの製品の間での差別化が始まることを好まないのです。他の生産地で仕入れる、味の劣ったカカオ豆も、どこかで使わなければなりませんからね。そういう豆でいわば薄められたチョコレート原料の味を、標準の味と称して売るほうが、安いコストで生産でき、かつ安定した売り上げを上げられるというわけです。」
ワタラ工場長の口調には、小規模加工企業の、大手企業に対する闘争心が伺える。工場長の話のとおりならば、この国に住む私は、純粋コートジボワール産の、世界一おいしいチョコレートを、手軽に味わえる幸せに浴しているわけだ。ともかくも、この工場で生産する、純正コートジボワール産カカオ豆からのチョコレート原料が、他と比べて優位性のあるものならば、例えば日本の菓子製造企業などに、直接の販売ルートなども築けるのではないか。そういう可能性を探ってみるのも、大使の仕事かもしれないと考えたのである。
さて、チョコレートの原産地表示ですが、現在、日本でもサントーメ産やパプア・ニューギニア産などのチョコレートが量販店で売られています。2年前には、大手チョコレートメーカーから各生産国の単一農園チョコレート(ベネズエラ産)がコンビニやスーパーで売られていたことがありました。また、チョコレートの祭典「サロン・デュ・ショコラ」では、ショコラティエが単一農園もののタブレットを販売していることもあり、私はそれを楽しみに、毎年、足を運んでいます(笑)。コートジボワール産のチョコレート、しかもカルボー社のチョコとなると、ヨダレが出てまいります(苦笑)