コートジボワールは、お隣のガーナと並び、カカオ豆の大産地である。コートジボワールが最大で、世界生産の4割、ガーナは第二位で2割。世界のカカオ豆の6割を、両国だけで生産している。ところが、生産されたカカオ豆は、そのままアビジャン港かサンペドロ港から積み出され、欧米に行ってからチョコレートになる。コートジボワールは、加工の付加価値のところを、皆、欧米の多国籍企業に持っていかれてしまっている。
というようなことを、以前の記事で書いた。ところが、スーパーなどの陳列棚に並べられている「マンボ(MAMBO)」という商品名の板チョコには、「コートジボワール製」と書かれている。ココナッツ味とか、オレンジ風味とか、いろいろな種類があって、けっこうおいしい。調べてみると、チョコレートを現地加工している、コートジボワールの会社があったのである。
「ショコディ(CHOCODI)」という名のその工場に、ぜひ見学に行きたいと思った。まず、カカオ豆という原材料を、無芸にただ欧米に輸出するというのではなく、コートジボワールで付加価値を付けて、ちゃんとチョコレートにまで作る連中がいるということが嬉しい。それに、何といっても、公邸料理人君と一緒に、カカオ豆からチョコレートを作る試みをした。その苦労から思うに、チョコレート製造にはまだ秘密がありそうだ。本物の工場を視察すれば、その秘密が分るかもしれない。
そう思っていたら、偶然に「ショコディ」社の株主社長であるゴーレ氏と知り合う機会を得た。こういうところ、大使というのはさまざまな業界の人々に顔が利くので、役得である。アビジャンの政財界は狭いから、ちょっと気を付けていると、知り合いの知り合いくらいで、大概の人脈に辿りつける。私はさっそく、工場見学を申し込んだ。日本への輸出などの商機が探れるかもしれません、などと私は言ったが、実はチョコレート製造の秘密を知りたいのであった。
ゴーレ社長は喜んでといって、視察を手配してくれた。工場は、アビジャンの港の先の、工業地帯の真ん中にあった。長い平屋の建物が一棟、広い敷地の中に建っていて、「CHOCODI」と大きく書かれている。ワタラ工場長に迎えられて、まずは事務所の会議室で説明を聞く。
「この工場は、1975年に、スイスの大手チョコレート生産企業の「バリ・カルボー社」の現地生産工場として建てられました。その後、1998年に、「バリ・カルボー社」がこの工場だけを現地資本に売却し、それをさらにゴーレ社長が買い取って、今に至っています。とはいっても、「バリ・カルボー社」とは緊密な関係にあって、今も生産するチョコレート原料の殆どを、同社に卸しています。従業員は約100人で、今のところ「バリ・カルボー社」への納入だけで、順調な業績を記録しています。しかし、ヨーロッパの一企業だけとの商売というのでは、面白くありません。販売先を多角化していきたい。それで、これから生産ラインを拡充して、生産量を上げ、製品の販路を同社以外に広げる戦略です。すでに、中国などへの商談が始まっていて、中国の大きな市場を相手にビジネスができるようになればと、皆が意気軒高です。」
「コートジボワール国内市場をはじめ、西アフリカ向けのチョコレート菓子製品を、近年手掛け始めて、これも順調です。今、新製品の開発を進めており、もうすぐ市場に登場します。」
そう言って、ワタラ工場長は、手元の駕籠に入ったチョコレートを勧めた。中には、こちらのスーパーでお馴染みの「マンボ」チョコの、新しい味が入っている。「70%ブラック」とか「生姜風味」とかがあって、試食してみると、とくに「生姜風味」はおいしい。
会議室で、まずはチョコレート製造工程の説明を受ける。農園でカカオの実から取り出されたカカオ豆は、4-6日間の発酵を経た後、乾燥し出荷される。それがこの工場に搬入される。そこで、ゴミなどを取り除き選果されて、いよいよチョコレートに加工される工程に入る。そこで聞いた話を纏めると、加工工程は次の通りになる。
脱穀(décorticage):カカオ豆から皮を取り外す。
焙煎(torréfaction):熱を加えて焦がし、香りを付ける。
粉砕(broyage):カカオ豆を砕いて、細かくする。
錬成(pétrissage):さらにすり潰して液状にする。
調合(conchage):カカオバター、砂糖、粉ミルクなどを加え、さらに練り上げる。
成型(moulage):型に流し込んで、固める。
この一連の工程は、公邸でチョコレートを作ろうと試みた時に、インターネットなどで調べていたので、もう私には分っている。ところが、驚いたのは、目の前に並べられた見本を見た時である。工程の間で、カカオ豆がどう変わっていくのかの見本で、一つはカカオ豆そのもの、2つ目は焙煎して粉砕したもの、3つ目は錬成が終わったもの、と並べられた。
カカオ豆を焙煎し、粉砕するところまでは、できあがったものは、公邸でのチョコレートを作った時とほぼ同じだった。ところが、それを更に練り上げたもの見ると、濃茶色の液状になっている。これは、カカオ・バターを加えて、チョコレートにしたものですね、と私が訊く。
「いいえ、粉砕したカカオ豆を、すり潰していくと、最後にこういう液状になります。」
公邸で作ってみた時は、粉末にまですり潰した時点で、粉の粒どうしが糊でくっついたようになって、あたかもセメントみたいに固まったのですけれど。
「それはですね、まだすり潰しが足りないからでしょう。カカオ豆は、機械ですり潰すだけで、チョコレートになりますよ。脂肪分(カカオ・バター)は豆のなかに含まれていますから、とくに外から加える必要はないのです。」
すり潰し方が足りない、と言われてしまった。公邸で試みた時には、焙煎したカカオ豆を、すり鉢の中でどれだけすり潰しても、液体にはならなかった。すり鉢の中で、かちかちの固体になってしまい、それをフォークで剝しては、すり続けた。1時間くらい頑張ったのであるが、それでも、目の前にある見本のようには全くならなかった。どうもこのあたりに、チョコレート作りの秘密があるようだ。
(続く)
というようなことを、以前の記事で書いた。ところが、スーパーなどの陳列棚に並べられている「マンボ(MAMBO)」という商品名の板チョコには、「コートジボワール製」と書かれている。ココナッツ味とか、オレンジ風味とか、いろいろな種類があって、けっこうおいしい。調べてみると、チョコレートを現地加工している、コートジボワールの会社があったのである。
「ショコディ(CHOCODI)」という名のその工場に、ぜひ見学に行きたいと思った。まず、カカオ豆という原材料を、無芸にただ欧米に輸出するというのではなく、コートジボワールで付加価値を付けて、ちゃんとチョコレートにまで作る連中がいるということが嬉しい。それに、何といっても、公邸料理人君と一緒に、カカオ豆からチョコレートを作る試みをした。その苦労から思うに、チョコレート製造にはまだ秘密がありそうだ。本物の工場を視察すれば、その秘密が分るかもしれない。
そう思っていたら、偶然に「ショコディ」社の株主社長であるゴーレ氏と知り合う機会を得た。こういうところ、大使というのはさまざまな業界の人々に顔が利くので、役得である。アビジャンの政財界は狭いから、ちょっと気を付けていると、知り合いの知り合いくらいで、大概の人脈に辿りつける。私はさっそく、工場見学を申し込んだ。日本への輸出などの商機が探れるかもしれません、などと私は言ったが、実はチョコレート製造の秘密を知りたいのであった。
ゴーレ社長は喜んでといって、視察を手配してくれた。工場は、アビジャンの港の先の、工業地帯の真ん中にあった。長い平屋の建物が一棟、広い敷地の中に建っていて、「CHOCODI」と大きく書かれている。ワタラ工場長に迎えられて、まずは事務所の会議室で説明を聞く。
「この工場は、1975年に、スイスの大手チョコレート生産企業の「バリ・カルボー社」の現地生産工場として建てられました。その後、1998年に、「バリ・カルボー社」がこの工場だけを現地資本に売却し、それをさらにゴーレ社長が買い取って、今に至っています。とはいっても、「バリ・カルボー社」とは緊密な関係にあって、今も生産するチョコレート原料の殆どを、同社に卸しています。従業員は約100人で、今のところ「バリ・カルボー社」への納入だけで、順調な業績を記録しています。しかし、ヨーロッパの一企業だけとの商売というのでは、面白くありません。販売先を多角化していきたい。それで、これから生産ラインを拡充して、生産量を上げ、製品の販路を同社以外に広げる戦略です。すでに、中国などへの商談が始まっていて、中国の大きな市場を相手にビジネスができるようになればと、皆が意気軒高です。」
「コートジボワール国内市場をはじめ、西アフリカ向けのチョコレート菓子製品を、近年手掛け始めて、これも順調です。今、新製品の開発を進めており、もうすぐ市場に登場します。」
そう言って、ワタラ工場長は、手元の駕籠に入ったチョコレートを勧めた。中には、こちらのスーパーでお馴染みの「マンボ」チョコの、新しい味が入っている。「70%ブラック」とか「生姜風味」とかがあって、試食してみると、とくに「生姜風味」はおいしい。
会議室で、まずはチョコレート製造工程の説明を受ける。農園でカカオの実から取り出されたカカオ豆は、4-6日間の発酵を経た後、乾燥し出荷される。それがこの工場に搬入される。そこで、ゴミなどを取り除き選果されて、いよいよチョコレートに加工される工程に入る。そこで聞いた話を纏めると、加工工程は次の通りになる。
脱穀(décorticage):カカオ豆から皮を取り外す。
焙煎(torréfaction):熱を加えて焦がし、香りを付ける。
粉砕(broyage):カカオ豆を砕いて、細かくする。
錬成(pétrissage):さらにすり潰して液状にする。
調合(conchage):カカオバター、砂糖、粉ミルクなどを加え、さらに練り上げる。
成型(moulage):型に流し込んで、固める。
この一連の工程は、公邸でチョコレートを作ろうと試みた時に、インターネットなどで調べていたので、もう私には分っている。ところが、驚いたのは、目の前に並べられた見本を見た時である。工程の間で、カカオ豆がどう変わっていくのかの見本で、一つはカカオ豆そのもの、2つ目は焙煎して粉砕したもの、3つ目は錬成が終わったもの、と並べられた。
カカオ豆を焙煎し、粉砕するところまでは、できあがったものは、公邸でのチョコレートを作った時とほぼ同じだった。ところが、それを更に練り上げたもの見ると、濃茶色の液状になっている。これは、カカオ・バターを加えて、チョコレートにしたものですね、と私が訊く。
「いいえ、粉砕したカカオ豆を、すり潰していくと、最後にこういう液状になります。」
公邸で作ってみた時は、粉末にまですり潰した時点で、粉の粒どうしが糊でくっついたようになって、あたかもセメントみたいに固まったのですけれど。
「それはですね、まだすり潰しが足りないからでしょう。カカオ豆は、機械ですり潰すだけで、チョコレートになりますよ。脂肪分(カカオ・バター)は豆のなかに含まれていますから、とくに外から加える必要はないのです。」
すり潰し方が足りない、と言われてしまった。公邸で試みた時には、焙煎したカカオ豆を、すり鉢の中でどれだけすり潰しても、液体にはならなかった。すり鉢の中で、かちかちの固体になってしまい、それをフォークで剝しては、すり続けた。1時間くらい頑張ったのであるが、それでも、目の前にある見本のようには全くならなかった。どうもこのあたりに、チョコレート作りの秘密があるようだ。
(続く)
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