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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

柔道頑張れ

2010-09-07 | Weblog

コートジボワールに来てから、こんな日本を離れた場所でも柔道が盛んというか、きちんと柔道を学んでいる人々がいることに驚いた。それで、柔道の振興を、私の一つの課題にして取り組んできた。

全国の柔道選手が一堂に会して競う、「柔道日本大使杯」を復活した。毎年1回行うことにして、昨年3月に第一回、今年7月に第二回と、すでに2回の開催を数えている。柔道の畳を300枚寄贈する協力も進めようとしている。コートジボワール政府側も乗り気で、この協力を機会に、国立ウフエボワニ競技場の一角に、常設の柔道場を作ることになった。筋力トレーニングの器械も、併せて供与するので、選手たちにはここで大いに技と体を鍛えてもらおう。

コートジボワール柔道連盟とは、緊密な関係ができた。そうしたら、地方で柔道の巡業をするので、日本大使の私にも来賓として出てほしいという。というより、この話には裏がある。アシ元国土開発相(Patrick Achi)が、自分の地元に来てほしい、地元でのNGOの活動などを視察してほしい、という話がもともとあって、それに行く相談をしていた。そうしたところが、その地元の村に、かつて活躍した老柔道家がいて、日本大使が来るならば柔道の展示試合をして、地元の青年たちに柔道を紹介したいということになった。柔道連盟がこれに応じて、アビジャンから柔道の選手たちを率い、畳を持参して、村の公民館で巡業試合を行うことになったのである。

それで、私はアビジャンから車を飛ばし、途中のアゾペ市(Azope)でアシ氏と合流して、一緒にアビジャンから150キロ北にあるバコン村(Bacon)に出かけた。バコン村では、困窮した医療施設を視察して、日本の協力の可能性などの相談を受けた後、公民館に赴いた。そこには、畳が敷き詰められて、柔道連盟のアンボ会長と、おなじみの選手連中が、すでに試合を重ねていた。大勢の村の若者たちが見物に訪れ、会場は熱気にあふれていた。

私は、老柔道家のコナン氏に迎えられた。柔道5段で、かつては柔道連盟の指導者として多くの柔道家を育ててきた。今は引退して、このバコン村に隠居している。黒帯の柔道着に身を包んだコナン氏は、物腰柔らかな老人で、私を日本式の礼で迎えてくれた。日本大使を自分の村に迎えることができて、大変な光栄である。引退はしたけれど、自分の息子は現役の柔道家であるし、姪も柔道を練習している、柔道一家なのである。自分の希望は、この田舎の村に柔道場を建設して、若者を集めて柔道を育てることだという。

決勝戦を前に、私は演説をする。今日は試合というよりは、村の若者たちへの柔道の紹介である。だから、私も演説で、柔道の説明をする。
「柔道は、単なる競技ではありません。単に、相手を倒して、自分が勝つということだけを目的にするスポーツではありません。柔道は、自分を鍛えるための「道」なのです。その「道」がどこに至るかというと、人間としての自分の完成です。柔道を通じて、選手たちは礼儀を学び、自分の節制を学び、他人への思いやりを学び、弱きを助けることを学び、人々に尊敬されるような人間に成長していく。これが柔道の、ほんとうの目的です。」

そして、畳に整列して座っている柔道選手たちを、ざっと見渡してから続ける。
「彼ら柔道選手たちの表情を見てください。明るいだけでなく、堂々として自信に満ちています。彼らは、規律正しく行動することの大切さ、正義と勇気が何かを知っているからです。」
柔道選手たちが、やんやと拍手をくれる。
「このように、柔道で強くなれば、単に喧嘩に負けないという自信がつくだけではありません。人間としての生き方に、大きな自信がつくのです。だから、堂々として明るいのです。」

私の演説が終わったら、決勝戦が始まった。会場はふたたび熱気と声援で、おおいに盛り上がる。傍らのアシ氏が、私に言う。
「コートジボワールの若者たちは、ほとんどが仕事もなく、自分の活力をどこに生かしていったらいいのか、見失っている状態です。もてあました活力を、若者たちは暴力や犯罪など、ろくでもない方向に使ってしまう。だから、柔道のように、精神的にも強くあれと鍛えるスポーツは、こうした今のコートジボワールの若者たちには、最も望ましいかもしれない。」
アシ氏の言うとおり、紛争の後の平和構築で、若者の心に平和を取り戻すために、スポーツの役割はたいへん大きい。

さて、バコン村での柔道展示試合から戻ってしばらく経ったある日、大使館の領事が、私に連絡して来た。柔道連盟の選手2人とコーチ1人が、日本への査証を求めてきています。はあ、それは結構なことですが、何の用事のためなのですか、と私は聞く。
「柔道世界選手権の東京大会に、出場するためだそうです。」

なに、柔道世界選手権に、コートジボワールからも出場するのか。私は色めきたった。2回の柔道大使杯を通じて、コートジボワールの選手たちが熱心に柔道を学んでいることを知った。私の目からは、けっこう技術的にも頑張っていると思える。しかし、それを世界の一流選手との間で試す機会が乏しい。一度、日本に招待してでも、そういう一流の柔道を学んでもらえれば、と思ってきたところなのである。

そこで、査証を発給した旅券を取りに来た3人に、さっそく大使室に来てもらった。出場する選手は、柔道日本大使杯でもう顔見知りになっている、コネ選手(Koné Roméo、男性)とダボネ選手(Dabonné Zouléia、女性)である。聞くと、日本に行くのは二人とも初めてで、とても気持ちが高ぶっているという。世界の一流選手と、同じ畳の上で試合できるだけで嬉しい、というから、私は、いや駄目だ、絶対に勝ってコートジボワールにも柔道選手ありというところを見せなければいかん、と激励した。

そういうわけで、9月9日から13日まで、国立代々木競技場で行われる「柔道世界選手権2010・東京大会」に、コートジボワールからも男女1名ずつ選手が参加する。コートジボワールの柔道頑張れ。皆さんからの声援をお願いします。

 バコン村の公民館で、勢揃いした柔道選手たち

 バコン村に隠居する、柔道5段のコナン老

 試合の前に、乱取り

 「ユーコー(有効)!」

 押さえ込み

 バコン巡業試合の優勝カップ

 「柔道世界選手権・東京大会」に出場する、コネ選手(右)とダボネ選手(中)


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