コートジボワールの大統領選挙に、日本は財政支援を行った。この国の平和回復のために必要な費用を、国際社会として皆で分担しようということになり、日本も応分の負担を名乗り出たのである。しかし、ただ資金を払い込んで終わり、というのでは面白くない。日本の平和協力であるということを効果的に印象付けるために、「投票箱を供与する」という事業に仕立てた。
全国に、1万1千ヶ所の投票所を設ける予定である。各投票所に、2個の投票箱が必要である。だから、2万2千個の投票箱が調達された。投票箱だけではない。有権者が投票用紙に書き込むための仕切り台、文房具、認証印、案内板、スタッフの衣装、そういう付属品も一緒に調達した。これを投票日までに各地の投票所に配送し、当日の使用に供する。こうした資材の購入に必要な資金を、全部日本が負担した。
ところで、大統領選挙が何度も延期され、せっかく調達した投票箱ほかの資材も、ずっと倉庫に眠ったままになっていた。先だって10月31日投票と、また新たな日付が発表され、さて今度こそ本当に選挙が行われるのか、皆がまだ確信が持てないでいる中で、バカヨコ選挙管理委員長から連絡が来た。
「投票箱の引渡し式を、選挙管理委員会主催で行いたい。」
私は、すぐにバカヨコ委員長の意図が分かった。10月31日と決まっても、もう大統領選挙の日取りについては「狼少年」みたいになっている。誰もが半信半疑なのだ。そこで、バカヨコ委員長は、投票箱の引渡し式を行うことで、選挙に向けて物事が実際に動き出したということを国民に示し、選挙管理委員会は本気だ、選挙はほんとうに行われるぞ、というメッセージを送りたいと考えているのであろう。それならば、私の気持ちと軌を一にしている。喜んで、一緒に舞台に上がって、バカヨコ委員長のために演じてやろう。
バカヨコ委員長は、「詐欺事件」の責任を取らされるかたちで更迭されたマンベ前委員長の後任として、今年の2月に就任した。選挙管理委員会も、委員を新しく構成しなおしたとはいえ、その政治的に微妙な立場は変わっていない。選挙準備が着実に前に進んできているので、大統領選挙を妨害したいと考える人々にとって、選挙延期の理由がだんだん見出しにくくなっている。そうした現状では、選挙管理委員会の失態とか、不手際とか、とにかくその信用失墜を言いたてて、延期の口実にしようという考えが、より強くなっている可能性がある。実際に、新聞記事の一部に、バカヨコ委員長も罷免しようという動きがあるという報道が出てきている。バカヨコ委員長は、戦っているのだ。
投票箱の引き渡し式は、9月1日に、選挙管理委員会の本部建物で行われることになった。式典そのものは、まず私が演説し、投票箱を抱えて手渡して握手、そしてバカヨコ委員長が演説して終了。簡単な話である。でも、コートジボワール中が、大統領選挙がほんとうに行われるのかと心配している中での儀式であるから、私の演説も、バカヨコ委員長の演説も、大いに注目されるはずだ。これは日本からのメッセージをコートジボワール国民に伝達する、またとない機会となる。そこで、私は演説の内容を、入念に準備した。
当日、私は選挙管理委員会の本部に赴き、バカヨコ委員長と並んで、会場の席に座った。予想通り、たくさんの新聞記者、テレビカメラが来ている。司会が、さっそく私に演説を促した。
「日本は、コートジボワールが「危機からの脱出」を果たすことを、ずっと待ち望んできましたし、今も強く期待しています。期待するだけでなく、支援を用意してきました。」
私は、前に並んだマイクにむかって演説を始める。
「私の一番お伝えしたいメッセージは、皆さんへの励ましです。それはまず、毎日毎夜、大統領選挙の実現のために、奮迅努力してこられた、バカヨコ委員長をはじめ、選挙管理委員会の皆様への励ましです。」
次いで私は、日本が2万2千個の投票箱、その他の資材を供与したということを説明する。コートジボワールの大統領選挙実施にかかる費用については、国連開発機関(UNDP)が取りまとめ役になって、各国からの資金貢献を募った。これを「バスケット・ファンド」と称し、日本も2008年3月に、37億フラン(約7億円)の資金拠出を行った。そして、日本の資金によって購入された、投票箱その他の資材は、今日まで倉庫に保管されてきたけれど、いよいよ大統領選挙の日取りが決まったので、選挙管理委員会に引き渡されるのだ、という説明をする。
「ご列席の皆様、いよいよ選挙です。」
私は、話題を選挙に移した。
「これまで、大統領選挙が延期されるたびに、私はがっかりしてきました。しかし、その延期には、ちゃんとした理由がありました。選挙を実施するか、延期するかの選択は、これはもうコートジボワールの人々の判断に委ねられるものです。だから私は、あれこれ口を差し挟むことは控えてきました。コートジボワールの政治指導者たちの英知を、私は信じているからです。」
「今や、選挙人名簿はほぼ完成しています。先日、ブアケでの「兵士の集合」式典に、私は出席しました。軍備解体の面でも、準備が進んでいます。10月31日に投票が行われるための条件が整いつつあることは、私にとって大きな喜びであります。」
10月31日を改めて日本が念押ししておけば、バカヨコ委員長に助けになるだろう。
ここで、私は選挙についての、自分の個人的な経験を語ることにした。それは、私のコソボでの経験である。
(続く)
全国に、1万1千ヶ所の投票所を設ける予定である。各投票所に、2個の投票箱が必要である。だから、2万2千個の投票箱が調達された。投票箱だけではない。有権者が投票用紙に書き込むための仕切り台、文房具、認証印、案内板、スタッフの衣装、そういう付属品も一緒に調達した。これを投票日までに各地の投票所に配送し、当日の使用に供する。こうした資材の購入に必要な資金を、全部日本が負担した。
ところで、大統領選挙が何度も延期され、せっかく調達した投票箱ほかの資材も、ずっと倉庫に眠ったままになっていた。先だって10月31日投票と、また新たな日付が発表され、さて今度こそ本当に選挙が行われるのか、皆がまだ確信が持てないでいる中で、バカヨコ選挙管理委員長から連絡が来た。
「投票箱の引渡し式を、選挙管理委員会主催で行いたい。」
私は、すぐにバカヨコ委員長の意図が分かった。10月31日と決まっても、もう大統領選挙の日取りについては「狼少年」みたいになっている。誰もが半信半疑なのだ。そこで、バカヨコ委員長は、投票箱の引渡し式を行うことで、選挙に向けて物事が実際に動き出したということを国民に示し、選挙管理委員会は本気だ、選挙はほんとうに行われるぞ、というメッセージを送りたいと考えているのであろう。それならば、私の気持ちと軌を一にしている。喜んで、一緒に舞台に上がって、バカヨコ委員長のために演じてやろう。
バカヨコ委員長は、「詐欺事件」の責任を取らされるかたちで更迭されたマンベ前委員長の後任として、今年の2月に就任した。選挙管理委員会も、委員を新しく構成しなおしたとはいえ、その政治的に微妙な立場は変わっていない。選挙準備が着実に前に進んできているので、大統領選挙を妨害したいと考える人々にとって、選挙延期の理由がだんだん見出しにくくなっている。そうした現状では、選挙管理委員会の失態とか、不手際とか、とにかくその信用失墜を言いたてて、延期の口実にしようという考えが、より強くなっている可能性がある。実際に、新聞記事の一部に、バカヨコ委員長も罷免しようという動きがあるという報道が出てきている。バカヨコ委員長は、戦っているのだ。
投票箱の引き渡し式は、9月1日に、選挙管理委員会の本部建物で行われることになった。式典そのものは、まず私が演説し、投票箱を抱えて手渡して握手、そしてバカヨコ委員長が演説して終了。簡単な話である。でも、コートジボワール中が、大統領選挙がほんとうに行われるのかと心配している中での儀式であるから、私の演説も、バカヨコ委員長の演説も、大いに注目されるはずだ。これは日本からのメッセージをコートジボワール国民に伝達する、またとない機会となる。そこで、私は演説の内容を、入念に準備した。
当日、私は選挙管理委員会の本部に赴き、バカヨコ委員長と並んで、会場の席に座った。予想通り、たくさんの新聞記者、テレビカメラが来ている。司会が、さっそく私に演説を促した。
「日本は、コートジボワールが「危機からの脱出」を果たすことを、ずっと待ち望んできましたし、今も強く期待しています。期待するだけでなく、支援を用意してきました。」
私は、前に並んだマイクにむかって演説を始める。
「私の一番お伝えしたいメッセージは、皆さんへの励ましです。それはまず、毎日毎夜、大統領選挙の実現のために、奮迅努力してこられた、バカヨコ委員長をはじめ、選挙管理委員会の皆様への励ましです。」
次いで私は、日本が2万2千個の投票箱、その他の資材を供与したということを説明する。コートジボワールの大統領選挙実施にかかる費用については、国連開発機関(UNDP)が取りまとめ役になって、各国からの資金貢献を募った。これを「バスケット・ファンド」と称し、日本も2008年3月に、37億フラン(約7億円)の資金拠出を行った。そして、日本の資金によって購入された、投票箱その他の資材は、今日まで倉庫に保管されてきたけれど、いよいよ大統領選挙の日取りが決まったので、選挙管理委員会に引き渡されるのだ、という説明をする。
「ご列席の皆様、いよいよ選挙です。」
私は、話題を選挙に移した。
「これまで、大統領選挙が延期されるたびに、私はがっかりしてきました。しかし、その延期には、ちゃんとした理由がありました。選挙を実施するか、延期するかの選択は、これはもうコートジボワールの人々の判断に委ねられるものです。だから私は、あれこれ口を差し挟むことは控えてきました。コートジボワールの政治指導者たちの英知を、私は信じているからです。」
「今や、選挙人名簿はほぼ完成しています。先日、ブアケでの「兵士の集合」式典に、私は出席しました。軍備解体の面でも、準備が進んでいます。10月31日に投票が行われるための条件が整いつつあることは、私にとって大きな喜びであります。」
10月31日を改めて日本が念押ししておけば、バカヨコ委員長に助けになるだろう。
ここで、私は選挙についての、自分の個人的な経験を語ることにした。それは、私のコソボでの経験である。
(続く)
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