改正NTT法が成立、通信規制見直しに一歩 廃止は見送り
NTTに課している固定電話の全国一律での提供義務を緩和する改正NTT法と関連法が21日の参院本会議で、与党などの賛成多数で可決・成立した。同法の廃止は見送り、NTT株の政府保有義務などは残したものの、旧態依然とした通信規制の緩和は一歩前進させた。
現行法はNTTに全国一律での固定電話サービスの提供を義務づける。携帯電話での通信が主流となり、メタル回線(銅回線)中心の固定電話は利用者の減少と設備の老朽化で維持負担が増していた。
改正法は2026年春の施行を予定する。固定電話サービスに関しては、ほかに事業者がいない地域に限ってNTTに提供を義務づける仕組みにかえた。新たに携帯電話の通信網を使った無線の固定電話もユニバーサルサービスに位置づけた。
NTTの固定電話事業は赤字が続いている。赤字の一部は国民が負担する交付金で薄く広く負担しており、費用負担の増大が課題になっていた。法改正でサービスを効率的に提供できるようになり、NTTの経営の自由度も一定程度高まるとみられる。
一方で、新たな規制も盛り込んだ。NTTが保有する電柱など通信設備の譲渡に国の認可を必要とする仕組みを設けた。NTTは旧電電公社が独占時代に築いた通信インフラを引き継ぎ、通信分野で公共的な役割を担う。通信サービスの安定をめざす。
経済安全保障の観点で既存の規制も多く残した。政府がNTT株を3分の1以上保有する義務や、外国人株主による保有割合を3分の1未満に制限する規制などを維持した。
NTT法を巡っては存廃の議論が自民党内で活発だった。政府保有株を売却して防衛費の増額にあてる意見が出ていた。23年末に甘利明元幹事長が主導してNTT法廃止の提言をまとめたが、党内では廃止に慎重な声も根強かった。
通信業界でも主張は割れた。完全民営化が悲願のNTTは同法の廃止を求めた。KDDIなど競合他社は「国内での公正な競争を阻害する」と強く反発した。
昨秋の衆院選で甘利氏が落選するなどして、自民党内での議論は低調となった。改正NTT法の付則には施行後3年をめどに「改廃を含め検討」と記した。通信業界の技術革新は速く、通信規制の見直しの余地は残した。
NTTは改正法の成立を受けて「前向きに評価できる」とのコメントを発表した。「市場の変化や技術の進展に伴い、継続的な見直しが必要だ」と訴えた。
KDDI、ソフトバンク、楽天モバイルは連名のコメントで「NTTが果たすべき公共的役割の重要性が担保されたことに賛同する」と表明し、NTT法の維持は必要不可欠だと改めて強調した。
※掲載される投稿は投稿者個人の見解であり、日本経済新聞社の見解ではありません。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)- 堀越功日経BP 日経ビジネスLIVE編集長別の視点
次の注目ポイントは、NTTが今後公表を予定している、固定電話に使われるメタル回線の巻取り計画です。NTT法見直しの議論の中でNTTは、利用者が減っているメタル回線を使った固定電話を2035年までに巻き取る考えを示しました。NTTの島田社長は、2025年の通常国会でNTT法の見直し法案が通ったら、その具体的な計画を示したいと話していました。まだ1000万回線規模で残るメタル回線をあと10年でどうやって巻き取り、新たなサービスに入れ替えていくのか。これは日本の新たなデジタルインフラをつくることにもなり、国家的な大仕事にもなるでしょう。メタル巻取り計画の中身に注目しています。
この投稿は現在非表示に設定されています
(更新)