日本国籍なのに外国籍とされた少年 サッカー協会が「帰化」書類要求
生まれた時から日本国籍なのに、無断で外国籍として登録された上、後から日本国籍を取得したことにする申請書を提出させられた――。日英米のルーツを持ち、高知県内のサッカークラブに所属していた中学1年の男子生徒(13)が、日本サッカー協会(JFA)と所属クラブから、そんな扱いを受けていたことが朝日新聞の取材でわかった。識者は「人権上、大きな問題があり、差別的な対応だ」と指摘している。
JFAは、取材に対して事実関係を認め、「生徒と保護者に誠意をもって対応していく」としている。
この生徒の母親によると、発端は今年3月末。所属クラブの代表から届いたLINEのメッセージだった。
「(生徒は)外国籍になりますでしょうか?」
母親は、突然の質問に驚いた。「うちの子は日本国籍なのに、なぜこんな確認を……」
生徒は米国籍の父親と日英ルーツで日本国籍の母親を持ち、生まれた時から日本国籍だ。国籍法上、親のどちらかが日本国籍であれば、子も日本国籍を得られるからだ。
母親が関係者たちに確認すると、2年前、選手登録のシステム上で、無断で外国籍として誤登録されていたことが判明します。そして、国籍情報を修正しようとしたところ、さらに心を砕かれるような出来事が起きたと言います。
翌月、母親が所属クラブの代表などから聞き取った経緯はこうだ。
生徒が小学5年生だった2年前、当時入っていた別のサッカークラブの担当者がJFAのシステムに「米国籍」と登録していたという。本人や親への確認はされていなかった。
事実と異なる申請を求められ…
「うちの子のカタカナ交じりの名や親のルーツをもとに、米国だと思い込んでしまったのかな」。母親は残念に思う一方、当事者に瑕疵(かし)がない誤った登録ならば、JFA側が修正すれば済む、と考えたという。だが、そうはならなかった。
国籍情報の訂正のため、本人のパスポートとJFAの公式書類「外国籍選手登録申請書」の提出をJFAと所属クラブから求められた。JFAは、中学生以上の加盟クラブ選手を対象に国籍の登録手続きを必須にしている。国際サッカー連盟(FIFA)のルール上、選手本人の国籍と異なる国のクラブへの移籍が制限されているためだ。
この申請書は、外国人が選手として登録したり、日本国籍に変更したりする時などに提出するもの。申請理由の選択肢には、国籍を修正する項目はなく、「国籍区分を日本国籍に変更する(帰化)」と記された項目を選ぶように言われたという。
生徒の両親は、事実と異なる項目だと異議を申し立てたが、クラブ側から提出を求められ続けた。
訴えを受けたJFAは判断を変更
その間、生徒は選手登録未完了として6月8日の公式戦に出場できなかった。申請書を提出しない限りは、システム上の選手登録が完了せず、公式戦に出る資格が得られないと説明されたという。両親は「争い続けると我が子がかわいそうだ」と考え、同月11日、申請書の「帰化」にチェックを入れて、クラブの担当者に手渡した。
生徒は朝日新聞の取材に、「何年も一緒だったチームスタッフに外国人だと勘違いされ、勝手に登録されていたのには驚いた。自分や家族の間違いではないのに、公式戦に出られなかったことも悔しかった。ルールを改善してほしい」と話した。母親は「何度も日本国籍だと説明したのに、国籍変更の申請書の提出を求められ続け、ショックを受けた」と語った。
こうした生徒側の訴えを受けてJFAは、申請書の提出は不要で、生徒のパスポートの写しだけ必要だと判断を変更してクラブ側に伝えた。ただ、クラブ側によって申請書はシステムには登録されているという。生徒自身は7月末にクラブを退会したが、選手登録の記録は残り続ける。
取材に対しJFAの広報グループは、米国籍で誤登録されていたことについて「経緯は不明だが、あってはならないミスだ」と回答。「登録上の国籍を外国籍から日本国籍に変更する場合、これまでは帰化による理由が一般的であったため、例示的に『帰化』と記載している。今回のように訂正するケースは初めてで、より明確な表現への改善も必要と考えている」と回答した。生徒が公式戦に出場できなかったことについては、「選手本人の思いを考えると、非常に残念なことだと受け止めている。JFAとしても、クラブ側ともっとコミュニケーションを取れば、スムーズに手続きができていたのかもしれないと感じている」とした。
識者「人権上、大きな問題」
人種や民族などへの偏見をもとにした捜査手法「レイシャル・プロファイリング」の問題などに取り組む、宮下萌弁護士(東京弁護士会)は「本人や保護者の意向に反して、国籍情報を不正確に記した書類を提出させることは、人権上、大きな問題がある」と話す。
ミックスルーツ(多様なルーツ)と国籍をめぐる問題に詳しい立命館大の下地ローレンス吉孝・特別研究員(国際社会学)は「確認せずに外国籍で登録したことも問題だが、国籍変更という誤った申請内容で提出を求めたことがより深刻だ。JFAとクラブの対応は軽率で、個人のアイデンティティーや個人情報の遵守を軽んじている。国籍情報の重要性を重く受け止めてほしい」と指摘する。
生徒の母親は「JFAとクラブを責めることが目的ではない。書類手続きのルールを改善するだけでなく、多様なルーツを持つ子どもへの理解を深めてほしい」と話している。
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