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トランプ政権で台頭「テックライトの教祖」が語る“野望”とは

「最も効率的で、一番うまくいくのは王制だ。それが、私たちの時代に最適なガバナンスの形だと思う」
 
こう話すのは、「テックライトの教祖」とも呼ばれるシリコンバレーの思想家、カーティス・ヤービン氏です。
 
イーロン・マスク氏やバンス副大統領など、「テクノロジー」と「右派」を合わせた「テックライト」と呼ばれる人たちが存在感を増すアメリカ。
 
その先鋭的な考え方に強い危機感が広がっている「テックライト」の思想に迫ります。

(社会番組部シニアディレクター 岡田朋敏/政経・国際番組部チーフ・プロデューサー 青木康祐)

「テックライトの教祖」ヤービン氏とは

NHKの単独インタビューに応じたシリコンバレーの思想家、カーティス・ヤービン氏。バンス副大統領の友人であり、マスク氏が新党立ち上げに当たって会談したとされる人物です。

暗黒啓蒙と呼ばれる右派の思想を代表する論客で、官僚制度をすべて撤廃すべきだと主張しています。

カーティス・ヤービン氏
「官僚組織は非効率的なだけでなく、国家運営の観点からもバカげたことをするほど有害になってしまう。動脈硬化のようなものだ。あらゆる組織がそうであるように、柔軟性が失われる。加齢とともに」

ヤービン氏は1973年、外交官の家庭に生まれました。カリフォルニア大学バークレー校のコンピューターサイエンスの博士課程を中退してテック系企業に就職した後、2013年にサンフランシスコを拠点とするスタートアップTlon Corpを共同設立しました。

その頃出資を通じて知り合ったのが、テックライトに強い影響力を与えている起業家・投資家のピーター・ティール氏でした。

ティール氏はネット決済サービスの先駆けとなる企業を創業し、イーロン・マスク氏の企業と合併してPayPal社を設立。巨万の富を築き上げた投資家です。一貫して共和党を支持してきたテックライトのいわば先駆者で、幅広い層のテック企業に強い影響力を持っています。

バンス副大統領が設立した投資会社に巨額の資金を投じるなど、「後見人」的な存在でもあります。

“いまの民主主義は、既得権益層による寡頭政治”と主張

ヤービン氏は、官僚制度や大学、既存のメディアなどを既得権益層として批判。中世の権力になぞらえて「大聖堂」と呼んでいます。

なぜそのように考えるのか、まず問いました。

カーティス・ヤービン氏
「戦後の西側世界で『民主主義』と呼ばれるものについて語るとき、私たちが意味するものは何か。それは、アメリカの文脈では『能力主義』とも呼ばれているが、基本的には権威ある組織による支配だ。例えば、大学という機関には永続的な名声がある。官僚には永続的な終身在職制度があり、大学の意見で物事を決めている。つまり、『民主主義』という言葉の文字どおりの意味とは、ほとんど関係のない権力システムになっている」

「大聖堂とは、簡単に言えば西洋社会の頭脳のことだ。最も権威のある大学、最も権威のあるメディアに偏っている。ニューヨーク・タイムズで何かを読んだり、ハーバード大学で何かを学んだりするのと、フェイスブックでうわさとして目にするのとでは、権威がまったく違う。だから、こういった機関はとても強力だ」

「『民主主義なんだから投票しなさい』『どんな考えを信じるべきかすでに伝えてあるし、投票すべき候補者のリストも渡してある』と言われる。しかし、選挙で誰が勝っても、実際には政府のあり方を変える権力はない。だとしたらそれは何なのか。それは『民主主義』とは呼ぶべきではない」

ヤービン氏の主張 なぜテックライトは支持するのか

ヤービン氏は2007年から執筆したブログUnqualified Reservationsや、その後に始めたGray Mirrorで、「アメリカの民主主義こそが真の敵である」との主張を行ってきました。

ヤービン氏によれば、アメリカ社会はいわゆる大聖堂の支配階級によって支配されていて、「画一的な思想に基づく全体主義」が生まれるとしており、それを打破する必要があるとしています。

こうした考え方は、民主主義社会で作られた官僚の規制が、技術開発や進歩を阻害しているとするテックライトの思想に近く、支持が集まっています。

バンス副大統領は、2021年9月、オンラインのポッドキャスト上でヤービン氏の思想について「私が常に深く共感してきたのは、もはや私たちは『真の意味での憲法の国ではない』というものだ。私たちの国は、行政組織がすべてを支配している」と発言しています。

また、マスク氏のツイッター社買収などに多額の資金を投じてきた投資法人アンドリーセン・ホロウィッツの共同創業者、マーク・アンドリーセン氏も、ヤービン氏が友人であることを認め、「彼はアメリカの制度を、国民を支配する制度として表現している」と評価する発言をしています。

高まるDOGE批判 しかしさらなる“解体”を主張

イーロン・マスク氏が率いたDOGE政府効率化省による連邦政府の大量解雇には、手法が強引であり、議会の承認も得ていないなどとして、各地で抗議デモが起きてきました。

一方、ヤービン氏がこれまで提唱してきたのは、DOGEよりもさらに踏み込んだ「RAGE(政府職員を全員退職させよ)」です。

ヤービン氏は、トランプ政権の取り組みをどう評価しているのでしょうか。

カーティス・ヤービン氏
「DOGEとRAGEに共通して見られるのは、シリコンバレー的な衝動だと思う。物を壊し、素早く動き、物を壊し、素早く動く。シリコンバレー流のやり方は10倍も違うということに、皆が気付くだろう」

「DOGEは、ワシントンにシリコンバレーの手法を持ち込み、非常に冷徹な目で見て、神殿の中で敬意を払うのではなく、神話に穴を開けようとしている。しかしそれが機能するには、本当にうまくやらなければならない。イーロン・マスクは、永久官僚主義と戦う人々をワシントンに送り、ディープ・ステートを制圧するためにあらゆるレベルで戦わなければ、物事を動かせないことに気付いている。いずれ幸か不幸か、その戦争を戦っている誰もが、それが勝ち目のないベトナム戦争のようなものであることに気付くだろう。実際は、一方は官僚主義で、もう一方のDOGEはスタートアップのように運営されている。彼らは、爬虫類を哺乳類に変えようとしているが、爬虫類を捨てて、新しい哺乳類を作る方が簡単だ」

「問題を解決するためには、実際に新しいものを作らなければならない。伝統は同じ建物を使わない。このような人事を占めるだけでは、現状の政府を改革することはできないということを理解することが、この政権が学ばなければならないことだ」

“CEOが国家運営を”「民主主義のシステム」否定するヤービン氏

「既存の組織を修正することには限界がある、スタートアップ的な手法で、新たに組織を作るべき」と主張するヤービン氏。

一方、ヤービン氏は奴隷制度を擁護するような発言をするなど、優生主義的との批判も受けています。

テックライトに大きな影響を与える人物は、国のあり方をどう変えるべきだと考えているのか、問いました。

カーティス・ヤービン氏
「この国の統治方法を変えるには、中央集権的でなければならない。その変革は中央集権的な方法で行われなければならない。トップには1人か2人か、あるいは3人。そして、それがこの世界で何事も成し遂げられる方法だからだ」

「課題は、最も『効率的な形』を取れるかどうかだ。ルールや手続きの上に構築されたシステムよりも、それらを最小限にした方が、柔軟に対応でき、非常に効果的であることがわかっている。私もCEOの経験がある。もちろん国を運営したことはないが、CEOの仕事と国王の仕事には多くの共通点がある。企業は議会でも最高裁判所でも自分たちが望む組織を作ることができる」

「ポピュリズムや民主主義を強くする方法は、君主を選ぶことだ。結局、最も効率的で、一番うまくいくのは王制である。私が『説明責任のある君主制』と呼ぶもので、CEOの業務を取締役会がチェックするような安全装置も設けたものだ。それが、私たちの時代に最適なガバナンスの形だと思う」

先鋭化するテックライト思想に広がる警戒

トランプ政権内で存在感を増しているテックライト。その思想の先鋭化には、強い危機感が示されています。

DOGEの活動などに対する情報公開訴訟を行っている団体CREWのニコル・サス弁護士は、民主主義のシステムが損なわれていると危機感を露わにしています。

ニコル・サス弁護士
「憲法の背後にある考え方は、チェック・アンド・バランスのシステムを持つことであり、この政権やDOGEが行っていることは、三権分立の基本原則に違反している。残念ながら、議会で国民に選ばれた代表が投票したことも承認したこともないような命令を、大統領が自由に実行する権限を持つという、権威主義的な状態に近づきつつある。それは非常に深刻な問題であり、前例のない事態だ。これほどまでに裁判所の命令に背き脅威を与える政権は、大統領は、これまでこの国には存在しなかった。非常に深刻な懸念を抱いている」

また、テックライトに広がる思想を分析した書籍を出版した科学者で著述家のアダム・ベッカー氏は、巨額の富と権力をもつマスク氏などテック系の富裕層が、みずからのビジネスのために「民主主義のシステム」を破壊しようとしていると警鐘を鳴らします。

アダム・ベッカー氏
「多くのテック系の億万長者は、民主主義に関心がなく、民主主義を重要だと考えていない。自分たちは他の誰よりも賢く、皆のために決定を下すことができると考えている。彼らはこの国の民主主義を壊すチャンスだと考えている」

「億万長者たちは、自分たちはもっと権力を持つべきであり、十分な権力がないと言う。民主主義は彼らの権力を制限するものであり、彼らはそれを好まない。民主的に国民に説明責任を負う議員によって書かれた法律があることで、億万長者の活動を抑制することができるからだ。だから代替案はファシズムか王政のようなもので、自分たちのやり方で買収すればいいと考えている。彼らは自分が世の中でやりたいことをやるのを邪魔するものを軽蔑している」

「彼らは間違っており、私たちは反撃する必要がある。組織化して、彼らが蓄積しようとし、すでに握っている権力を取り戻す必要がある。私たちは今、民主主義を失おうとしている最中であり、それを許してはならない。テック系の億万長者たちは、アメリカだけでは満足しない。アメリカで勝利すれば、次は世界の他の民主主義国家を狙うだろう」

イーロン・マスク氏やテックライトについては、8月10日放送予定のNHKスペシャルでも詳しくお伝えします。

報道局社会番組部シニアディレクター
岡田朋敏
1997年入局
科学や文明の未来に関する番組を様々制作
シリコンバレーやAIの取材も20年近く継続
報道局政経・国際番組部チーフ・プロデューサー
青木康祐
2009年入局
経済やテクノロジーを中心に取材

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