EP1「隠星」 07 光の国へ・後編

 ユウに案内されて入った城、その中心にある広いホールは今歩いた通路より明るかった。

 建物全体を通した巨大な吹き抜けがあり、上部の窓から光が入ってくる仕組みのようだ。見上げるとかすかに白むほど高く広がる空間がある。

 ホールの中央には大きな女神の像が置かれていた。像は上からそそぐ光に照らされ、周囲にはたくさんのろうそくの火が輝いている。

 これまでに見た自然環境を考えると、この手製のろうそくは植物を原料とする木蝋だろう。光を特別なものとする剣の民にとって、明るいホールは特別な意味を持つに違いない。

「偉大で寛容なレキ神よ。この命をお守りいただき、感謝します。願わくば友たちが安らぎの地、アンヘリヤルにたどり着けますよう……」

 身の丈の数倍はある女神像の前に跪き、ユウが祈っている。

 散っていった仲間に捧げる言葉。周囲ではろうそくの炎がゆらめき、神秘的な光景だった。

 族長のテュールもその後ろで胸に手を当てている。集まってきた仲間たちも同様だ。フェルは、邪魔にならないように少し下がって様子を見ていた。

 命をかけた遠征からの帰還、祈り。厳粛な雰囲気だ。だがこれは、ただの現地信仰と考えていいのか。

 城は全体にいくらか簡易的な作りだが、西暦でいう二〇〇〇年より以降の形式だと判別できる。このような吹き抜け構造は当時のオフィスビルそのものだ。

 気になるのは女神像だ。表面の様子を視覚分析したところ機械による樹脂生成で、もとからここにあったのだろう。

 デザインについても、建物と似た直線的で抽象的なものだ。光の恵みという補給ポイントで見た家具を思わせる。

 ただの装飾がたまたま偶像となっただけなのか、それとも都市の生成をコントロールできる誰かがかつてここに作らせたものなのか。

 疑問はまだある。三女神の活躍は聞いているが、ここにあるのは三柱の女神ではなくレキ神の像のみ。民はレキ神に特別な恩義があると思えるが、ユウの抽象的な話だけではそれが見えてこない。

 像を見上げ、フェルは思う。レキはいつ何をして、何を残し、そしてなぜ去らなければならなかったのか。

「族長。もうこの地に邪神はいないかもしれない」

 祈りの後、ユウが族長に向けてそう言った。

 族長はユウよりもいくらか長身で、ゆったりしたローブを着て樹脂を切り出した半透明の装飾品をたくさん身に着けている。威厳のある彼女は急な話を聞いてもあまり動揺せず、まっすぐで長い金髪が少し揺れただけだった。

「なんと。なぜそう思った」

「わたしは、あの邪竜の巣へと入ったのだ! ここにいるレキ神の使者と共に。だが奴はいなかった。機械の胎盤と、機械のへその緒が残されていただけだった」

 その場にいる皆に聞こえるよう、ユウはホールの中央に立って言った。剣の民はざわつき、こちらに視線を集中させた。

「ユウ。お前は挨拶をしてきなさい」

「族長、まだ報告がある」

「それはこの使者から聞く。勇敢な戦士たちのことを伝えてやれ」

 族長が命じると、ユウははっとした顔になった。そして、目を閉じてぎゅっと口を結んでからその場を去った。

 勇敢な戦士たち。それはつまり、今回の任務で戦死した仲間のことなのだろうか。帰ることのなかった者の末路を知人たちに伝えるため、ユウはこの場を去っていったということだ。

「私の部屋に来ていただけるかな、レキ神の使者様」

 族長テュールは口にだけ笑みを浮かべて言った。彼女が首を傾けると、樹脂の装飾品が金属の留め具に触れてからからと音を鳴らした。

 フェルは頷き、テュールについていった。

「私たちレキの民は、このような歴史を何万年も重ねてきた。あまり進歩がないと思うかもしれないが、最初の頃よりはずいぶんよくなったのだ」

 階段を上りながら、テュールは丁寧に話した。

 フェルが何か聞く前に。まるで、こちらの立場を正確にわかっているかのようだ。目の前ではただ、ものいわず長い金髪が揺れている。

「先ほど、私のことをLNの司書と言いましたね」

 フェルは、最も気になっていたことを直球で質問した。

 この原始的ともいえる文化の中にあって、テュールは銀河をめぐるLNを知っていた。それだけでも驚きだが、話しぶりからするともっと多くのことを知っていそうである。

 三階、テュールの執務室についた。城での公務はこの階までで完結していて、これより上の階はあまり使われていないらしい。

 剣の紋章がついたバングルをかざして扉を開き、テュールは部屋に入った。執務室の近くにいた文官たちは一歩引いて族長に礼をしている。

 それとも、フェルに敬意を払っているのだろうか。

「LNのことを民は理解していない。あなたを神の使いと信じている。まあ、私にとっても似たようなものだがね」

 こちらの考えを見透かしたようにテュールは言った。彼女から話を聞くしかないということだ。

「聞きたいことはたくさんありますが、私は……天に帰るため、この地に来ました。LNの声と翼を取り戻すためです」

 言葉を選びながらフェルは言った。LNを知っているといっても、それがこの地にあったのは何万年、へたをすると億を超える時の向こうだ。全ての単語が通じるかわからない。

 多くを望んではいけない。レキの民に対する救済やインペリアル社の調査など司書としてやるべきことは多いが、一度に取り掛かってもどこかで問題が起きるだろう。まずは、LNの復旧をするべきだ。

「この地の奥、地の底にあるものを求めてきたというわけだな。先日の空からの矢、やはりそうだったか……」

 テュールは言った。LNが不時着した時、それを見ていたということか。

 巨大な地下空間の天井をつきやぶって落ちたのだ。この場所からも天が割れるのが見え、そして落下の轟音も聞こえていたのだろう。知識のあるテュールはそれがLNだということがわかったのか。

 そして、その時はたまたまユウがその近くに派遣されていた。命令が出たのはLNの不時着よりも前で、ユウと出会えたのは運がよかったのだ。

「あなたはなぜ、私たちのことを知っているのですか」

 フェルは聞いてみた。テュールの認識には今のところ間違いがない。どうやって過ぎ去った文明のことをそれほど正確に知ったのか。

「知っているとも。これはもうユウルに見せてもらったのだろう?」

 言って、テュールは自身のバングルを見せてきた。

 ユウのものと同じだ。この世界の人間が生まれながらにつけているというものである。

「バングルの機能は平民や騎士といった身分を決定するものだが、それはこの地下世界のネットワーク上の権限の違いに過ぎないのだ。都市の機能を使えるのが不思議に見えるので、神聖な身分として扱われるようになったのだろう」

 テュールは説明した。フェルの推測と一致している。

「では、もしかしてあなたは……」

「そうだ。私のバングルには生まれつき管理者のアカウント権限が付与されていた。平民には禁止されているデータアーカイブにアクセスすることができる」

 テュールがこれほど事情に明るい理由がよくわかった。特別な権限を与えられた管理者で、遠い過去に残された情報をそのまま閲覧することができたのだ。

 執務室の椅子に座り、テュールは端末のようなものに触れた。すると、覚えのある波動が感じられてネットワークが活性化するのがわかった。

 レキの大地を作っているのは情報樹脂であり、樹脂の中に電気回路が印刷されていた。これも都市の自動生成と同時に作られるネットワークなのだろう。

 ユウが補給点から食べ物を出してみせた時から、少なからず機能をしていることはわかっていた。活発に動いているところは初めて見たが、想像よりずっと安定している。

 しかし、今の話でもわからないことがある。生まれつきバングルを所持して生まれてくるレキの民は一体何者なのか。

 その疑問が顔に出てしまっていたのだろうか。フェルを見て、テュールはおかしそうに微笑んでいた。

「天界の者にとって、あまり知りたくないことだと思うぞ。それでも聞くか?」

 テュールはどこか自虐的に言った。

「はい。一等司書である私にはその義務があります」

 フェルは気を確かにしながら言った。



 この地に住む民は大地の中から生まれてくる。

 生まれつき腕に電子認証装置をつけられ、樹脂の大地に存在するネットワークと繋がっている。ただし、体内には電子的な装置は埋め込まれていない。身体的には普通の人間とさほど変わらない。

 いずれにせよ、明らかに人工的に作られた人間ということだ。

「そう。人の形をとっているが、私たちはシステムの端末のようなものだ。魔法――現実干渉を使うための」

 テュールは説明した。

「Sロット……」

 フェルはつぶやいた。銀河の物理法則を制御するクラスターコアに対して逆に干渉を行うことで現実を操り、超能力のような力を行使するのが現実干渉だ。銀河によって千差万別なコード形式を持つクラスターコアを研究するために端末として作られる人造の人間は、長い銀河の歴史にいくつかの前例がある。

 ユウは現実干渉を使うことができた。あれも、そうなるよう作られた種族だったからだ。

「私たちの場合、コアの解析が目的ではなかったようだ。生み出された理由を知っている者はもういないだろう」

 テュールは言った。彼女は自分の生まれを受け入れている様子だ。

 テュールの説明によれば、樹木が生えるように人の赤子が入った石碑が現れるという。それによって、各地に不足した人間が「補充」されていく。

 生殖はできず、システムによって完全に数がコントロールされているらしい。かつては長い寿命を持つ種族だったようだが、現在ではおよそ八十年の寿命に落ち着いたそうだ。おそらくはシステムがうまくバランスを取りながら、今日まで数を維持してきた。

「と、とりあえず理解しました」

 フェルは言う。聞いた話をかろうじて整理できている。

「心配しないでください。私たちが助けますから……」

 レキの民が保護の対象であるという確信は強くなった。このような世界を生み出したのはおそらくインペリアル社の違法な実験。計画が続行中なら、民をあの会社から保護する必要がある。

 とはいえ、この場所は廃棄されてから長い。現状が社の目的通りなのかも不明だ。規模が大きい犯罪すぎて、フェルは頭が真っ白になりそうだった。

「星典の法で、独自の文化を持つ民は保護の対象になるのだったな。私たちを人と認めてくれるのか?」

 テュールは自嘲するように言った。

「それは当然です! あなたたちは私たちと何ら変わりのない、心を持つ人間だ」

 フェルは感情を抑えて言った。

 たとえ生み出されたのがインペリアル社の陰謀によってだとしても、そこにある魂は人の手で作れるものではない。それがLNの信念だ。何があっても譲れない。

 フェル自身もまた、同じ信念に救われた人間なのだから。

 自らの力の末路として死を待つだけだったフェルは、LNによって救い出された。禍々しい出自を克服し、今度は自分が手を差し伸べる側になった。

「絶対に助けます」

 再びあんな悲劇があれば、その時は絶対に救ってみせる。そう誓った。

 わかってきた。レキと呼ばれる神はこの哀れな人々を救済するために行動したのではないか。星典の友だったのならありえることだ。

 女神は現在おらず、人々は魔物に脅かされている。これはレキの想定したことではないだろう。誰かが修正を行うべきで、それこそが司書の仕事である。

「それを聞いて安心した。この世界が壊されることは、レキで育った私には受け入れがたいのだ」

 テュールはそう言って、壁に触れた。すると樹脂の透過性が上がって壁一面の窓となり、外の世界が目の前に広がった。

 草原に木々、人々の集落。光の国。天井を覆う巨大な光源に照らされるこの箱庭は、フェルが巡ってきた様々な星に劣ることなく美しかった。



 里の奥にあるLN整備基地への道は樹脂によって塞がれていて、もう何千年も通行できない状況らしい。テュールは、そこに行く方法を探してくれると言っていた。

 その話の後、長旅で疲れただろうということで部屋を用意してくれた。城の中の一室に入ると、そこにはちゃんとしたベッドとパックされた食料が用意されていた。

 寝具は合成繊維で作られていた。ユウの服装と同じで、こういった材料も例の補給点で手に入るのだろうか。

 剣の民の一般市民は、草を編んだ履物や麻のような材質の衣服を着用している場合があった。システムから手に入るものだけでは生活に足りないという話はユウから聞いていた。

 だとしたら、これは剣の民では最上級の寝床なのかもしれない。

 フェルはベッドに横たわり、ユウのことを考えた。ホールで別れたきり会っていない。今も戦死者のことを伝えて奔走しているのだろうか。

「ユウ……」

 少し心細くなった。それほど長い間ではないとはいえ、ここまでの道のりを共にしてきたユウがいないとちょっと落ち着かない。

 テュールのことを疑っているわけではないが、まだ疑問はある。例えば、ユウがなぜ闇の国に偵察に行かされたのかだ。

 無謀な作戦に思えた。剣の民を立て直したという賢明な現族長がそんな命令をした理由は何なのか。ユウが買いかぶっているだけで、配下の騎士の命を使い捨てるような者なのだろうか。

 そう思いたくはない。しかし、救済の対象であろうと言うことを鵜呑みにしてはいけないというのが先生の教えだ。

 どの世界でも意思が一つであることはなく、自分たちに都合の悪いことは言わないものだ。言葉より行動と背景を見よ、というのが基本である。

 先入観にとらわれずに本質を見極めることが司書にとって重要な視点なのである。その点で、フェルはまだ判断に足るほどの情報を集めていない。

 ユウに会いたかった。思えば、彼女の献身はこの世界で何よりも純粋に思えた。

 そんな事を考えながら、フェルは心地のいいベッドで眠りに落ちてしまった。不時着からほとんどまともな睡眠をとっておらず、常人より長時間活動できる肉体もさすがに疲労困憊していた。



 部屋の中が真っ暗になる深夜、それは起きた。

 何かがごそごそと動いている音がした。フェルは気配を察知して目を覚まし、現状を把握しようとした。

 暗くてよく見えないが、大きなものが部屋にいる。

「ユウ?」

 フェルは声をかけた。義理堅いユウが挨拶に来てくれたのではないかと期待した。

 しかし、そんな期待をするのはあまりにとぼけた思考であった。 

 キチキチと金属的な音が聞こえる。最近聞いた覚えがある音だ。暗闇に目が慣れてきて、巨大な何かが鎌首をもたげているのがうっすら見えた。

「!」

 フェルはとっさにベッドから転がって落ちた。闇の中、さっきまでフェルがいた場所にどさりと大きな質量がぶつかった。

 それが何かを見て、フェルは驚いた。

 長く太い金属の塊。平原で遭遇した蛇の魔物が、なぜか部屋の中にいてフェルを襲ってきたのだ。

「開かない……!」

 すばやく扉に近づいたが、開く気配はない。

 ドアノブがない。つまり、ユウやテュールのような認証バングルを持たないフェルには開けられない扉ということだ。

 窓も外壁と一体化していて開かない構造だ。これでは、客間というより牢獄のようだ。

「テュール! 聞こえていますか!」

 フェルは叫んだ。誰かの視線がここにつながっていることがわかったからだ。

『なるほど、やはり司書は目がいいな』

 テュールの声が天井から聞こえた。その言いぶりから、今の状況が仕組まれたものなのだと確信する。

「私の目を知っていた……?」

『ユウルからの報告ですぐにわかった。お前は神々のような目を持っていると』

 だから部屋に隔離したのか。フェルの能力は近くにいる相手の奇襲に対して無意識に反応できるが、遠くから通信を送ってきているような相手のことは検知できない。

『対等に話すにはこうするしかなかった。心配するな。その蛇はお前を殺すことはない』

「……襲ってきたように見えましたが」

『レキの民がどう増えるのか教えたな。あの話には続きがあるのだ』

 テュールが言う。レキの民が地中から植物のように生まれてくるという話のことか。

『連れ去られたレキの民は邪竜のもとに連れて行かれる。それが、この世界の循環なのだ』

 テュールは語る。確かに、邪竜の住処とされた場所には生命の実験の痕跡があった。

「まさか……」

 フェルは魔物の行動を思い出す。予測の中で何度も戦って行動を観察した相手だ。

 相手を絞め殺すこともある。だが、捕まえて麻酔を投与して連れ去ろうとすることもある。なぜそんなことをするのか。

 生物を培養するには生物の遺伝子や細胞が必要。おぞましい想像が目に浮かぶ。この地でこれまで行われてきたであろうことも。

「しかし、邪竜はもういないはずです!」

 フェルは叫んだ。どうしてか知らないが、魔物を統べる邪竜はもうどこかに去っている。歪んだ現状を受け入れる必要などない。

『そうなのだ! 嘆かわしいことだ。この地を保護してくれた神がもういないとは』

「なんですって……?」

 テュールの口から出た言葉に、フェルは耳を疑った。

 邪竜は忌むべき存在とユウは語っていた。同じ民の族長であるテュールはそう思っていないのか。

『レキが残した寿命の祝福は尽きてしまった。なら、邪神だけが命をつなぐ方法ではないか。違うか?』

 テュールは言った。データベースから多くの情報を得ているだろう彼女の、それがこの世界に対する解釈だというのか。

 まさか、敵地に自らの騎士を向かわせたのもそのためなのか。一定の数の人間を供給し、命を循環させるために。

「これがレキの、星典の望んだことであるはずがない……」

 フェルはつぶやく。女神と呼ばれるものが、生贄のようないびつな命の循環を許すはずがない。

 このシステムを作ったのはレキではない。都市生成システムの暴走、そこに理由があるに違いない。

『それを言うなら、お前とてよい目的のために生み出されてはいないだろう。その力は禁忌のものだ。つまり――』

「黙れ」

 逆鱗に触れられ、フェルは低い声を出した。

 怒りを感じるフェルに対し、テュールは言う。

『救ってくれると言ったな、司書。ならば私たちと交わり、この地にその優れた血をもたらすがいい』



「……ナビ。聞こえますか!」

 フェルは通信を送ってみた。しかし、距離が離れすぎていてLNのナビにはつながらない。

 暗い部屋の中、大蛇は再びこちらに向かってくる。テュールの声はもう聞こえない。

 フェルは自らの計算力の全てを使い、先を読もうとした。しかし、蛇の動きが予測できない。

 悪いことに斧もない。蛇に阻まれたベッドの奥にある。

「通信か……!」

 フェルの未来予測は、自分の周囲の幽子運動を緻密に把握することを土台としている。だから、知覚の範囲外から遠隔操作されているものの動きを予想することは不可能だ。この蛇は、多重にぶれた写真のようにしか見えない。

 予測できるとして、動作の寸前の通信を読んで一秒以下。フェルはすんでのところで敵の体当たりを避け続けた。

 ダメだ。このままではいつか詰む。この機械の活動限界よりフェルの体力の方が先に尽きる。

 ユウに連絡がつけばこの扉をバングルで開けてもらえるのに。そう思った時、フェルはテュールが言っていたことを思い出した。

 バングルは認証システムの一種。なら、フェルは権限を行使できるのではないか。

 テュールが閲覧していた情報は旧イザヴェルが由来と思えるものもあった。ならばこのシステムは、その時代の汎用システムの可能性が高い。わざわざ別のシステムを作る必要がないからだ。

 これまでは樹脂のネットワークに接続することはひかえてきた。システムの内容が不明なので、不用意な干渉によって生命維持システムに損害を与えるかもしれなかったからだ。

 しかし、もしこれがフェルが知っているシステムならどうだろう。

「やってみるか……!」

 フェルにバングルはない。しかし、脊椎に埋め込まれたNデバイスはあらゆる電子システムにアクセスできる。

 フェルは扉に向き直り、左手に通したNデバイスの細い接触神経を通じてアクセスを試みた。

『ID照会、完了』

 Nデバイスを通じてフェルにそんなメッセージが届けられ、扉はあっけなく開いた。フェルはすぐ部屋の外に出て、再び扉を閉めて蛇を閉じ込めた。

 幸いだった。知識のあるテュールでも、フェルが生身にこのような機能を持っていることまでは頭が回らなかったようだ。

 ユウを探さなくては。異星の城に足を踏み出し、フェルはまずあの実直な騎士の名を思い浮かべていた。



(第8話「統治」に続く)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

フィフス・クラウン 枯木紗世 @vader

現在ギフトを贈ることはできません

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ