非軍事的要素への期待
元陸上自衛隊中央即応集団司令部幕僚長の二見龍氏(元陸将補)は、インタビューに答えて、「ウクライナはこれまで、露軍が占領しているウクライナ領土を返還させるための交渉カードを一切持っていませんでした。しかし、今回侵攻したクルスクは原発、天然ガス計測施設、鉄道主要駅を有する戦略的に重要な地域です。さらに言えば、今回の作戦によって、クルスクは第2次世界大戦後初めて他国に侵略されたロシア領土ということになりました。プーチン大統領が『特別軍事作戦』と呼び続けているこの戦争の現状を、露国民に知らしめるインパクトもあるでしょう」と述べ、クルスク侵攻作戦を評価した。
(https://news.yahoo.co.jp/articles/7f5e4907989435d438cb10db6af644f1e46ed06f?page=3)
しかし、8月26日のインタビュー記事の段階においてはもちろん、もっと早い段階の侵攻開始直後から、ウクライナ軍が原子力発電所などには到達できないことは、明らかであった。なぜ二見氏は、一方的な願望でしかない原発占拠を、侵攻作戦の成果に含めてしまったのか。
また、二見氏においてもまた、元自衛官が、ロシア国民に与える心理的効果という極めて非軍事的で社会学的な要素に関する見込みを、軍事作戦で最も評価できる指標として強調している現象があることも、指摘できる。
二見氏は、「侵攻してきたウ軍を撃退するためには、露軍はウクライナ東部や南部の戦線から優秀な機甲部隊を引き剥がし、クルスク戦線に転進させる必要がある」と断言していた。また、「占領地域を新たな“バッファーゾーン(緩衝地帯)”として利用する」ことができるとも述べていた。
一般論として、攻撃のほうが、防御よりも、大きな負担がかかる。なぜクルスク戦線の開始が、東部戦線において、ウクライナ軍よりもロシア軍に、より大きな負荷をかける、と二見氏が断定したのか、その理由は述べられていない。
また私が「戦線の拡大」としか見えない事態を、二見氏は「緩衝地帯の創設」とみなしている。しかし緩衝地帯とは、通常は、敵対する二つの勢力のどちらも立ち入らない中間地帯のような地域を指すために用いる概念だ。なぜ真っ向から激しく戦闘しあっている地域が、「緩衝地帯」になりうるのか。二見氏は全く説明してくれない。