新たな陰謀論で火消しも効果ナシ トランプ氏「都合の悪いことは責任転嫁」「独断専行」の傾向は今後も悪化して予測不能に
FBI・連邦政府内でウソ発見器の使用も
公私混同も災いして、トランプ氏の支持率は下がる一方だ。民主党支持者にいたってはほとんど全員がノーを突きつけている。 逆風が強まる中、トランプ政権は非常識な手段で対抗している感がある。 ニューヨーク・タイムズは7月10日、関係者の話として、連邦捜査局(FBI)は職員に対してポリグラフ(ウソ発見器)を使用し、パテル長官への忠誠心を確認するような質問をしていたと報じた。 ウソ発見器の使用はFBIだけではない。関係者による報道機関へのリークを突き止めるため、連邦政府内でウソ発見器の使用が広がっている。 さらに、解雇した職員の報復を恐れるトランプ政権幹部の間では、業務に関する指示の文書化を拒否する傾向も強まっている。米国行政が誇る透明性と公正性が急速に損なわれているという懸念が高まっているのだ。
トランプ氏に怒りを抱くMAGA派
徹底したやり方で自陣を固めているトランプ政権だが、支持基盤(MAGA派)との関係が揺らいでいるのが気がかりだ。 拘留中の2019年に死亡したエプスタイン元被告をめぐり、MAGA派は“少女売春に関与した著名人の顧客リストを持っていたために殺された”という陰謀論を信じている。 トランプ氏も何年にもわたってこの説をあおってきたが、ここに来て、それとは矛盾する内容のメモを公表し、この問題を忘れろと切り捨てた。このトランプ氏の手のひら返しに対し、MAGA派の怒りは収まる気配を見せていない。 トランプ氏は怒りの矛先を変えるため、“2016年大統領選挙の妨害を目論んだオバマ元大統領が自身とロシアを不当に結びつけた”とする別の陰謀論を持ち出したが、効果はまったくなかったと言わざるを得ない。
亀裂が生ずるのは時間の問題だった
MAGA派はトランプ政権の外交政策にも不満を募らせている。AFPは7月30日、MAGA派はイスラエルを無条件に支持する方針に反発していると報じた。 トランプ氏とMAGA派はもはや一心同体ではないのかもしれない。 MAGA派の運動家たちは教条主義的な傾向が強く、対してトランプ氏はノンポリの機会主義者(オポチュニスト)だ。トランプ氏のカリスマ性などのおかげでこれまで蜜月関係にあったが、両者の間に亀裂が生ずるのは時間の問題だった。 現時点でMAGA派と距離を取ろうとしているトランプ氏だが、求心力がさらに低下すれば、対応が変わる可能性は十分にある。オポチュニストぶりを発揮して再びMAGA派にすり寄っていくことはやぶさかではないだろう。そうなれば、トランプ氏の言動はこれまで以上に過激かつ予測不能になってしまうのではないだろうか。
藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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