米X(旧ツイッター)は2024年6月12日(日本時間13日)、Xの「いいね」を非公開化する仕様変更を行った。いいねの件数はこれまで通り公開されるが、他人の投稿に誰がいいねを押したかは確認できなくなった。非公開化に踏み切った理由は何だったのか。これまでの経緯をまとめ、専門家に背景を分析してもらった。(時事ドットコム編集部 太田宇律)
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「プライバシー保護のため」
Xの日本版公式アカウントは日本時間の13日午前、「みなさんのプライバシーをより守るために、『いいね』の仕様が一部変更となりました」と投稿した。誰がどの投稿にいいねをしたか見えるのは、いいねをした本人とその相手に限られると説明。好みの投稿に多くいいねを押すことで、自動でおすすめされる投稿の精度が向上すると呼び掛けた。
Xのオーナーで米実業家のイーロン・マスク氏は「誰にも攻撃されることなく、人々がいいねできるようにすることが重要だ」と投稿。いいね件数の動向を示しているとみられるグラフを掲載し、「非公開化したらいいねが激増した!」と成果を強調した。
不便?助かる?賛否両論
仕様変更は日本のユーザーにも順次適用され、記者のスマートフォンのアプリ上でも「いいねが非公開になります」とのポップアップ通知が表示された。これを受けて、13日は「Twitter改悪」「イーロン」といった関連ワードがXで次々とトレンド入り。使用する機器によっては、自分に対するいいねまで誰のものか分からなくなった人もおり、賛否両論が渦巻いた。
各ユーザーのプロフィール画面から閲覧できた「いいね欄」を巡っては、23年からXの有料会員限定で、他のユーザーに公開するか選べる機能が導入されていた。今回の仕様変更では、一転して全会員が一律に非表示となったため、「不便になる」と嘆く投稿が目立った。
自分と趣味の合う人の「いいね欄」から良質な投稿を探すことができなくなったり、あるアカウントが最近の投稿にいいねをしているか確かめることで、安否確認することができなくなる―といった意見も。一方、自分の好みが他人に見られることを嫌うユーザーもいたようで、「これからは心おきなくいいねを押せる」との書き込みも見られた。
「いいね」巡り、国会議員が敗訴も
賛否が分かれる中、なぜXはいいねの非公開化に踏み切ったのか。SNSに詳しいITジャーナリストの三上洋さんは、「背景にあるのは、プライバシーやトラブルを心配するユーザーの『いいね控え』だ」と指摘する。
いいねを巡っては、不適切な投稿に対して押した場合、訴訟やトラブルに発展するケースも相次いできた。代表的なのが、ジャーナリストの伊藤詩織さんが2020年、自身を中傷するツイッター(現X)の投稿に自民党の杉田水脈衆院議員がいいねを押したことで名誉感情を傷つけられたとして、220万円の損害賠償を求めて提訴した事案だ。
一審東京地裁は、いいねがブックマークなどの目的で使われることもあるとして違法性を否定したが、二審東京高裁は杉田氏がテレビ番組などで伊藤さんを非難していた点に着目し、名誉感情を害する意図でいいねを押したと判断。国会議員としての影響力も踏まえ、一審判決を変更して55万円の賠償を命じた。この判決は24年2月に確定している。
24年3月には、インナーウエア大手「アツギ」のX公式アカウントが、複数の女性蔑視的投稿にいいねを押したとして「炎上」。同社は「運用管理が不適切だった」と謝罪した。三上さんはこうした経緯から、「きわどい投稿には、再投稿(リポスト)するだけでなく、いいねをすることも慎重になるユーザーが増えてきた。『いいね欄』の非公開化は、こうした風潮へのカウンターではないか」とみる。
マスク氏の個人的考えも関係?
Xにはユーザーの滞在時間や満足度を高めるため、いいねを押した投稿の傾向を解析し、好みに合った投稿を「おすすめ」する機能がある。ただ、いいねを巡るトラブルやプライバシーの露出を嫌がるユーザーが増えると、こうしたアルゴリズムが有効に働かなくなる。「いいね控え」が進むと、投稿しても反応が乏しい、つまらないSNSになってしまう恐れもあると三上さんは指摘する。
「X側は、非公開化によっていいね件数の促進や、コミュニケーションの活発化を狙っているのでしょう。非公開化の理由はそれだけではなく、マスク氏本人がいいねをした投稿の内容によって攻撃を受けたくないと考えていることや、Xをよりシンプルにしたいと考えていることも関係していると考えられます」(三上さん)
「成人向け投稿許容」との関連は
もう一つ、非公開化に踏み切った理由として一部で指摘されているのが、Xが今年5月、アダルトコンテンツの投稿について条件付きで認める規約変更を行ったことだ。公式サイトのコンテンツポリシーには「性的表現は、視覚表現か文章表現かにかかわらず、正当な芸術表現の一形態になり得る」などとあり、未成年らの目に触れないよう、適切なラベル付けをすれば成人向けの投稿も許容すると記載されている。
三上さんは規約改定について「今回、『いいね欄』が非公開化されたことで、成人向け投稿へのいいね件数が伸びる可能性はある」と説明。ただ、「X側は、成人向け投稿の活発化を促して、企業収入を増やそうとまでは考えていないのではないか。規約改定の目的は、そうした投稿が望まないユーザーの目に触れないよう『ゾーニング』を徹底することで、いいねの非公開化とは直接関係がないと思う」とした。
より安全なプラットフォームに
マスク氏は2022年にツイッターを買収し、その後、社名をXに変更。赤字体質を脱却するため、大規模なリストラや「認証バッジ」の仕様変更といった改革に踏み切ったが、むしろ偽情報やヘイト投稿への懸念が拡大した。「インプレゾンビ」と呼ばれる、広告収益目的の迷惑ユーザーも増え、企業からの広告収入は激減したとされる。
三上さんは「非公開化でユーザーの『いいね控え』を打破し、コミュニケーションを活発にすることも有効かもしれないが、広告収入を再び増やすためには、ユーザーや企業の信頼性を高めることが重要」と指摘。「そのためには、中傷やヘイト表現の投稿を減らし、インプレゾンビ対策も徹底して、より安全なプラットフォーム作りを進める必要がある」と語った。









