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圭佑と女神の配信劇

作者:ゴミ(41)
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第3話 新生活

 
前書き
ガチ恋女子絶賛募集中。オラの文才に惚れた女性読者は遠慮なくメッセージ送ってくれだで。 

 
 俺の第二の人生は、天神姉妹という二人の女神(アクマ)への、甘美な隷属から始まった。

 その夜、玲奈は「生活の心配はいらないわ。何しろ、明日から私もここに住むのだから」と言い残し、莉愛と共に執事の運転する車で帰っていった。

 ガラス張りの壁に囲まれた豪邸に、一人取り残される。街の灯りが宝石のように瞬く夜景も、今の俺にはただの虚構にしか見えなかった。ここは、俺の城なんかじゃない。美しすぎる、鳥籠だ。



 ポケットのスマホが、現実との唯一の繋がりだった。

 震える指で、配信アプリを起動する。予告なしのゲリラ配信。画面に映るのは、豪邸のリビングを背景に、疲れ切った顔の俺。



 開始と同時に、コメントが滝のように流れ始めた。



『K! 生きてたか!』

『マジで天神姉妹といたのかよ!?』

『同棲ってマジ? 嫉妬で狂いそう』

『ここ、もしかして天神財閥の別荘じゃね? 特定班はよ』



 狂喜、嫉妬、憶測。その熱量に、俺は少しだけ自分が「神谷圭佑」であることを思い出せた。

「……腹、減ったな。夜飯どうしよ」

 独り言のように呟くと、コメントが即座に反応する。



『冷蔵庫見に行け!』

『執事がなんか用意してるだろw』



 言われるがままに席を立ち、システムキッチンへ向かう。巨大な鏡面仕上げの冷蔵庫を開けると、中は高級そうなミネラルウォーターと、なぜか無数の冷凍食品で埋め尽くされていた。チキンライス、チャーハン、ナポリタン。その、あまりに庶民的なラインナップに、思わず乾いた笑いが漏れた。玲奈の、歪んだ優しさなのだろうか。



 電子レンジで温めたナポリタンを無心で掻き込む。味はしない。食事を終えても、埋めようのない孤独が心を蝕んでいた。



『他の部屋も見せて!』

『寝室どこだよ!』



 コメントに促され、俺はリビングの奥にあるドアノブに手をかけた。しかし、ドアはびくともしない。別のドアも試すが、結果は同じだった。

「……開かねえ」

 俺は王様なんかじゃない。飼われているペットだ。



「……そろそろ風呂入るから、今日は切るわ」

 逃げるように配信を止め、俺はバスルームへ向かった。大理石の床、ガラス張りのシャワーブース。不釣り合いなほど豪華な空間で身体を洗い、備え付けの歯ブラシで歯を磨く。鏡に映る自分は、ひどく情けない顔をしていた。

 キングサイズのベッドに横たわり、眠れないまま朝を迎えた。



 翌朝、俺の目に飛び込んできたのは、見慣れた安物の天井ではなかった。どこまでも高く、美しい木目が見える、傾斜のついた天井。

「おはよう、圭佑さん。よく眠れたかしら」

 ラフなTシャツにショートパンツという姿の玲奈が、心配そうに俺の顔を覗き込んでいた。その手には、完璧な焼き加減のトーストとコーヒーが乗ったトレー。

「ここは、あなたの新しい『城』よ」



 玲奈がキッチンで朝食の仕上げをしている間、制服姿で登校前の莉愛が俺の手を引き、リビングの一角、がらんとしたスペースの前に立たせた。

「さあ、Kくん! ここがキミの新しいスタジオだよ! 記念すべき初仕事、始めよっか!」

 彼女はタブレットを取り出し、機材の通販サイトを開く。その隣に、玲奈もマグカップを片手にやってきた。



「マイクはもちろんこれ! Kくん、前の配信で『喉から手が出るほど欲しい』って言ってたもんね!」莉愛が興奮気味にカートに追加する。

「待ちなさい、莉愛。神谷さんの声質なら、こちらのコンデンサーマイクの方がより繊細な息遣いを拾えるわ」玲奈が冷静に指摘し、別の商品をカートに入れる。

「じゃあ両方買えばいいじゃん!」「それもそうね」

 俺を間に挟み、姉妹は「圭佑くんの最強装備」を、実に楽しそうに、しかし一切の躊躇なく次々とカートに放り込んでいく。決済ボタンを押した莉愛が、にっこりと笑った。「お急ぎ便にしたから、今日の夕方には全部届くって!」

 その、あまりに現実離れした光景に、俺はただ圧倒されるしかなかった。



 食事を終え、落ち着きを取り戻した俺に、玲奈が向き直る。

「私たちは、あなたの復讐の『共犯者』になります」

 彼女は、テーブルの上に、一枚のカードキーを置いた。シルバーを基調とした、理知的なデザインのカードだ。

「これは、この家のマスターキー。そして、私との**『恋人契約』**の証。私は神谷さんの全てを管理し、成功へと導く。その代わり、神谷さんはこのカードで、私の全てを『使用』する権利を得るの」



「待って、お姉ちゃんだけずるい!」

 会話を聞いていた莉愛が、今度はピンクゴールドのカードキーを、俺の手に握らせてきた。

「Kくん、こっちも受け取って! これは、このお城の、Kくんのプライベートエリアに、私だけが入れる『特別許可証』! そして、私との『恋人契約』の証! Kくんの心は、私が独占する! その代わり、Kくんは私を『所有』していいからねっ!」

 性質の異なる二枚の「恋人カード」を手に、俺の理性は完全に焼き切れた。



 ヤケクソになった俺は、玲奈に「どうせなら、俺のガチ恋ファン、全員集めてアイドルでもプロデュースしてやるか」と自嘲気味に呟いた。

 すると玲奈は、悪魔のような笑みを浮かべて、静かに答えた。

「ええ、とても合理的で、素晴らしいアイデアね」

「その『アイドル選考』という名目で、あなたを裏切った女たちを、もう一度私たちの土俵に引きずり出しましょう。そして、今度こそ、完膚なきまでに叩き潰すのです」



 その夜、玲奈と二人きりの城で、反撃の狼煙が上がった。

 俺のチャンネルで始まった、予告なしのゲリラコラボ配信。

 画面には、俺と、そして隣に微笑む天神玲奈。

 同接数は、見たこともない速度で跳ね上がる。コメント欄が、狂喜と嫉妬で埋め尽くされる中、玲奈が、全世界に向けて、はっきりと宣言した。



「私は、神谷圭佑さんの『最初の恋人』、天神玲奈です」

 そして、配信中のカメラの前で、俺の唇に、そっと、キスをした。



 滝のように流れていたコメントが、一瞬、完全に、止まった。



 新たな城で、最強すぎる共犯者と共に。

 俺の世界をひっくり返すための、最高に甘くて、最高に過激な反撃が、今、始まった。 
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