まじかるクラウン 第43話 洗い流された汚名 まじかるクラウン

『本日 丙申年2月13日
中殿キム氏の王妃の位を剥奪し 平民に降格するものとする』

凍りつく貞純(チョンスン)王后
英祖(ヨンジョ)王は都承旨(トスンジ)に書き留めさせ
一切の言い訳も取り成しも受け付けなかった
温情を持って先の罪を許し 王妃の座に留めたにもかかわらず
再びの裏切りに遭ったことで もはやその決断が翻ることは無かった

※都承旨(トスンジ):王命の公表・伝達をし民の上訴を王に伝える官職

『そなたを不憫と思った日々が悔やまれてならない!
もっと早くに追放すべきだったのだ…!!!』

泣き崩れるキム氏が 女官たちの手で引き摺り出されると
英祖(ヨンジョ)王は『もう1通の宣旨(せんじ)を出す』という

“丙申年2月15日をもって王位から退き 王世孫に譲位する”

衝撃的な2つの宣旨(せんじ)が立て続けに出され 都承旨(トスンジ)はうろたえる
同席する王世孫は ただただ絶句するのであった
平民に降格したキム氏は たちまちのうちにすべての権威を失い
交泰殿(キョテジョン)から荷物が放り出されてしまう…!

※宣旨(せんじ):王の命令を伝達する文書
※交泰殿(キョテジョン):王妃の寝殿

サンは 決して譲位を受けることは出来ないと固辞し続ける
王が健在であるのに その座を受け入れることなど出来る筈が無い
その固い意思を受け譲位を取り下げる英祖(ヨンジョ)王だが
摂政として政務を代行するようにと命じるのだった

『まずはジェゴンから私が預けた物を受け取るがよい
そして謀反人共を断罪し政敵を一掃するのだ
如何なる同情も抱いてはならぬ!!!』

死を覚悟した英祖(ヨンジョ)王は チェ・ジェゴンに小箱を託していた
その箱の中には1通の手紙が入っていた

一方 王妃の降格と王世孫の摂政を知ったファワン翁主(オンジュ)は
次は自分の番だとうろたえる
重臣たちも動揺を隠せない
亡き思悼(サド)王世子の件も含め 王世孫が実権を握れば無事では済まない
いよいよ王世孫の報復が始まるのだと…!

※翁主(オンジュ):側室から生まれた王女 正室から生まれた王女は公主

一度は王世孫から罪を許すと言い渡されたものの このすべての処断が
英祖(ヨンジョ)王によって覆され 新たな処分がなされたのだ

禁軍(クムグン)の部隊長らは斬首刑
左承旨キム・ギジュは
義禁府(ウイグンブ)に投獄の後 辺境へ流刑に…!
この報復とも取れる処断に すべての重臣が明日は我が身とおののく
そうならないようにと ソクチュは王世孫と取引したのだが…

※禁軍(クムグン):王を護衛する王直属の部隊
※義禁府(ウイグンブ):重罪人を扱う検察のような機関

王世孫は 居を移されたキム氏を訪ね嘉靖堂(カジョダン)へ行く
キム氏は威厳を保ち さっさと廃位を公にすればよい!と息巻くが
サンは 宣旨(せんじ)を公布しないと宣言する

『父を死に追いやった者たちの最期を見届けるべきです
王様の判断を誤らせ 横暴の限りを尽くした重臣らの最期を…!
中殿様の手足となったがために無残な最期を遂げる者たちをどうぞご覧に!
そして最後に中殿様の罪を問います まだ始まってもいない』

キム・ギジュはまったく反省することなく
最後まで悪態をつきながら流刑地へと護送されて行った
それを見送るパク・テスは 腹立たしさに身を震わせる
反省すらしていない大罪人が なぜ流刑ごときで済まされるのか…!
しかし更に憤慨しているのはホン・グギョンであった

その頃 図画署(トファソ)では
王世孫が王座に就けば いずれソンヨンが側室になるとの噂が流れ
これまでソンヨンに辛く当たって来た画員たちは戸惑いを隠せない
ただイ・チョンだけが高笑いしていた
自分を苛めた画員たちの名簿を作るべきだとソンヨンを焚き付ける

※図画署(トファソ):絵画制作を担う国の機関

今まさに 名簿を作れとグギョンから命じられるパク・テス
いくら王世孫様の政敵を一掃するためだと言われても 何か違う気がする
グギョンがしようとしていることは 王世孫の本意ではないと思うテスだった
しかしグギョンは 微笑むばかりで何も答えない

そんな中 ソンヨンは恵嬪(ヘビン)ホン氏の呼び出しを受ける
よく思われていないと知っているだけに気が重かったが そうではなかった
嬪宮(ピングン)孝懿(ヒョイ)王后の取り成しで
ソンヨンが 一連の騒動の解決に協力したことを称えるために呼ばれたのだ

※恵嬪(ヘビン):亡き王世子の妃
※嬪宮(ピングン):王世孫の妃

せっかく宮殿に来たのだから 王世孫様に会っては?と言い出す孝懿(ヒョイ)王后
ソンヨンは ただ戸惑い恐縮するばかりだった
なぜ2人をわざわざ会わせるのか…キム尚宮は気に入らなかった

孝懿(ヒョイ)王后は 世継ぎの心配をしていたのだ
病弱な自分は おそらくもう任務を果たせないと…
そして多忙な王世孫の心を癒せるのもソンヨンなのだと

『まさか… あの女を側室に?!!!』
『これも嬪宮(ピングン)である私の役目だと思わぬか?』

ソンヨンはそんな気遣いにも気づかず 弓場の王世孫を遠くから見守る
声をかけずに去ろうとすると サンの方が気づいた
来ていたなら声くらいかけろというサン

『おひとりでいたいように見えたので』
『父上を死に追いやった者たちの心臓を狙っていたのだ』

サンは ソンヨンを相手に胸中を語る
決して寛容に許したのではない
むしろ心の中は熱く燃え滾っていたのだ

『許す気持ちなど微塵も無い 必ず断罪してやる!
1人ずつ…確実に…!罪を償わせるつもりだ!
今はただ 時機を待っているのだ』

それから間もなくして 重臣が次々と行方をくらました…!
ホン・イナンによれば失踪した重臣は
兵曹判書(ピョンジョパンソ) 工曹参判(コンジョチャムパン)の2人
そしてチョン・フギョムによれば 失踪したのはあと2人
前左議政(チャイジョン)と前刑曹参議(ヒョンジョチャミ)であった

現職の重臣のみならず 既に政(まつりごと)から退いた者まで…!
絶句するチェ・ソクチュに フギョムは関係無くもないと話す
いずれも亡き王世子の死に関与している者たちだと!

ファワン翁主(オンジュ)は激しく動揺し
直ぐにも父王のもとへ駆け付け命乞いをすると言い出す
それを止めるチョン・フギョム!
王妃までも遠ざけた方が 娘だからと救う筈は無いと…!

チェ・ソクチュはたまりかね 東宮殿に出向き王世孫に会う
話を聞かずとも なぜ会いに来たのかサンは見通している
そして4人の重臣の失踪には関与していないと告げた
だとすれば 罪の意識で自ら姿を消したとしか考えられないという
国事が山積している今 保身を図る者の面倒までは見れないと
今は吏曹判書(イジョパンソ)としての仕事に専念してほしいとまで言われ
それ以上は何も言えず 引き下がるしかないソクチュであった

※吏曹判書(イジョパンソ):任官や人事考課などを行う官庁の長官

その頃ホン・グギョンは 山中で密かに部下と会っていた
重臣たちを夜な夜な拉致していたのは グギョンだったのだ…!
自宅に戻ると そこにはテスが待っていた
出仕しないグギョンを按じ 様子を見に来たのだ
釣りを楽しんでいるというグギョンに そんな場合か!と憤るテス

『まあそんなに心配するな!
王世孫様のために大物を釣り上げているところだ』

テスはどうもグギョンの行動が怪しいと睨む
毎日釣りをしていると言うが 釣り竿が使われた形跡が無いのだ

その夜
ホン・イナンの屋敷に賊が侵入する
危うく拉致されるところを 居合わせたチョン・フギョムが救出した
賊を捕えることは出来なかったが 拉致を阻止することは出来た
なぜ外戚のイナンまで狙われるのか フギョムは訝しむ
イナンは 恵嬪(ヘビン)ホン氏の叔父にあたる
しかし謀反の輩と成り下がった叔父が許される筈も無く
ホン氏とは決別したままになっていたのだ

一方 部下から失敗の報告を受けたグギョンは 身を隠すよう命じた
そこへ王世孫イ・サンが現れる…!
テスが部下を尾行し サンとナム・サチョを案内して来たのだ

グギョンは この国の歴史を汚した者たちを許すことが出来なかった
王世孫であるサンが 立場上出来ないのであれば
自分が代わって復讐の鉄槌をくらわすしかないと…!!!

『それで国法を無視したというのか?
歴史を正すというもっともな理由で国法を踏み躙ったと?!』

権力を乱用し命を奪う行為が断罪だと言えるのか!と憤るサン
これならあの者たちと何ら変わらない!!!と怒鳴りつける

『なぜ慎重になる私の気持ちが分からないのだ!!!
私も連中を皆殺しにしたい! いや私こそがそう思っている!
王世孫という立場でなければ既に八つ裂きにしていた!!!』

サチョもテスも これ程までに憤る王世孫を見たことが無い
今すぐ彼らを解放しろ!と言い捨て 王世孫は去って行く
国法を犯したグギョンがどうなってしまうのか…
テスは申し訳ない気持ちでうなだれる
王世孫の命令で偵察していたことに罪の意識を感じていた

グギョンには 王世孫に対する並々ならぬ忠誠心があった
だからこそ王世孫を苦しめた輩を断罪したかったのである
正論でしか行動出来ない王世孫に成り代わり助けたかったのだ

グギョンは その日のうちに東宮殿に出向く
最後の理性をもって謝罪しに来たのだ
うなだれるグギョンを見つめるサンの表情に もう怒りは無かった
拉致した者たちを帰したか?と聞く

『はい 私が愚かでした』
『私の指示で動いたと言え』
『…え?』

何人もの重臣を拉致したからには 取り調べは免れない
グギョンを救うには “任務を果たしたまで”という理由しか無かった
そしてこれまでに調べ上げた調書をグギョンに渡し
彼らを放免する気など無いのだと告げるのだった

『たとえ遠回りになろうと必ず彼らを断罪する だが今はその時機ではない
準備が整えば 罪人たちに相応の代価を払わせてやる』

王様に 安らかな晩年を過ごさせてやりたいと呟くサン
今ここで行動してしまえば 王様は死の間際に血の雨を見ることになると
そういったことまで考え サンは時機を待つと言っているのであった

それから数日して サンはチェ・ソクチュを呼びつけた
同席するチェ・ジェゴンは憮然としている
英祖(ヨンジョ)王に代わり政務を代行するにあたって
サンは ジェゴンと共に朝廷の改革案を練ってほしいと切り出す

ジェゴンが憮然としているのはこのためであった
もともと謀反人たちの側であったソクチュとなぜ改革を?!
ソクチュは 誠心誠意尽くすと答えるしか無いのである

『まずは亡き思悼(サド)王世子様に関する記録の修正を
父上を逆賊として貶める記録は消して良いと 王様が許してくださった』

同じ時ホン・グギョンは
チョン・フギョムを呼び出していた
書状を受け取り蒼褪めるフギョム
それは現状から7階級も降格するという通達であった
いっそ斬首される方がマシともいえる通告なのである
自らの降格を言い渡されながら 更にもう1つの情報を聞かされる

共に謀反を企てたチェ・ソクチュは栄転するのだと…!

はらわたが煮えくり返る思いのチョン・フギョム
チェ・ソクチュもまた複雑な思いの中で苦しんでいた
これまで自分がして来た事の記録を 自ら消すことになる
そして朝廷の改革案を一任されるという屈辱…!
生きながら誇りを踏み躙られるという 最も残酷な制裁を受けるのだ

報告を受けたファワン翁主(オンジュ)は悔しさに涙を滲ませる

『母上は 私を養子にしたのは王位に就けるためだと仰った
その言葉は今もこの胸の奥にあります!』

身を震わせる息子に 今はもうそれも叶わないと嘆くファワン
もし王世孫の殺害に成功していれば
ファワンと王妃が 玉座を巡って争っていたことだろう
王妃もまた 幼い王子を擁立し国政の実権を握ろうとしていたのだ
フギョムは微塵も諦めるつもりはない
側近に命じ 次の策を実行に移そうとするのであった…!

一方 亡き夫の屈辱的な記録が消されるとの報告に
恵嬪(ヘビン)ホン氏は積年の恨みが晴らされる感動に打ち震えていた

史書の修正が行われる当日
図画署(トファソ)も慌ただしくなる
すべての様子を余す所無く記録しなければならないのだ
選出された画員と茶母(タモ)の中には ソンヨンの姿もあった

※茶母(タモ):各官庁に仕える下働き

儀式が行われたのは 雪が降り積もる山中であった
史書を1枚1枚破いて 凍える川の水で洗い流していく
嘘で固められた亡き思悼(サド)王世子の屈辱的な記録が こうして消されていく
儀式の場に 英祖(ヨンジョ)王が現れた
寒空を厭わず 自らの過ちを正す儀式に 這ってでも参列しなければと…

やがて儀式を終え宮殿に戻る行列
サンは英祖(ヨンジョ)王を気遣いながら歩みを進めていく
足元がふらつく王に しばしの休憩を取ることになった

『そんな顔をするでない まだここでは死なぬ
死に場所は決めてあるのじゃ 死ぬ時はそこで死ぬ』
『王様!何を…!』

柔らかな日差しを浴びながら 英祖(ヨンジョ)王は孫に語りかける

『サンよ 必ず聖君になれ 父上の切なる願いを忘れるでない
それはまた この祖父の最期の願いでもある
そなたならきっとなれる! 民を慈しむ情け深い王になるだろう
忘れるな 上辺だけを照らし潤すだけでは駄目だ
隅々にまで光を注ぎ 深いくぼみの中も潤す慈悲深い王になるのだ…!』

渾身の思いを込めて 英祖(ヨンジョ)王は孫に語る
これが最期の言葉となった
数日後 政務に励む王世孫のもとに 王の失踪が告げられた
王衣を脱ぎ捨て 一体何処へ行ってしまったというのか…!!!

「死に場所は決めてあるのじゃ 死ぬ時はそこで死ぬ」


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