第41話 無謀な戦い
『黙られよ!何という言い草ですか!ここは王妃様がいるべき場所ではない!
力づくで追い出される前にお引き取りを!!!』
『無礼極まりない!』
王妃と王世孫の確執は表面化し 宮中に噂が広まっていく
まことしやかなその噂を キム尚宮が報告しにやって来た
恵嬪(ヘビン)ホン氏と嬪宮(ピングン)孝懿(ヒョイ)王后が
心配顔でキム尚宮の話に耳を傾ける
※恵嬪(ヘビン):亡き王世子の妃
※嬪宮(ピングン):王世孫の妃
王世孫廃位の噂が流れる中 このまま王様が目覚めなければ…
そう考えると 2人の不安は募っていくばかりであった
王妃は憤慨して便殿から戻る
あくまでも強気の姿勢を見せる王世孫に 決して油断はならないと…!
王様の譲位の意向が確かであることを 証明しようとする筈
反撃してくる前に片を付けようと 重臣らを招集する王妃であった
書き換えられた宣旨(せんじ)は 都承旨(トスンジ)を介していない
王と王世孫が2人だけで交わしたものである
英祖(ヨンジョ)王の意識が戻らない今 本物だと証明することは極めて難しい
※宣旨(せんじ):王の命令を伝達する文書
※都承旨(トスンジ):王命の公表・伝達をし民の上訴を王に伝える官職
王命について正式に認められているのは “王世孫の廃位”までである
重臣たちは王の快復が見込めない以上 それを優先するしかないのだ
王妃のもとへ続々と重臣たちが集結する
王妃は王世孫が反撃してくる前に 宣旨(せんじ)を施行するという
引き摺り下ろしてでも王世孫を廃位せねばと…!
“引き摺り下ろす”とは “武力を行使する”という意味である
禁軍(クムグン)と禁衛営(クミョン)は既に掌握している
これを使えば 今夜中にも東宮殿を落とせるというのだ
※禁軍(クムグン):王を護衛する王直属の部隊
※禁衛営(クミョン):首都防衛を行った軍営の1つ
『今夜中に東宮殿を攻め王世孫を軟禁せよ!
明日には便殿で王様の宣旨(せんじ)を発布するのだ!』
解散すると チェ・ソクチュは大きくため息をつく
明らかに王から譲位の意思を聞いているソクチュであった
『これは謀反だ』というソクチュに
『こうするしか道は無い』というフギョム
『私に出来るのはここまでだ 密告するつもりは無いが
信じられぬなら見張りでもつけるがよい』
密命を受け動き出そうとする禁衛営(クミョン)
その指揮を執るのは副将オ・ミョンスである
そこへ予告も無く王世孫イ・サンが現れ シン大将に会いたいと言い出す
ミョンスは シン大将は昨晩から行方が分からなくなっていると答えた
『黙れ!出まかせを言うでない!!!』
清廉潔白なシン大将が 敵に加担するとは思えない
だとすれば 敵の陰謀に巻き込まれたに違いないのだ…!
ホン・グギョンは直ちに禁衛営(クミョン)を城外に出すべきだという
しかしそうなれば 禁軍(クムグン)のみに警備を任せることに
禁軍(クムグン)の親衛隊長チョ・ジョンスは老論(ノロン)派である
チェ・ジェゴンは それこそ安心出来ないと反対する
禁軍(クムグン)が700 禁衛営(クミョン)が400
千人を超える兵士が 今夜王世孫の首を狙って来るということだ
いかに老論(ノロン)派といえども
禁軍(クムグン)の親衛隊長チョ・ジョンスは慎重だ
キム・ギジュが王世孫を廃すると言っても 直ぐには信じない
王様の病に乗じて朝廷を掌握しようとする王世孫を黙認するのかと
禁軍(クムグン)の親衛隊長たる者がそれでいいのか!と詰め寄るギジュ
今こそ王様と朝廷を守るべきだ!と…
ここまで言われては抵抗出来ないジョンスであった
ソ・ジャンボとカン・ソッキ そしてパク・テスら護衛官たちには
禁軍(クムグン)と禁衛営(クミョン)を警戒しろとの命が下る
本来 王と宮殿を守るべき兵士を 逆に監視せよとは納得がいかないテス
しかも 数十人の護衛官でそれらを迎え撃つなど不可能なことであった
その頃 図画署(トファソ)では
宮中での業務が突然休止となり 皆が戸惑っていた
間もなく反乱が起きるという噂で持ちきりである
※図画署(トファソ):絵画制作を担う国の機関
ソンヨンは 本当に王世孫が廃位されてしまのではと心配でたまらない
宮殿へ行くというソンヨンを パク・タルホが必死に止める!
それでもじっとしていられず テスの着替えを持って行くと
テスにも叱られてしまう…!
詳しく知りたがるソンヨンだが すべてを話すわけにはいかない
その曖昧な態度に ますます不安になるソンヨンだった
意識不明が続く英祖(ヨンジョ)王は 脳梗塞の影響で麻痺が生じていた
サンは そんな王を見舞った後
禁軍(クムグン)の親衛隊長チョ・ジョンスを訪ねる
そして単刀直入に『説得しに来た』と切り出した
『どういうことか分かりませんが…』ととぼけるジョンス
数時間後には行動に移すことになっているが 気取られまいと視線を逸らす
そのすべてを見透かし サンは真正面から説得を試みる
『そなたは あの宣旨(せんじ)が偽物だと分かっている筈だ
あの朝 王様と永祐園(ヨンウウォン)に行ったのはそなたであろう?』
※永祐園:亡き思悼(サド)王世子の墓
未だ意識の戻らない王の真意を ジョンスだけは知っているのだ
サンは ジョンスの胸の内に触れ 忠誠心と誇りを思い出させようとする
王を守るべき武官が 禁軍(クムグン)の親衛隊長としての任務を放棄し
反逆者として歴史に名を残すのかと…!
同じ時 ホン・グギョンが護衛官を招集していた
少ない人員を 宮殿と各門の警備に振り分けようというのである
兵士の間に動揺が走る
詳しく話して動揺を広げることは出来ない
黙り込むグギョンに 護衛官たちが口々に不安を言い出す…!
するとテスが我慢出来ずに怒鳴る!
『だからどうすると?!このまま何もしないんですか!
王世孫様を守れるのは我々だけなら何とかしないと!!!』
テスの叫びに突き動かされ 護衛官たちは持ち場に移動するのであった
一方 親衛隊長チョ・ジョンスは考え込んでいた
指令通りに 兵士たちが大殿(テジョン)と東宮殿を包囲する
それでもまだ ジョンスは迷い続けていた
大殿(テジョン)では
カン・ソッキが部下と共に警備にあたっている
そこへ禁軍(クムグン)が押し寄せた…!
チョ・ジョンスが ここは我らの持ち場だと叫ぶ!
同じ時 東宮殿を守るソ・ジャンボとパク・テスは…
禁衛営(クミョン)の副将オ・ミョンスが兵を従えて現れ
ためらわず剣を抜くミョンスに テスは怒りをあらわにした!
『朝廷の兵士でありながら王世孫様に剣を向けるのか!』
王室と宮殿を守るべき兵士たちが 互いに剣を抜き戦おうとしている!
その騒ぎが聞こえた王世孫イ・サンは じっと成り行きを見守り待ち続ける
その時…!
テスたちに迫る禁衛営(クミョン)の兵を
さらに禁軍(クムグン)の兵が取り囲んだ!!!
『これはどういうことですか!』
『私の使命は王様をお守りすることだ!王命のみに従う!武器を捨てよ!』
王世孫が禁軍(クムグン)を掌握し 禁衛営(クミョン)の兵が捕えられた
この報告にキム・ギジュは 大慌てで交泰殿(キョテジョン)に向かう!
※交泰殿(キョテジョン):王妃の寝殿
王世孫が兵を引き連れて現れた時には 王妃は既に逃亡した後だった
逃亡の途中 王妃は輿を捨て歩き出す
真夜中に輿の行列では あまりに目立ってしまうのだ
東宮殿では
一時は裏切った親衛隊長チョ・ジョンスであったが
サンは よくぞ思い直してくれたと感謝の言葉を述べる
ジョンスは 王妃から預かっていた密書を差し出した
その内容を確認したサンは ハッとして表情を強張らせる…!
“王の病に乗じ 王世孫が朝廷を我がものにしようとするのを防げ”
子の密書は 宮外の五軍営にも伝えられているのだという…!
城外に駐屯している兵はおよそ2万
全軍が都に攻め入れば 事態は収拾不可能である!
サンは 元護衛隊長ソ・インスを執務室に呼んだ
インスは 亡き思悼(サド)王世子の忠臣であった
この緊急事態を打開するため イ・サンピルの力を借りようと話す
サンピルもまた亡父に仕えた忠臣であり サンの協力者であった
インスはサンピルへの協力要請の任務を遂行すべく
平安道(ピョンアンド)へ向かう…!
ホン・グギョンはテスたち3人に 五軍営が都に進軍中であると伝える
これを今の軍勢で迎え討っても 持ちこたえられるのは3日が限界である
『ソ・インス様を城外までお連れするのだ
あの方が平安道(ピョンアンド)に辿り着けなければ 我々は絶望的だ』
テスたち護衛官にとって 元護衛隊長のソ・インスは伝説の人物である
最後まで思悼(サド)王世子に忠誠を尽くした 正に英雄であった
それを護衛出来るとは光栄の極みなのである
しかしそれは並大抵のことではない
戦って倒せば簡単だが インスの痕跡を残さず
敵の目をかい潜って進むという隠密行動であった
王世孫イ・サンは 五軍営を迎え撃つため入念に作戦を立てる
平壌(ピョンヤン)の援軍が都に着くまでの4日間
何としても城を守り抜かねばならない…!
翌朝
サンは重大な任務を果たして戻ったテスたちを労った
その上で これから始まる無謀な戦いに挑むにあたり訓示を述べる
僅か800名の兵士で1万の五軍営を相手にするなど 正気の沙汰ではない
しかしこの国の未来の為にも戦わねば!と
王位を継承する者として たとえ負け戦であろうとも挑むのだと!
『4日間守り抜けば… この無謀な戦いを4日間耐え抜けば!
3万の軍勢が平安道(ピョンアンド)から到着する!
しかしこの4日間で全員が息絶えるかもしれない
そなたたちには何の保証もしてやれない 恐れる者は去ってくれ!
去る者を恨んだり 責めたりはしない!
これまでのそなたたちの功を決して忘れぬぞ!』
この場を去る者などいなかった
王世孫に忠誠を誓い 皆の心が団結した…!
必ず守ってやるから王になれと 英祖(ヨンジョ)王は言った
父親の分まで守ってやると 確かにそう言ったのだ
眠ったままの王を見つめながら サンはこみ上げるものがあった
勝つという確信など微塵も無い戦いが始まろうとしていた
図画署(トファソ)では 別提パク・ヨンムンが
暫くの間 自宅で待機するようにと命じていた
間もなく都と宮中が戦場になるかもしれない
皆の動揺が見られたが 詳細を口にすることは出来なかった
ソンヨンは 会うことの出来ない王世孫を按じていた
そんなソンヨンを 陰から見守るテス
想いを伝えておけば良かったと…
このままじゃ死に切れないと 心から後悔するテス
ソンヨンが誰を思っているのか 痛いほど分かってはいるが…
(ソンヨン… 少しは気づいてほしいよ
お前のことはずっと 死んでも守りたい人なんだ…!)
同じ時 サンは恵嬪(ヘビン)ホン氏と対面していた
嬪宮(ピングン)孝懿(ヒョイ)王后も同席している
ホン氏は 王様が亡き夫を理解してくれただけでも本望だという
たとえ死ぬことになったとしても思い残すことは無いと…
『お2人の身は絶対にお守りします 信じて待っていてください』
母であるホン氏とは違い 孝懿(ヒョイ)王后には別の思いがあった
2人きりになると その心中を切なく語る孝懿(ヒョイ)王后
ただ1つの心残りは 世継ぎを産むという王后の任務を果たせていないことだった
もしまた機会が訪れるなら 必ず世継ぎを産んで差し上げたいと…
宮外に逃れた王妃のもとへ チョン・フギョムが駆け付ける
フギョムには既に 王世孫が何処かへ伝令を出したとの情報が入り
その事態を報告しに来たのであった
おそらく平壌(ピョンヤン)に伝令を送ったのだろうというフギョム
それを聞き キム・ギジュにも察しがついた
イ・サンピルの軍勢が到着する前に 何としても都を掌握せねばと息巻く…!
禁軍(クムグン)が寝返ったことは 王妃にとって致命的であった
王世孫の渾身の説得が成功したことは 重大な明暗を分けたのだ
僅か800の兵とはいえ精鋭揃いである
掌握するには数日を要するだろうと…!
その時…!
サンのもとに驚くべき報告が入る
禁軍(クムグン)の一部の兵士たちが離脱したというのだ…!
親衛隊長チョ・ジョンスの忠誠心を呼び起こすことは出来たが
ジョンスは 部下たちを完全に納得させられなかったのだ
小隊を率いる2人の部隊長が 部下を引き連れ城外へ出た
これを迎えた王妃側は歓喜に満ちた…!
貞純(チョンスン)王后は 戻った兵士たちを褒め称え
五軍営の到着を待たずして共に宮殿へ戻ると言い出す
300足らずの軍勢では城を守り切れるわけが無いと…!
自身に満ちて宮殿に戻ると宣言するのであった
王妃側から手を引いたチェ・ソクチュ
ホン・イナンは『読み違えましたな』と声をかける
そうなるならそれも運命だと呟き ソクチュは動じない
さすがに意気消沈する側近たちに対し サンは諦めるな!と檄を飛ばす
300の兵で数万の敵と戦う方法を考えればいいだけのことだと…!
王世孫の言葉に気を取り直し ホン・グギョンが方法を考えるという
チョ・ジョンスもまた 残った兵の配置を組み直すと…!
仕切り直して再び挑もうと 意志を確認し合ったところへ
ナム・サチョが急を知らせに飛び込んで来た!!!
『王世孫様! 王様が…!』
宮中には老論(ノロン)派の重臣たちを従え王妃が戻って来ていた
離脱した兵士が その行列を取り囲むように進軍して来る!
門を守る禁軍(クムグン)の兵士は必死に抵抗するが 多勢に無勢であった
王妃の傍にはキム・ギジュが
その後方にはファワン翁主(オンジュ)とチョン・フギョム
そしてホン・イナンが続いている
※翁主(オンジュ):側室から生まれた王女 正室から生まれた王女は公主
『左承旨!王世孫を捕えよ!』
『はっ!!!』
命令を受けキム・ギジュが動く!
しかし乗り込もうとする前に扉が開き 王世孫イ・サンが出て来る!
『やめよ 王様のおなりだ!』
『えぇっ?!!!!!』
驚愕する王妃!
後ずさるファワン翁主(オンジュ)!
重臣たちは我が目を疑い言葉も無い…!
『これはどういうことだ!!!!!』
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