米騒動を機に考えたこと~政府の情報発信とマスコミのチェック機能
米騒動と南海トラフと買いだめについて、記事を書いた。(上)と(下)があり少し長いけど、グラフを多用しているので読みやすいと思う。ご興味おありの方はぜひご一読を。コメ価格のグラフとか、なかなか衝撃的なので、グラフだけでも見ていってください。INODS UNVEILに掲載中。
コメと地震とパニック買い(上)「巨大地震注意」がコメ価格急騰の引き金に
コメと地震とパニック買い(下)~メディアによる拡散と政府の嘘
以下は雑感のようなもの。こちらは短いのでお気軽にお読みいただければ。
このインフレ下で何でコメだけ値上がりしないのかな、と思っていたら半年くらいでほぼ倍になった。それまでの遅れを取り戻すかのような急騰。異常な値動きはグラフを見れば一目瞭然である。
少し前にスーパーのコメ売り場の棚がスカスカで、コメが手に入りにくいことがあった。転売業者が買い占めているとか何とか、いろんな憶測があったけれど、データを見ると販売量も購買数も増えている。単純にたくさん買われていたのであって、消費者による買い占め/買いだめが起こっていたということだ。このような購買行動は、災害などの非常時によく起こる。
販売量と購買数が急激に増えた時期に、宮崎県沖の地震とそれに伴う南海トラフ地震臨時情報の発表があった。これがパニック買いに拍車をかけて、コメの品薄と価格高騰を引き起こしたのではないかという説がある(私は今回この立場をとった)。こういうときマスコミは「スーパーの棚が空っぽ」だとか報道したがるけれど、これが事態を悪化させてしまう。オイルショックのときのトイレットペーパー騒動(1973年)からあまり変わっていない。耳目を集めることがマスメディアの商売のやり方で、彼らはSNSをアテンションエコノミーだというけれど、マスメディアこそ元祖アテンションエコノミーなのだ。
政府は政府で臨時情報を出しっぱなしで、「防災対応」は自治体や企業などに丸投げだった。「何をどうしていいかわからない」という反応が多かったらしい。それはそのはず、そもそも臨時情報の巨大地震注意などというものは矛盾したメッセージだからだ。地震の発生確率が上がっていると注意喚起しつつ、普段通りの生活を続けるようにと指示するのだから。
臨時情報のもとになっている学説そのものにも、問題があるように見える。30年で70-80%というけれど、そんなふうに地震の発生を予測できるものだろうか。宮崎で地震があったから関東圏で一週間気をつけろと言われても、ぜんぜんピンとこない。以前は「予知」としていたのを予知は不可能だということで「予測」にしたらしいが、違いがよくわからない。
南海トラフに関する学説とか臨時情報は、専門家の間でも科学的根拠が薄いという声があがっている。政府の有識者会議で議論をリードしてきたような高名な学者が、引退を前にして自説の誤りを告白したりしている。
政府等の公的機関による情報は最も信頼できるとされているし、非常時/緊急時には従わざるを得ない。そのような強制力のある重要な災害関連情報が科学的根拠に基づいていないとしたら、こんなに恐ろしいことはない。せめてマスメディアのチェック機能が正常に働いていればいいのだが。
今回参考にした本の中で特にお勧めなものを2冊挙げておく。
小川真如『日本のコメ問題』 中央公論新社(2022)
コメ問題は田んぼの問題だという話。コメを巡る問題を網羅的に扱っていて、農政やコメの自由化についての経緯が詳しく書かれている。コメは身近なようでいてコメのことは何も知らなかったな、とつくづく思った。
小沢慧一『南海トラフ地震の真実』東京新聞(2023)
南海トラフ地震について地道に取材を続けている東京新聞の記者による連載をまとめたもの。有識者会議の議事録を開示請求したり、タンスに眠っていた古文書を見に行ったり、専門家にかたっぱしから取材したりと、調査報道かくあるべしという執念を感じる。
コメと地震とパニック買い(上)「巨大地震注意」がコメ価格急騰の引き金に
コメと地震とパニック買い(下)~メディアによる拡散と政府の嘘
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