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誰がジャーナリズムを殺すのか①フジテレビ記者会見から報道の自由と知る権利を考える 

10時間以上に及ぶフジテレビ首脳陣の記者会見をほぼ通しで見ていたけれど、途中から「ジャーナリズムとは何か?」という疑問で頭がいっぱいになった。フジテレビのことはどうでもよくなってしまいそうだった。

ジャーナリズムって、いったい何なんだろう?

きっかけはフリー記者の横田増生氏の質問だった。それまでずっとフジテレビ側は被害者のプライバシー保護を盾にして、まともに質問に答えようとしていなかった。少しでも突っ込んだことを聞かれると、「プライバシー保護」を持ち出してシャットアウトするのである。誰が見てもそれはただの詭弁であり、保護したいのは被害者ではなく経営陣と大ボス・日枝久氏だというのが明らかだった。記者たちの間でいらだちが高まっていく。停滞した空気を破ったのが、横田氏だった。

中居正広氏と被害者との間に「認識の不一致」があったどうかという、核心を突く質問を横田氏は執拗に繰り返し、経営陣に迫った。やっと「ジャーナリスト」が現れたと私は思った。こういう場面が見たかったのだ。私たち市民の代わりに、なりふり構わず権力者の不正と悪を追及し、真相を暴く姿を待ち望んでいた。

そういうジャーナリストの人たちの活躍に、私は思いを託している。NHKに捏造報道されてからは特にそうだ。私にとって彼らは「希望の星」なのである。

フジテレビに限らず、テレビ業界ふくめ既存メディア全体が恐ろしいほど腐敗していて、政財界その他の界隈と複雑な利権で結ばれ、闇カルテルのような構造を成している。昨年持ち上がった旧ジャニーズ事務所問題はその一端にすぎない。今回明るみに出たフジテレビの一件も、同じような性質をもっているようだ。

だから、真相を暴くのは並大抵のことではなく、横田氏のようなベテランのフリージャーナリストが捨て身で向かっていかないと太刀打ちできない。多少は荒っぽい手段を使うのもやむなしといったところがある。実際に、横田氏の戦法は成功したかに見えた。フジテレビ側は押され気味だった。経営陣は目に見えて動揺していた。これで突破口が開かれるかも……と期待したが、結局、横田氏の”不規則発言”は主催者側に阻止されて、せっかくの勢いが失われてしまった。

それに続いて質問に立った記者たちのありように、私は心底驚き、深く失望した。ほとんど絶望したと言っていい。冒頭の「ジャーナリズムとは何か」という問いは、絶望から生まれた問いである。

横田氏に続いて質問に立った記者たちは、横田氏とは対照的にきわめてお行儀がよかった。ルールに従い、声を荒げることもなく、冷静な口ぶりで質問をしていた。だが、その内容が「芯を食って」いたかといえば甚だ疑問であり、海千山千のベテランジャーナリストとは比べようもない。理想を言えば横田氏の後を引き取って、問題の核心を深堀りするか別の角度から攻めるかして、フジテレビを厳しく追及すべきだった。それはともかく私が驚いたのは、横田氏の次に質問した記者が、「ル―ルを守ってください」「静かにしてください」と口にしたことである。私が唖然としていると、その発言に対して報道陣の間から拍手が起こったので、ますます呆れてしまった。なんなんだ、この「学級会」じみた茶番は?

断っておくがこの言葉は、主催者側から発せられたものではない。会見に参加した記者から出た言葉である。この日のフジテレビの記者会見は、新作発表会だの何かのPRだのではなく、首脳陣の不祥事を追及するために開かれたものだ。旧ジャニーズ事務所の記者会見がそうだったように、こういうとき主催者側はできるだけ有利に事を運ぼうとして、あれこれとルールを押し付けてくる。それに大人しく従っていては真相を聞き出せない。

ルールを守れとその記者は言ったけれど、記者会見でのルールというのは法律でも何でもない、主催者側が設定したその場限りのローカルルールであり、そもそも拘束力はあってないようなもの。だいいち、悪人たちの定めた決まりに従ういわれはどこにもない。そんなルールに従うこと自体が、モラルに反しているとさえいえる。不正と悪と腐敗にまみれた権力者たちが、自己保身のために設定したルールなのだ。それに従うことの意味をよくよく考えてほしい。ルールの策定者が悪ならば、その者が定めたルールもまた悪である可能性が高いのではないか? ルールに正当性はあるのか? と。

このような場合にルールに従うのは悪に加担することであって、当然のことながら従順さは美徳になり得ない。このとき人としてのモラルにかない、報道倫理に即した行動は、主催者側が設定した恣意的なルールを破ってでも真相を聞き出すことである。報道の自由はそのためにあるのだ。

報道の自由は一種の特権であるが、それは公益に資するために「与えられて」いる。この特権を最大限に活用して取材し報道することが、報道関係者の務めである。ルールを守れと言った記者は、報道の自由を自ら放棄しただけでなく、同業者たちの報道の自由も抑圧している。これがはたして「ジャーナリズム」だろうか?

「ジャーナリズム」や「ジャーナリスト」の定義は明確に定まっていないが、やはり報道の自由という観点から語るべきではないかと思う。つまり、報道の自由を理解し、報道の自由を体現することがジャーナリズムであり、それを実践する人がジャーナリストなのである。そして、報道の自由は知る権利に奉仕するためにあるのだから、ジャーナリストはわたしたち市民の知る権利にこたえることが務めである。市民の代わりに報道の自由を行使して、市民が知りたいこと/知るべきことを明らかにし、社会に広く伝える役割を彼らは担っている。

わたしたち市民の知りたいこと/知らなければならないことで、自分たちでは知り得ないことは結局のところ何かと言えば、権力側が隠していること、不祥事や不正である。これらはわたしたちの社会生活にも、ひいては生存にも直結する一大事であって、それ以外のことは些事にすぎない。そういう意味でジャーナリストの最大の責務は、権力監視なのである。

フジテレビの首脳陣が問い詰められている様子を見て、「かわいそう」だとか「いじめ」「カスハラ」などという感想がSNS上で聞かれたが、ナンセンスの極みとしか言いようがない。腐敗した権力者に庶民が同情するというあまりにグロテスクな構図に、私は驚きを禁じ得ない。質問を投げかける記者と壇上の経営陣との間に、社会的・経済的・政治的にどれほどの力の差があるか、わかっているのだろうか。弱い立場の者が強大な権力者に立ち向かっていくときには、どれほど強硬に出ても足りないくらいだ。力の差を少しでも埋めるにはそうするしかない。Watch Dogは、よく吠える犬ほど優秀なのだ。
 
報道にたずさわる人々の究極の務めが権力監視であることを、世間の人はあんがい知らないし、報道関係者ですらあまり自覚していないように見える。あるいは、権力に迎合したがるタイプの庶民の「ニーズに応えて」、権力にすり寄るしぐさをあえてしているのかもしれない。そうだとしたらなおさら罪は重い。横田氏や東京新聞の望月氏のように反抗的な態度や不規則発言をする記者を排除したがる向きもあるが、あの記者会見の場にふさわしくないのは、「ルールを守れ」と同業者にくぎを刺してしまうような、権力迎合型の自称「記者」の方である。真相究明を妨げているのは彼らではないのか。

報道の自由は何のために、誰のためにあるのか、ジャーナリズムとは何かということを、報道にたずさわる人々だけでなく、わたしたち市民もよく考えてみる必要がある。それを抜きにして、フジテレビや中居氏を責める資格は誰にもない。なぜなら彼らの悪と不正が増長した責任の一端は、公益や公共性をないがしろにし、権力におもねることを甘受してきた、あるいは看過してきた報道機関と市民社会の側にもあるからだ。


参考
(1)個人保護法ができたとき、報道機関の萎縮を招くのではと懸念されていたが、今回の会見でフジテレビ側はその萎縮効果を存分に悪用した。
 
(2)【報道の自由に関する裁判例】 最大決昭和44・11・26 博多駅テレビフィルム提出命令事件【裁判所の決定(抜粋)】
報道機関の報道は、民主主義社会において、国民が国政に関与するにつき、重要な判断の資料を提供し、国民の「知る権利」に奉仕するものである。したがつて、思想の表明の自由とならんで、事実の報道の自由は、表現の自由を規定した憲法二一条の保障のもとにあることはいうまでもない。また、このような報道機関の報道が正しい内容をもつためには、報道の自由とともに、報道のための取材の自由も、憲法二一条の精神に照らし、十分尊重に値いするものといわなければならない。

(3)横田氏みずからフジテレビ記者会見をめぐる「炎上」について記事を書いている。二次被害の定義が曖昧なままタブー視することで、報道が萎縮してしまわないか、報道の自由とは何なのかを問うている。とても重要な指摘。

                   
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