ある日、ネットに自分の顔と名前が トランプ派団体の「監視リスト」に載った米政府職員が語る”見えない恐怖”
米連邦政府の職員175人余りの個人情報が、アメリカン・アカウンタビリティ・ファウンデーション(AAF)という団体によってオンライン上の「監視リスト」に掲載された。同団体はこれらの職員が「過激な」リベラル思想を推進しているとして解雇を求めている。ロイターはリストに掲載された20人超に取材し、多くが嫌がらせや脅迫を受けている実態を明らかにした。 「単に私の顔写真や情報が載っているだけのウェブサイトではないと分かった」 米連邦政府職員だったシェルビー・ドミンゲスさんは、自身が「DEI(多様性・公平性・包括性)監視リスト」に掲載されたことを知り、恐怖に襲われたという。 連邦政府内の「敵」を炙り出すことを目的とした同リストは、トランプ政権の高官とつながりのある保守系団体AAFが運営している。 リストには連邦政府職員約175人の情報が掲載されている。これらの人々のほとんどが公務員で氏名や写真、給与、職歴、団体側が問題視する活動などが掲載されており、誰でも見ることができる。 団体はリベラル思想を推進しているとして彼らの解雇を求めている。 シェルビー・ドミンゲスさん 「自分がブラックリストに載ったような気がした。将来と生活の糧を奪われるのではないかと恐怖を感じた」 ドミンゲスさんは保健福祉省の多様性推進専門官としての業務を批判され、ソーシャルメディア「X」上では「解雇し、調査せよ」とのコメントもあった。 「不安、抑うつ、悲しみ、怒りが重なり合い、心が凍りついたようだった」(ドミンゲスさん) ドミンゲスさんは、外出時は警戒を強めて人目を避けるようになったという。そして7月に保健省を正式に解雇された。 AAFは昨年10月以降、連邦政府の複数機関の職員を対象に3つの監視リストを公開している。ロイターはリストに掲載された政府職員20人超に取材を行った。いずれもメディアの取材に応じるのは初めて。 「私の人生は変わってしまった」――そのうちの1人、公衆衛生担当の職員ステファニー・アンダーソンさんは「過激な」DEI政策を推進していると非難されたという。「自分がまるで指名手配犯のように監視されていると感じ、怖かった」 取材に応じた人の半数以上が不安を抱えていると打ち明けた。中には、人生が静かに崩れていったと語る人もいた。 アンダーソンさんは米疾病対策センター(CDC)で、主にエボラ出血熱の流行への対応に長年従事した。だがAAFのリストに名前が載って以来、身元を隠すために髪型を変え、子供たちには自宅のドアを施錠し、防犯カメラを確認するよう注意している。 「息子の1人が『学校で殴られたりしないかな?』と言った。子供たちはこの愚かなリスト掲載のせいで、自分たちがどう身を守るべきか、何をすべきかを考えている。正直言って、罪悪感を感じた。ばかげているのはわかっているが、母親としての罪悪感があって、私は何をしてしまったのだろうと自問した。公衆衛生の仕事を選んだことで、自分の子供たちの身を危険にさらした」(アンダーソンさん) AAFのトム・ジョーンズ代表や支持者らは、これら職員の多くがリベラル寄りで、トランプ氏の政策を密かに妨害する可能性があるため、国民は彼らの身元を知る権利があると主張した。 ジョーンズ氏はロイターに対し「反トランプ派の公務員には、自分たちが監視され、 名前を記録されていることを知ってもらうことが重要だ。 我々は自らの調査と報告に自信を持っている。リストに載った人物の多くがその職を辞さず、11月の選挙で米国民が支持した議題を遂行する愛国者に明け渡していないことが残念だ」と文書で回答した。 監視リストには住所や電話番号などのドクシング(悪意ある個人情報公開)に該当する情報は含まれていない。言論の自由の専門家は、違法行為には当たらないと指摘している。 AAFはウェブサイトで、「自分の名前がリストにある場合、辞職や解雇の証拠を送れば削除する」としている。 だが7月に解雇されたパトリシア・クレイマーさんは、団体に対し自分の写真の削除を要求しているが、実現していない。削除に応じてもらえないのはクレイマーさんだけではない。 43歳の元米陸軍兵士で、国立衛生研究所(NIH)のヒスパニック雇用戦略担当だったクレイマーさんは、2月にこのリストに載った時、イラク派遣時の緊張感と同様の不安に襲われたという。そこでは敵兵に狙われるという絶え間ない脅威の下で暮らしていた。「この人々が『標的』なんだと公衆に向かって伝えるということは、要するにこの人々に注目せよと呼びかけているのと同じことだ。これは無責任だし危険なやり方だ」