声が、聞こえない。
デッキが冷たい。
アイーシャの声も聞こえない。
形見のカードの……勇者さんのそっけない声も届いてこない。
全部真っ白に染まって、デッキは氷みたいに冷たい。
ファイトを初めてからこんなのは初めてだ。
「……どうしょぅ」
何も聞こえない。
何も、私のデッキの意思が感じない。息吹が感じられない。
ただの冷たいカードになってしまったみたい。
怖い。
私のターン、カードを引かなきゃいけないってわかってるのに怖い。
引いたら終わってしまう。
引いたら進まないといけない。
何も出来ずに終わってしまうかも知れないのに、カードを
まるで目を瞑って道を歩くみたい。
まるで暗闇の中。
わたし、わたし、は……
『己がデッキに自信がないのか?』
精霊狩りさんの声がした。
顔を上げた先にいる精霊狩りさんは、真っ直ぐに、私を見ていた。
『自分で選んだカードを、自分で積み重ねたデッキを信じられず、ただ運命に流されただけならば、ここでサレンダーしろ』
冷たい声だった。
だけど、わかる。
『大いなる力があるからといって戦う義務はない。振るいさえしなければ私は』
「優しいんだね」
『なっ……』
ああ、そうか。
この人は優しいんだ。
ここまでのファイトで伝わってきたからわかる。
ここまでの戦い方で、私が見てきたものでわかる。
この人はとっても強くて、だけど、そのためにならどれだけ傷ついても構わない人。
だから。
「私のターン」
だから。
「ドロー」
私は、冷たいデッキからカードをドローした。
「ライフデッキからライフカードをドローして、土地をセット。残りライフは7です」
手札は4枚。
土地は1枚、残り動けるのは今握っていた手札と引いた3枚だけで。
『逆転のカードは引けたか?』
「ううん」
一発で逆転出来るようなカードではなかった。
私の手は光らなかった。
ただ前に進む勇気をくれるだけのカード。
けれど。
「それでも勝つよ」
カードの力を信じる。
私のデッキの動き、全ての可能性をぶつけてやる。
「私は――コスト4支払って、
『それに合わせて、瞬間魔法<防災>を発動する。土地を3枚墓地に送り、無効化する』
「ッ!」
『切り札となるカードを見逃すと思っていたか? 残り土地は1枚、セットを忘れたのがお前のミスだ』
「――いいや、わざとだよ! 私は手札から1コスト<献身の証明>を発動! 場に残っていた分身トークンを生贄に捧げて無効化する!」
今丁度引いた妨害カード。
それで精霊狩りさんが握っていただろう妨害をくぐり抜けた。
勇気をくれた。
『ッ、<ブレイバー・影刃>の残した
「まだだ! 私は手札1枚捨てて、<ブレイバー・停目>を召喚する。これは召喚コストの代わりに手札1枚捨ててプレイ出来る、そしてそれで召喚した場合、全てのブレイバーに【賛戦】効果を与える」
私の意思で。
私は進む。
『単独で攻撃した場合、+1/+1強化される効果。しかも誘発が重複するか』
「さらにこれが場に出た時、カードを1枚ドロー出来る」
出した<停目>の効果で、カードを1枚得る。
残り1枚。
「ドロー……!」
――<怒刀>がきた。
勝てる!
「貴方に私の勇気を証明する!」
『見せてみろ! それが蛮勇でないというのならば!』
「<勇気のバトン>の効果発動! これは私の手札からクリーチャーが召喚された時、同じ種族であり、パワーとタフネスの合計値が同じクリーチャーをメインデッキから探し出し、場に出すことが出来る! 私が出すのは――<ブレイバー・灼刃>!!」
マグマの海を引き裂いて、燃え盛る炎の刃を持つ
「これは場に出た時、私のライフを1点回復し、さらにいずれかのプレイヤーかクリーチャーに1点ダメージを与える! 私は貴方にダメージを与える!」
『バーンとゲイン効果!?』
『私にダメージを与えるとはな、土地が増えていくだけだぞ』
「このターンで倒しきれば問題ないよ! <勇気のバトン>の第二の効果! これはライフポイント4点失うことによって、追加発動することが出来る!」
『なにっ?!』
「ライフを4点支払って、デッキから<ブレイバー・献浄>を召喚! これもまた<灼刃>の効果を得て、貴方と私のライフを変動させる!」
『くっ!』
「私はさらにら――」
更に並べようとして気づく。
精霊狩りさんの手が一瞬動きかけた。
なにか、ある。
「私はライフを支払わない!」
もしもバーンがあるなら1点で即死する。
『……ッ』
「<ブレイバー・献浄>の効果発動! これを生贄に捧げることによって、コスト2点を得る! その2点で、私は手札から<ブレイバー・怒刀>を召喚! 怒刀は召喚されたターン、全てのブレイバーに速攻を与える!」
<ブレイバー・怒刀>は疾風と同じステータスでありながら、自分だけじゃなくて全員に速攻を付与するクリーチャーだ。
疾風には潜伏でブロックされない強みがあったけど、展開するならこっちのほうが相性がいい。
なので入れ替えたけど、うん。
「これも灼刃の効果を誘発!」
「さらに<勇気のバトン>でデッキから同合計パワータフネスの<ブレイバー・呪剣>を召喚して、灼刃効果発動!」
「召喚された呪剣は、全てのブレイバーに攻撃した時、防御側のプレイヤーのライフを1点失わせる効果を持つ!」
『お前のブレイバーの合計数は……4体だと!?』
「バトル!! 怒刀・灼刃・停目・呪剣の順番で攻撃する!」
単独攻撃はしない!
全員の力で、あの人を倒す!
『<槍持ち>で怒刀をブロック!』
怒れる刃を掲げたブレイバーが、槍を持つ従者に受け止められ、切り倒すも足が止まる。
「呪剣の効果で、ライフポイントに1ロスト!」
「<灼刃>で攻撃!」
『私は……ヴァイスファングでブロック!
炎の刃を持つブレイバーが、巨大な白狼に挑みかかる。
皆のために足止めをしてくれている。
勝つために。
ありがとう。
「残り二体で攻g『通さない!』ッ!?」
だからこれで!
『私は――土地2枚を追放し、瞬間魔法<血伝連鎖>を発動! 対象は灼刃! これはこのターン、対象になっているクリーチャーに
「なっ!?」
ヴァイスファングに噛み砕かれたブレイバーから白い光が放たれて。
『負けるぐらいならば共に果てさせてもらう! ブラッディエンド!』
「きゃああああああああああああ!?」
ほとばしった白い光に、私たちは吹き飛ばされた。
◆
乾いた音と共に目を覚ました。
「ッ……」
横になった床が目の前にあった。
どうやら気を失っていたらしい。不覚だ。
「あの子は……」
「大丈夫?!」
あ、元気そうでよかった。
慌てて駆けつけてくるのに、大丈夫かなと少し心配になる。
そんな気持ちが次の言葉で吹き飛んだ。
「サレンさん!!」
えっ。
なんで、あ。
「仮面が……」
回りを探してみると、着けていたはずの仮面が真っ二つに割れて転がっていた。
「ぁ……」
あああー!
お気に入りの奴だったのに! ボイスチェンジャーと防弾仕様した高いやつ!
「くっ」
今日の朝もしっかり磨いた仮面の無惨な末路に、私は呻くしかなかった。
悲しい。
あと身体が痛い。ふしぶしが。
「サレンさんが……精霊狩りさんだったんですね」
「……そうだ」
一回しかあったことがないのによく覚えてたね。
「なんで精霊狩りなんてことを」
「それが……私のやることだったから」
精霊を使う奴を狩る。
精霊に操られてそうな奴を狩る。
あと強そうな奴にファイトを挑む。
前者2つの遊んでないやつと、後者の遊んでて強い奴とファイトして、ファイトしてたら、いつの間にか精霊狩りなんて呼ばれていた。
それ以外やることも、やりたいこともなかったから、やっていた。
それだけは何も変わらない。
「でもよかった」
「えっ」
「ユウキちゃんが悪い子じゃなくて、ちゃんと強いってわかったから」
あの疲れたけど楽しかったカード大会の帰り道。
香り立つように精霊に好かれていた、共鳴力の塊みたいなユウキちゃんをひと目見てわかった。
あの子は特別なファイターの、才能があるって。
円卓の、S級傭兵ファイターたちのように。
一度ぶつかって、なんとか引き分けに持ち込むしかなかった十二聖座のファイターのように。
――私の家族を奪った”あいつ”のように。
だから覚えるのが苦手な私でも覚えていた。
「……サレンさん」
だからこうして顔を見れて安心してる。
私の孤絶結界は、精霊に支配されたり、それに頼って戦う奴と戦うためのもの。
言うなれば人形にされているだけの存在を切り離して、打倒するために私の【力】で創った領域。
たまにいる精霊を使ってのイカサマとか、
「怪我、してない? 手加減しきれなかったけど」
「大丈夫、です。サレンさんのほうがダメージ大きかったから、でも引き分けなんてどうして……」
「闇のファイトだったら、負けたら死ぬよりひどい目に合う」
「えっ」
「だから最低でも自害する手段がいるし、引き分けぐらいならまた戦えるから……大事」
あと普通に私の、”ヴァイス・ハイランダー”の戦法に合っているから。
「サレンさん……」
?
なんかしんみりしちゃってるけど、ちゃんと伝わってるかな。
うん……少し感覚が戻ってきた。
「あ、まだ無理しちゃ……!」
「そろそろいかないと、時間がない」
「そうか。まだバベル社の社長に」
「……本番はこれから」
パチパチパチ。
音がした。
拍手の音が。
「そうだな――お前らが堕ちる地獄の本番はこれからだ」
「誰!?」
振り返る。
そこにはいつの間に開けられていたのか。
堂々と開いた通路の前に、真っ黒な外套と顔まで包帯に覆われた男が立っていた。
まずい、あいつらにはファイトに勝つまで拘束される捕縛用のボードがある。
「クックク、こんな小娘に負けるなんて随分と名折れじゃないか? 精霊狩り」
「……どちら様?」
「オレの名は”ディール”。貴様には忘れられない名前になるだろうよ」
クックックと気持ち悪い笑い声を漏らす包帯男。
私は立ち上がり……少し足に来てるけど、気合で立ち上がり、ユウキちゃんを背にする。
「この手で葬ってやろうと思っていたんだがな、まさか破れかぶれの紛れ勝ちに、見苦しい引き分けとはな――【
「マスター?」
「その名を呼ぶということは……お前、まさか」
マスター。
握るもの。
私の力、
――私の家族を奪った化け物が、私の家族を奪った、理由。
「ヤツの手先か!!」
「くっくく、あの方の手先? 違うなぁ!!」
外套を締め上げるベルトを解き放ち、曝け出されたのは顔だけじゃない。
手先から、足に、腰に、全身を全て覆われた文字通り人型の包帯。
「オレが、オレこそが、あの方の器になる! 貴様みてえな小娘じゃない! 最強の、黒きカードのミコとなるのはオレなんだよ!!」
「……闇の契約者」
「契約者?」
「下がって! あいつのようなやつとファイトしたら」
「おっとお! そこの小娘も逃がしはしない!」
ディールと名乗った男が、指を鳴らす。
別の、私たちが向かおうとしていたはずの通路が開いて。
「オレが、この手で偽りの器を引き裂いている間遊んでもらいなぁ! く、は! 光の精霊使いだ、5対1ぐらいは十分なハンデだろう?」
「っ!」
他にも増援が!?
まずい!
「ユウキ! 私から離れるな、私が」
「さあ、闇のファイトを始めようじゃないか!」≪クスクスクス≫
全員瞬殺するしかない。
そう考えて、デッキを構えた時……コツコツと通路の奥から一人の黒服の男が現れた。
「あれ?」
ん?
「なんだ? 一人だけだと、なにかあっ」≪? なんだ、お前は――≫
「ここは俺に任せて先にいけ」
「えっ」
「なに?」
そういって、黒服の男がサングラスを外し……あれ? なんか見たことがあるような。
「店員さん!? なんでここに!? なんでそんな」
「色々頑張ってね、さあいけ」
「でも!」
「こいつとは俺がやる必要がある」
スンッ。
「ユウキ、いくぞ!」
なにやら顔見知りらしいユウキの手を掴んで、私は彼が出てきた通路に向かって走り出した。
このチャンスを逃すわけにはいかない。
それが、闇のファイター相手に
――ごめんなさい。