俺の切り札は光らない   作:雨 唐衣

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十七話 勝利条件と敗北条件を同時に満たした場合、引き分けとする

 

 

 声が、聞こえない。

 デッキが冷たい。

 

 アイーシャの声も聞こえない。

 形見のカードの……勇者さんのそっけない声も届いてこない。

 

 全部真っ白に染まって、デッキは氷みたいに冷たい。

 ファイトを初めてからこんなのは初めてだ。

 

「……どうしょぅ」

 

 何も聞こえない。

 何も、私のデッキの意思が感じない。息吹が感じられない。

 ただの冷たいカードになってしまったみたい。

 

 怖い。

 

 私のターン、カードを引かなきゃいけないってわかってるのに怖い。

 引いたら終わってしまう。

 引いたら進まないといけない。

 何も出来ずに終わってしまうかも知れないのに、カードを引く(ドロー)なんて……こんなに怖かったの?

 

 まるで目を瞑って道を歩くみたい。

 まるで暗闇の中。

 

 わたし、わたし、は……

 

 

『己がデッキに自信がないのか?』

 

 

 精霊狩りさんの声がした。

 顔を上げた先にいる精霊狩りさんは、真っ直ぐに、私を見ていた。

 

『自分で選んだカードを、自分で積み重ねたデッキを信じられず、ただ運命に流されただけならば、ここでサレンダーしろ』

 

 冷たい声だった。

 だけど、わかる。

 

『大いなる力があるからといって戦う義務はない。振るいさえしなければ私は』

 

「優しいんだね」

 

『なっ……』

 

 ああ、そうか。

 この人は優しいんだ。

 

 ここまでのファイトで伝わってきたからわかる。

 ここまでの戦い方で、私が見てきたものでわかる。

 

 この人はとっても強くて、だけど、そのためにならどれだけ傷ついても構わない人。

 だから。

 

「私のターン」

 

 だから。

 

「ドロー」

 

 私は、冷たいデッキからカードをドローした。

 

「ライフデッキからライフカードをドローして、土地をセット。残りライフは7です」

 

 手札は4枚。

 土地は1枚、残り動けるのは今握っていた手札と引いた3枚だけで。

 

『逆転のカードは引けたか?』

 

「ううん」

 

 一発で逆転出来るようなカードではなかった。

 私の手は光らなかった。

 ただ前に進む勇気をくれるだけのカード。

 

 けれど。

 

「それでも勝つよ」

 

 カードの力を信じる。

 私のデッキの動き、全ての可能性をぶつけてやる。

 

「私は――コスト4支払って、秘宝(アーティファクト)<勇気のバトン>を発動する!」

 

 

 

『それに合わせて、瞬間魔法<防災>を発動する。土地を3枚墓地に送り、無効化する』

 

 

「ッ!」

 

『切り札となるカードを見逃すと思っていたか? 残り土地は1枚、セットを忘れたのがお前のミスだ』

 

「――いいや、わざとだよ! 私は手札から1コスト<献身の証明>を発動! 場に残っていた分身トークンを生贄に捧げて無効化する!」

 

 今丁度引いた妨害カード。

 それで精霊狩りさんが握っていただろう妨害をくぐり抜けた。

 勇気をくれた。

 

『ッ、<ブレイバー・影刃>の残した(トークン)か。だが土地は使い切ったぞ!』

 

「まだだ! 私は手札1枚捨てて、<ブレイバー・停目>を召喚する。これは召喚コストの代わりに手札1枚捨ててプレイ出来る、そしてそれで召喚した場合、全てのブレイバーに【賛戦】効果を与える」

 

 私の意思で。

 私は進む。

 

『単独で攻撃した場合、+1/+1強化される効果。しかも誘発が重複するか』

 

「さらにこれが場に出た時、カードを1枚ドロー出来る」

 

 出した<停目>の効果で、カードを1枚得る。

 残り1枚。

 

「ドロー……!」

 

 ――<怒刀>がきた。

 勝てる!

 

 

「貴方に私の勇気を証明する!」

 

 

『見せてみろ! それが蛮勇でないというのならば!』

 

「<勇気のバトン>の効果発動! これは私の手札からクリーチャーが召喚された時、同じ種族であり、パワーとタフネスの合計値が同じクリーチャーをメインデッキから探し出し、場に出すことが出来る! 私が出すのは――<ブレイバー・灼刃>!!」

 

 マグマの海を引き裂いて、燃え盛る炎の刃を持つブレイバー(灼刃)が、開眼したかつての英雄(ブレイバー・停目)の横に並び立つ。

 

「これは場に出た時、私のライフを1点回復し、さらにいずれかのプレイヤーかクリーチャーに1点ダメージを与える! 私は貴方にダメージを与える!」

 

『バーンとゲイン効果!?』

 

【ユウキ LP:7+1→8】 【精霊狩り LP:8→7】

 

『私にダメージを与えるとはな、土地が増えていくだけだぞ』

 

「このターンで倒しきれば問題ないよ! <勇気のバトン>の第二の効果! これはライフポイント4点失うことによって、追加発動することが出来る!」

 

『なにっ?!』

 

「ライフを4点支払って、デッキから<ブレイバー・献浄>を召喚! これもまた<灼刃>の効果を得て、貴方と私のライフを変動させる!」

 

【ユウキ LP:8→4+1→5】  【精霊狩り LP:7→6】

 

『くっ!』

 

「私はさらにら――」

 

 更に並べようとして気づく。

 精霊狩りさんの手が一瞬動きかけた。

 

 なにか、ある。

 

「私はライフを支払わない!」

 

 もしもバーンがあるなら1点で即死する。

 

『……ッ』

 

「<ブレイバー・献浄>の効果発動! これを生贄に捧げることによって、コスト2点を得る! その2点で、私は手札から<ブレイバー・怒刀>を召喚! 怒刀は召喚されたターン、全てのブレイバーに速攻を与える!」

 

 <ブレイバー・怒刀>は疾風と同じステータスでありながら、自分だけじゃなくて全員に速攻を付与するクリーチャーだ。

 疾風には潜伏でブロックされない強みがあったけど、展開するならこっちのほうが相性がいい。

 なので入れ替えたけど、うん。

 

「これも灼刃の効果を誘発!」

 

【ユウキ LP:5→6】  【精霊狩り LP:6→5】

 

「さらに<勇気のバトン>でデッキから同合計パワータフネスの<ブレイバー・呪剣>を召喚して、灼刃効果発動!」

 

【ユウキ LP:6→7】  【精霊狩り LP:5→4】

 

「召喚された呪剣は、全てのブレイバーに攻撃した時、防御側のプレイヤーのライフを1点失わせる効果を持つ!」

 

『お前のブレイバーの合計数は……4体だと!?』

 

「バトル!! 怒刀・灼刃・停目・呪剣の順番で攻撃する!」

 

 単独攻撃はしない!

 全員の力で、あの人を倒す!

 

『<槍持ち>で怒刀をブロック!』

 

 怒れる刃を掲げたブレイバーが、槍を持つ従者に受け止められ、切り倒すも足が止まる。

 

「呪剣の効果で、ライフポイントに1ロスト!」

 

【ユウキ LP:7】  【精霊狩り LP:4→3】

 

「<灼刃>で攻撃!」

 

『私は……ヴァイスファングでブロック!

 

 炎の刃を持つブレイバーが、巨大な白狼に挑みかかる。

 皆のために足止めをしてくれている。

 勝つために。

 

 ありがとう。

 

「残り二体で攻g『通さない!』ッ!?」

 

 だからこれで!

 

 

『私は――土地2枚を追放し、瞬間魔法<血伝連鎖>を発動! 対象は灼刃! これはこのターン、対象になっているクリーチャーに()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なっ!?」

 

 ヴァイスファングに噛み砕かれたブレイバーから白い光が放たれて。

 

 

『負けるぐらいならば共に果てさせてもらう! ブラッディエンド!』

 

 

「きゃああああああああああああ!?」

 

 

 ほとばしった白い光に、私たちは吹き飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 乾いた音と共に目を覚ました。

 

「ッ……」

 

 横になった床が目の前にあった。

 どうやら気を失っていたらしい。不覚だ。

 

「あの子は……」

 

「大丈夫?!」

 

 あ、元気そうでよかった。

 慌てて駆けつけてくるのに、大丈夫かなと少し心配になる。

 そんな気持ちが次の言葉で吹き飛んだ。

 

 

「サレンさん!!」

 

 

 

 えっ。

 なんで、あ。

 

「仮面が……」

 

 回りを探してみると、着けていたはずの仮面が真っ二つに割れて転がっていた。

 

「ぁ……」

 

 あああー!

 お気に入りの奴だったのに! ボイスチェンジャーと防弾仕様した高いやつ!

 

「くっ」

 

 今日の朝もしっかり磨いた仮面の無惨な末路に、私は呻くしかなかった。

 悲しい。

 あと身体が痛い。ふしぶしが。

 

「サレンさんが……精霊狩りさんだったんですね」

 

「……そうだ」

 

 一回しかあったことがないのによく覚えてたね。

 

「なんで精霊狩りなんてことを」

 

「それが……私のやることだったから」

 

 精霊を使う奴を狩る。 

 精霊に操られてそうな奴を狩る。

 あと強そうな奴にファイトを挑む。

 前者2つの遊んでないやつと、後者の遊んでて強い奴とファイトして、ファイトしてたら、いつの間にか精霊狩りなんて呼ばれていた。

 それ以外やることも、やりたいこともなかったから、やっていた。

 

 それだけは何も変わらない。

 

「でもよかった」

 

「えっ」

 

「ユウキちゃんが悪い子じゃなくて、ちゃんと強いってわかったから」

 

 あの疲れたけど楽しかったカード大会の帰り道。

 香り立つように精霊に好かれていた、共鳴力の塊みたいなユウキちゃんをひと目見てわかった。

 

 あの子は特別なファイターの、才能があるって。

 

 円卓の、S級傭兵ファイターたちのように。

 一度ぶつかって、なんとか引き分けに持ち込むしかなかった十二聖座のファイターのように。

 

 

 ――私の家族を奪った”あいつ”のように。

 

 

 だから覚えるのが苦手な私でも覚えていた。

 

「……サレンさん」

 

 だからこうして顔を見れて安心してる。

 私の孤絶結界は、精霊に支配されたり、それに頼って戦う奴と戦うためのもの。

 言うなれば人形にされているだけの存在を切り離して、打倒するために私の【力】で創った領域。

 

 たまにいる精霊を使ってのイカサマとか、

 

「怪我、してない? 手加減しきれなかったけど」

 

「大丈夫、です。サレンさんのほうがダメージ大きかったから、でも引き分けなんてどうして……」

 

「闇のファイトだったら、負けたら死ぬよりひどい目に合う」

 

「えっ」

 

「だから最低でも自害する手段がいるし、引き分けぐらいならまた戦えるから……大事」

 

 あと普通に私の、”ヴァイス・ハイランダー”の戦法に合っているから。

 

「サレンさん……」

 

 ?

 なんかしんみりしちゃってるけど、ちゃんと伝わってるかな。

 

 うん……少し感覚が戻ってきた。

 

「あ、まだ無理しちゃ……!」

 

「そろそろいかないと、時間がない」

 

「そうか。まだバベル社の社長に」

 

「……本番はこれから」

 

 

 

 パチパチパチ。

 

 

 

 音がした。

 拍手の音が。

 

「そうだな――お前らが堕ちる地獄の本番はこれからだ」

 

「誰!?」

 

 振り返る。

 そこにはいつの間に開けられていたのか。

 

 堂々と開いた通路の前に、真っ黒な外套と顔まで包帯に覆われた男が立っていた。

 

 まずい、あいつらにはファイトに勝つまで拘束される捕縛用のボードがある。

 

「クックク、こんな小娘に負けるなんて随分と名折れじゃないか? 精霊狩り」

 

「……どちら様?」

 

「オレの名は”ディール”。貴様には忘れられない名前になるだろうよ」

 

 クックックと気持ち悪い笑い声を漏らす包帯男。

 私は立ち上がり……少し足に来てるけど、気合で立ち上がり、ユウキちゃんを背にする。

 

「この手で葬ってやろうと思っていたんだがな、まさか破れかぶれの紛れ勝ちに、見苦しい引き分けとはな――【握るもの(マスター)】の資格が泣くぜ」

 

「マスター?」

 

「その名を呼ぶということは……お前、まさか」

 

 マスター。

 握るもの。

 

 私の力、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ――私の家族を奪った化け物が、私の家族を奪った、理由。

 

「ヤツの手先か!!」

 

「くっくく、あの方の手先? 違うなぁ!!」

 

 外套を締め上げるベルトを解き放ち、曝け出されたのは顔だけじゃない。

 手先から、足に、腰に、全身を全て覆われた文字通り人型の包帯。

 

 

「オレが、オレこそが、あの方の器になる! 貴様みてえな小娘じゃない! 最強の、黒きカードのミコとなるのはオレなんだよ!!」

 

 

「……闇の契約者」

 

「契約者?」

 

「下がって! あいつのようなやつとファイトしたら」

 

「おっとお! そこの小娘も逃がしはしない!」

 

 ディールと名乗った男が、指を鳴らす。

 

 別の、私たちが向かおうとしていたはずの通路が開いて。

 

「オレが、この手で偽りの器を引き裂いている間遊んでもらいなぁ! く、は! 光の精霊使いだ、5対1ぐらいは十分なハンデだろう?」

 

「っ!」

 

 他にも増援が!?

 まずい!

 

「ユウキ! 私から離れるな、私が」

 

「さあ、闇のファイトを始めようじゃないか!」≪クスクスクス≫

 

 全員瞬殺するしかない。

 そう考えて、デッキを構えた時……コツコツと通路の奥から一人の黒服の男が現れた。

 

「あれ?」

 

 ん?

 

「なんだ? 一人だけだと、なにかあっ」≪? なんだ、お前は――≫

 

 

 

 

 

 

「ここは俺に任せて先にいけ」

 

 

 

 

 

「えっ」

 

「なに?」

 

 そういって、黒服の男がサングラスを外し……あれ? なんか見たことがあるような。

 

「店員さん!? なんでここに!? なんでそんな」

 

「色々頑張ってね、さあいけ」

 

「でも!」

 

「こいつとは俺がやる必要がある」

 

 スンッ。

 

「ユウキ、いくぞ!」

 

 なにやら顔見知りらしいユウキの手を掴んで、私は彼が出てきた通路に向かって走り出した。

 

 このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 

 

 それが、闇のファイター相手に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 ――ごめんなさい。

 

 

 

 

 

 

 





 その意思は受け継がれる
 世代を超えて、魂を賭して、目指すべきいつかに向かって

 死してなお受け継がれる


                      ――<勇気のバトン>



幾つか支援絵を頂いたので紹介させていただきます!
皆様本当にありがとうございます!


~残念ブルー様より地棺セト店長

【挿絵表示】

これでまだ女子大生ぐらいですってよ


~朽木様より 地棺セト店長

【挿絵表示】

おそらく女子中学生位の若い頃ですねえ
現役ばりばりだったころかと


~藤音やすくら様より精霊狩り セレン・アンダーちゃん(私服)

【挿絵表示】

かっこよ!!
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