04:買物と買い食い行脚
「いやいや、さすがにそれはないよな!?」
とは、ホテルの廊下を早歩きで進む宗佐。
その隣に並んで、俺も同じように足早に進む。――気分的には今すぐにでも走り出したいところだ。だが廊下を走っているところを委員長に見つかりでもしたら、移動のバスが俺と宗佐のオンステージになってしまう――
そういうわけで、あくまで早歩きで廊下を進み、エレベーターを待つのももどかしいと階段を駆け下りロビーへと向かう。
途中通りかかったラウンジでは先生達がソファに腰かけコーヒーを飲みながらくつろいでおり、俺達に気付くと斉藤先生が「男二人で部屋に居たくないのは分かるが、まだ集合には早いぞ」と冗談交じりに話しかけてきた。
だが今の俺達にはそれに対して答える余裕もなく、そのままロビーを突っ切ってエントランスを抜けて外に出る。
そうして二人揃って足を止め頭上を見上げれば、高らかに掲げられるホテルの名前……。
先程宗佐が口にしたホテルと同じ名前である。
「……おい、宗佐、なんで気付かないんだよ」
「珊瑚とおばぁちゃんが泊まるホテルの名前は覚えてた。二人に何かあった時にちゃんと対応できるようにしないとな。……でも、俺の泊まるホテルに関しては、皆に着いていけば良いだろうと思って気にもかけずにいた」
「だからってお前……」
盛大に溜息を吐けば、対して宗佐が「驚いたな」と笑う。それどころか、部屋に戻って景色の写真を珊瑚に送ってやろうとまで言い出すのだ。
宗佐からしてみれば、驚きこそすれども慌てるようなことではないのだろう。むしろ二人が同じホテルに泊まることで安心している色さえある。
「鉢合わせしたら恥ずかしいなぁ」なんて話す口調は満更でもなさそうだ。宗佐の性格を考えれば、恥じるどころか意気揚々と珊瑚と祖母を探し始めるかもしれない。
だけど俺としては驚愕で、かつ落ち着かない事態だ。
なにせ珊瑚が同じホテルに泊まっている、もしかしたら会えるかもしれない……。
だがそれを言えるわけがなく、珊瑚の反応が楽しみだと笑う宗佐の後を黙って追った。
ロビーには変わらず宿泊団体を知らせるボードが掲げられ、蒼坂高校の名前とその隣には老人会の名前……。それを見た宗佐が嬉しそうに「おばぁちゃんの老人会だ!」と騒ぐのだから、その能天気さが恨めしくさえ思えた。
「珊瑚ちゃんも同じホテルに泊まってるの?」
驚いたと言いたげな月見に、俺と宗佐が揃えて頷く。
場所はホテルの大広間。
移動の準備をし終えた者から昼食をとり、観光に出ていけという放任主義な――杜撰ともいう――扱いの真っ直中である。
バイキング形式の昼食は個々の好みや食事量を面白いように表しており、女子の盛りつけはどれも一口サイズで纏められている。
野菜と果物が多めな月見と委員長のプレートは見栄えもよく――月見のプレートに関して言えば、メインを軽めに押さえた代わりにデザートがいささか多めである。それもまた彼女らしい――、それより幾分量の多い西園のプレートも健康的な盛り付けだ。
あれで足りるのだろうか……と周囲の友人達と顔を見合わせる。
なにせ男側はメニューこそ多少の違いがあるものの、誰もがプレートに山を作り、中には数枚を机に並べている者すらいるのだ。
「珊瑚ちゃんも驚いてたでしょ」
「健吾と二人で窓からの景色を同時に送ったんだけど、かなり驚いてたよ」
なぁ、と思い出し笑いをする宗佐に同意を求められ、俺も思わず笑ってしまった。
せっかくだからと二人並んで窓からの景色を撮り、そしてタイミングを合わせて珊瑚に送ったのだ。
自室とは若干角度の違った景色の写真に彼女はさぞや驚いたのだろう、俺に電話をかけてきて開口一番「宗にぃ!?」という動揺ぶりを見せてくれた。
更には、俺が「よぉ妹」と笑いを噛み殺して返せば、間違えたことに気付いて慌てて電話を切り、今度は宗佐に電話をして「健吾先輩、今宗にぃから写真が!」と話し出す始末。
その時の事を話せば、月見達もつられて笑った。
「それで、珊瑚ちゃんはどこの部屋に泊まってるの?」
委員長の質問に、問われた俺と宗佐が顔を見合わせた。
「宗佐、聞いたか?」
「いや俺はまだ聞いてないや。健吾は?」
「俺も。落語についての話はしてるけど、そういえば部屋の話はすぐに終わったな」
互いに未確認であったことが判明すれば、委員長が苦笑を浮かべた。
珊瑚の驚きようが面白く宗佐と笑い、そのまま今日の行き先の話になってしまったのだ。まだやりとりこそしているものの、どこの部屋かはおろか、何階なのかも聞いていない。
宗佐がポケットから携帯電話を取り出したのは、今更だが部屋番号を聞こうと考えたのだろう。
だがふと画面に視線をやり「うわ」と小さく声をもらした。
「充電やばいな。健吾、悪いけどそっちで頼む」
「ん、分かった」
「ついでに俺達の部屋番号も伝えておいてくれ」
「妹のことだ、絶対に男二人でスイートルームって茶化してくるだろうな」
「ベッドに枕二つ並べた写真を送ろう」
そんな馬鹿な話をしながら食事を進める。
月見が妙に暖かな笑みを浮かべていることや、西園と委員長が楽しげに顔を見合わせていること。それどころか、話を聞いていたクラスメイトまでもがやたらと優しい表情で俺を見ていることが少し気になった。
観光地での所要時間に男女で差があるのは周知のこと。道中に薔薇園や昔ながらの建造物があり、そのうえ土産物屋が並んでいるのであれば尚更だ。
あっちにふらふらこっちにふらふらと吸い寄せられていく女子グループを眺め、男達は屋台で買い食い。なんとも高校生らしい話である。
「女の子って買い物好きだよなぁ」
団子を食べつつぼんやりと宗佐が呟けば、同じテーブルに着き同じように団子を食べていた俺や他の男達が同感だと頷く。
そんな話をしていると、土産物屋から出てきた数名のグループがこちらに、……というよりは団子の香りに引き寄せられて近付いてきた。女性は買い物も好きだが同様に間食も好きなのだろう。
その中に月見の姿を見つけて途端に宗佐が落ち着きをなくせば、対して月見もまた宗佐を見て柔らかく微笑む。
「ここに居たんだね」という言葉は俺達全員に向けられこそしているが、それでも時折はチラと宗佐に視線をやるのだ。
なんとも分かりやすいその反応に、つい今し方まで談笑していた男達が嫉妬モードに切り替わる。
こいつらもこいつらで分かりやすく、俺は付き合ってられないと傍観に徹することにした。