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【完結】「先輩の妹じゃありません!」  作者: さき
第八章:三年生 冬
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幕間2(3)

 



 年越し蕎麦を――宗にぃだけはうどんだが――食べ終えたあとは、三人で炬燵に入ってテレビを見ながら雑談をしていた。

 お風呂は旧芝浦邸で入ったし、宗にぃもお母さんもテレビの合間に交代で入ってきた。となればもう他にすることは無く、年越しを待つだけだ。

 そうして十一時を過ぎれば、いよいよをもって画面の向こうも年越しムードを強めてきた。


 賑やかだ。


 今この部屋は本当に『大晦日』らしくて、別世界だと感じていたテレビの中の賑やかさが自分にも伝わり、純粋に面白いと思えてくる。

 もちろん、おばぁちゃんと二人で暮らすことが嫌なわけではない。衣食住の殆どを向こうで過ごし、今日だって寝る時には旧芝浦邸にある自室に戻る。どちらかと言えばあちらの方が『家』という感覚は強い。

 それでも、こうやって誰かと年越しを待てるのが嬉しくて、それを思えば不思議と笑みがこぼれた。


 一月一日が来ると、自然とそう思える。

 あの頃、眠い目を擦りながら祈るように待ち望んだ年越しと違い、この部屋は待っていれば当然のように年を越せる。

 それを思えば、ふと健吾先輩の顔が脳裏に浮かんだ。


 時に楽しそうに、時に悪戯っぽく、そしていつも穏やかに微笑んでくれる彼は、どんな表情で一人で年越しの瞬間を過ごすのだろうか。


「……ねぇ宗にぃ、後で健吾先輩に電話してみない?」

「健吾に?」

「うん。健吾先輩一人でしょ、だから」

「そうだな。あいつ寝てるかもしれないし、起こしてやるか」


 宗にぃが楽しそうに笑う。

 その悪戯気な表情に、考えは少し違うのだが詳しく説明する必要もないかと判断し応えるように頷いた。

 だけど、もしかしたら宗にぃの言う通り、健吾先輩は寝ているかもしれない。もしそうだとしたら逆に失礼じゃないだろうか?

 だが普段の宗にぃと健吾先輩のやりとりを見る限り、多少の無礼は気にしないだろう。



 それに……、彼の気持ちを考えれば、私からの挨拶を邪険にはしないでくれるだろう。

 そう思えるくらいには私は自惚れていて、それなのにまだ返事を出来ずにいる。


 ずるい。分かっている。

 だけどそんなずるい私を、彼は待つと言ってくれた。



「……でも、健吾先輩ってば家族に置いてかれるなんて、意外とドジなんだね」

「あいつはそういう奴だよ。たまに外すんだ」

「しっかりしてる人に思えるけどなぁ」

「まさかぁ、いつも俺が面倒みてやってるんだから」


 笑いながら話す宗にぃに、内心で「年が明けたら言いつけてやろう」と決めた。

 きっと年が明けて最初の二人のやりとりは、健吾先輩の「誰がいつお前に面倒をみてもらった!」という文句から始まるのだろう。それに対して宗にぃは必死に記憶を引っ繰り返して過去の事例をあげるに違いない。


 それは何とも騒々しく、とても楽しくてなんとも彼等らしい。

 容易に想像がつく光景に小さく笑っていると、台所からお母さんの声が聞こえてきた。


「珊瑚ちゃん、御雑煮の味ちょっと見て貰える?」

「はぁい」


 コタツから出て、台所へと向かう。

 作り置きの味を確認しているのか、顔を出せばエプロンをつけたお母さんが小皿に少量盛って差し出してきた。

 一口すすれば口の中に味が広がる。おばあちゃんの作った年越しそばとも、先程食べたインスタントのお蕎麦とも違う味わい。

 あれだけ十二月三十二日を恐れていた自分が一足先に正月を味わうとは不思議な話だ。


「どう? おばぁちゃんの味と同じかしら?」

「似せるならもう少し薄い方が良いかなぁ」

「そう? やっぱり難しいわね」

「おばあちゃん、レシピとか無くて毎年目分量で作るからね。でも似せなくて良いと思うよ。これ美味しいもん」


 残った一口分を飲み干し、小皿を返す。


「おばぁちゃんはお餅食べないし、一番食べる宗にぃに合わせたら?」

「あれは良いのよ。お湯に浮かべたって食べるんだから」


 あっさりと言い切り、お母さんが御雑煮に手を加える。味を調整しているのだろう、その手腕はまさに母親のものだ。


 そうして調理を終えたお母さんとリビングへと戻れば、宗にぃが机に携帯電話を置き、そちらに向かって話しかけていた。

 聞こえてくるのは健吾先輩の声だ。どうやら先程の話を受けて電話をかけたらしい。


「珊瑚、代わるか?」

「うん、挨拶しようかな」


 宗にぃと場所を代わる。

 少しばかり気恥ずかしく、窺うように「健吾先輩、こんばんは」と告げれば、電話から覚えのある声が聞こえてきた。


『こんな時間にどうした?』

「健吾先輩は一人で年越しかと思って、それで電話したんです」

『あぁ、そういうことか』


 電話口から聞こえてくる健吾先輩の笑みに、そういうこと? と僅かに首を傾げた。

 どうやら彼は、私が茶化すために電話をしてきたと思っているらしい。確かにスーパーでは散々笑ってしまったのでそう思われても仕方がないのかもしれない。

 でも……


「それとはちょっと違うんですけどね」

『違う? どうせ俺を揶揄おうと思ったんだろ。でも残念だったな、俺は兼ねてから願ってた静かな時間を満喫してるんだ』


 自信たっぷりに答える健吾先輩の口調は、それでいて語尾が若干だが迷いの色を見せているように聞こえた。


 本当に満喫しているのだろうか?

 普段は大家族に囲まれて過ごしている彼が、十二月三十一日という特別な日をたった一人で過ごしているのに。

 テレビの中は既に正月気分で、誰もが賑やかに一年を労い笑い合っている。年を越せばこれが更に盛り上がるのだろう。

 それを静かな部屋で一人眺めることを、彼が普段望む『静かで穏やかな時間』とは言わない。


「静かな時間と一人ぼっちは違いますよ」


 一人で年越しを迎えるのも良いだろう。

 好きに過ごし、一年を振り返り、ゆっくりと静かに年明けを待つ。その静寂はきっと心地よく、穏やかで自由な年明けになるだろう。


 だがそんな『一人の静けさ』と『一人ぼっちの静けさ』は違う。

 それを知っているからこそ、電話をしたのだ。


「健吾先輩が十二月三十二日を迎えないように電話したんです」

『三十二日?』


 どういう意味だ?と言いたげな声に、それでも話題を切り替えるようにテレビで秒読みが始まったことを告げた。

 子供の頃のことは恥ずかしくて話せるわけがない。それに、もしかしたら本当に彼は一人の時間を満喫していて、迂闊に話せば『そんな子供じみたことを』と笑われてしまうかもしれない。


 そうしてテレビの中での秒読みが佳境に入り、部屋の中でも声を揃えたカウントダウンが始まった。


 五・四・三・二・一……。


 零と同時にテレビから賑やかな音楽が流れ、生中継の花火会場の映像が流れる。

 お母さんと宗にぃに続いて健吾先輩にも挨拶をすれば 机に置かれた携帯電話からも彼の応える声が聞こえてきた。



 携帯電話の画面には一月一日の表示。

 私のもとにも彼のもとにも、ちゃんと新しい年がきた。




 ちなみに、翌朝初詣の待ち合わせに現れた健吾先輩はいつも通りで、私には、あらためて新年の挨拶をしてくれた。

 ……私には。

 なにせ宗にぃとは開口一番、


「あけましておめでとう宗佐! ところでお前、俺が家族に置いてかれたことどこまで言い触らしたんだ! あのあと皆から『寂しくないか?』って連絡がひっきりなしに来たんだからな!!」

「おめでとう健吾! お前が寂しくないようにという俺なりの優しさだよ! 良かったじゃん、友達いっぱいだな! 友情に厚い一年になりそうじゃん!!」


 と、挨拶もお座なりに言い合っていたのだ。――テンションがいつもより少し高いのは新年だからか。健吾先輩の場合、自分の置かれた状況を友人に知られた恥ずかしさで自棄になっている可能性もある。それでもきちんと挨拶をするあたりが彼らしい――

 なんにせよ、新年早々に騒がしいやりとりに私も止める気にならず、「お先に」と一声掛けて歩き出す。


 数分後、二人が慌てて走って追いかけてきた。



 

 幕間2:了


更新時間ギリギリになってしまいましたが、これにてお正月の幕間は終わりです。

次話は受験に関する幕間をお届けします。


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― 新着の感想 ―
[一言] 語られなくても、3人でちゃんと初詣に行ったのかあ。 珊瑚は自分をずるい、と思っているのか。でも、古い想いにケリをつけないと、先には進めないわね。
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