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『【書籍発売記念SS】住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?/著:赤月ヤモリ』のエピソード「【1巻発売記念SS】初めて極大魔法を習得した日」の下書きプレビュー

【書籍発売記念SS】住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?/著:赤月ヤモリ

【1巻発売記念SS】初めて極大魔法を習得した日

作者
カドカワBOOKS公式
このエピソードの文字数
2,891文字
このエピソードの最終更新日時
2025年7月22日 22:04

初めて極大魔法を習得した日(著/赤月ヤモリ)



 俺こと相馬創はダンジョン探索者である。


 ダンジョン配信者『のの猫』にガチ恋し、あわよくば彼女とお近づきになりたいという純度百パーセントの下心で探索者の試験を受けた結果、合格。故郷であるくそ田舎、三船町唯一の探索者となり、『異変』対応のため忙殺される日々を送っていた。


 そんな俺は、今日も今日とてダンジョンに潜っていた。

 いつもと違う点は、今回は『異変』の対応ではなく、自主的に潜っているということ。


 実は先日、『異変』の対応でダンジョンに潜った際、俺は久しぶりに苦戦したのだ。


 相手はゴブリン・キングの群れ。

 その中にはシャーマンの姿もあった。


 どちらも基本的に苦戦することのない相手であるが、戦闘中に近くのモンスターも襲い掛かってくるという不運が発生。魔速型で距離を取りつつ戦えば傷を負うことはないが、殲滅までは時間がかかる。しかし、それは避けたかった。


 なぜなら眠かったから。


 前日、のの猫のアーカイブを見て夜更かしをした俺は、そのまま学校へ行き、放課後『異変』によって呼び出されてダンジョンへと潜っていた。


 俺は寝不足だったのだ。


 眠い。

 家に帰って寝たい。

 時間なんてかけたくない。


 こいつらを一瞬で殲滅できたらいいのに。

 なんて思いながら戦っていると、音もなく背後に近寄っていたゴブリン・キングが大きな拳を振りかぶっており――マズい、と思うと同時に、俺は魔法を発動していた。


 それはほぼ反射だった。

 ゴブリン・キングは魔法に弱いので、無我夢中になりながら魔力を込めて魔法を発動。次の瞬間、俺の身体を起点に黒い炎がチリッと舞い、周囲一帯に大きな爆発を引き起こした。


 爆発が収まると、俺を取り囲んでいたモンスターたちはすべて吹き飛び、大量の魔石が地面に散乱。ダンジョンの硬質な岩肌を軽く焦がしたその中心地点にて、上半身裸になった俺だけが、生き残っていた。


 ――そんな先日の出来事を思い出しつつ、俺は本日ダンジョンを訪れた。


「あれはおそらく火属性極大魔法『インフェルノ』だ」


 家に帰ってネットで確認したので間違いない。

 黒い炎にあの火力、これまで何度練習しても使えなかった極大魔法が、睡眠不足の中で成功した。それもこれも、睡眠不足の原因となったのの猫のおかげと言っても過言ではない。


 未来の嫁(妄想)に感謝しつつ、俺はあの時の感覚を思い出す。


「確かこう、相手を吹き飛ばすぜ! みたいな感じで……」


 目を閉じて体内の魔力の流れに集中し、詠唱を開始する。

 詠唱文に関しては、以前一度練習した際に覚えたので問題はない。


 あとは先日の感覚を思い出しながら、今度は服を吹き飛ばさないように離れた場所を起点に意識して――来いっ!


「火属性極大魔法――『インフェルノ』」


 右手を突き出し、それっぽいポージングを取りながら叫ぶ。


「……あれ?」


 しかし、結果は不発。

 ダンジョンの中で痛々しい行動をとる探索者の姿だけが、そこにはあった。


「ん~? なんで失敗したんだ?」


 腕を組みながら悩み、ポージングを変更しながら繰り返すが……うんともすんとも言わない。


「おっかしぃなぁ~」


 そうこうしていると、数匹のゴブリンが接近しているのに気が付いた。

 距離はまだまだ離れているし、そもそも実力的に天地がひっくり返ろうとも負けることはない。それでもモンスターが接近すると無意識で反応してしまうのは、ソロ探索者の悲しい性だった。


(まぁ、さっさと殺しとくか)


 右手を前に突き出し氷属性魔法『フリーズ』を発動しようとして……次の瞬間、頭上から何かが降ってきた。


「……っ!? がぼっ!」


 ヌメヌメドロドロとしたそいつはスライムと呼ばれるモンスターだ。

 ゴブリン同様に雑魚同然のモンスターで、それどころか機動力や耐久力、攻撃力などあらゆる面でゴブリンの方が上回っていると言ってもいい程の雑魚であるが……俺は焦った。


 理由は単純。


(こいつ、気道を塞いできやがったッ!)


 スライムの半液状の身体が顔中に纏わりつき、呼吸困難に陥っていたのだ。


 これが平時であれば、或いは想定内のことであれば、特段慌てることもなく魔法で対処するだけの話だったのだが、完全油断していた所に呼吸を止められるという『死』に直結する危機を迎えたことで、俺はパニックに陥っていた。


 そこに追い打ちをかけるようにゴブリンも接近しており――。


(くそっ、くそくそくそっ! この……っ、離れろッ!)


 無我夢中になりながら、俺は魔法を発動した。

 起点は俺自身で、身体に纏わりつくスライムを消し飛ばすことだけを考え――瞬間、指先からチリッと黒炎が上がり、周囲一帯を吹き飛ばす大爆発が引き起こされた。


「……ぷはっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!」


 大きく息を吸い込みながら周囲を見渡すと、顔に纏わりついていたスライムはもちろん、ゴブリンも跡形もなく消し飛んでいた。大地はぐつぐつと煮立ち、ダンジョンの壁面が熱されたことで赤くなっている。


「成功した……のか?」


 先日とは比べものにならない規模と火力は、紛うことなき火属性極大魔法『インフェルノ』だった。


 土壇場で成功した、と思えば何とも奇跡的だが……そうではない。

 俺は先ほどまで離れた場所を起点に『インフェルノ』を発動しようとしていたが、今回はスライムに襲われたことで自分を起点に発動させた。


(自分を中心として爆発を引き起こすのが、正解ってことか)


 思えば先日成功した時もそうだった。


「何はともあれやったぜ。って、寒っ!?」


 肌寒さを感じて身体を見ると、おぉ……何ということだろう。

 服が一枚も残っていなかった。

 パンツすらないすっぽんぽん。

 ダンジョンの中心でフルチンが揺れる。


 先日とは比べものにならない威力だったのだから、当然といえば当然か。


「はぁ……誰もいなくてよかったぁ」


 誰かいたら巻き込んで死んでしまうし、巻き込まなくても俺が社会的に死んでしまう。

 どちらにせよ悲劇しか生まない童貞の全裸事情である。


「まぁ、服がなくなったのなら仕方ない」


 折角なので、その後しばらく『インフェルノ』を練習することにした。

 全裸で爆発するという奇行を繰り返した結果、俺は『インフェルノ』をマスター。

 完璧に使いこなせるようになったのを確認して、ダンジョンを後にするのだった。



  §



「……すみません松本さん。何か着るものを貸してください」


「何がどうなったらそうなるの!?」


 探索者ギルドに帰ってきた俺は、松本さんの至極まっとうなツッコミを耳にしながら自らの息子を隠す。好きな人(人妻)に裸を見られるのは、さすがに恥ずかしい。


 しかしそれと同時に、いけない扉がこんにちは。

 俺は見て見ぬふりをすることで、人としての尊厳を保つことに成功した。


 その後、慌てながら衣服を用意してくれた松本さんに感謝しつつ、俺は思うのだった。


(『インフェルノ』は最後の切り札にしよう。……いろんな意味で)


 初めて三船ダンジョンが過疎っていてよかったと思った瞬間である。



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『住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?』

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小説情報

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【書籍発売記念SS】住んでる場所が田舎すぎて、ダンジョン探索者が俺一人なんだが?/著:赤月ヤモリ
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