追放した奴隷少女の名前はユミルというらしい。
巨人形態と少女の形態は自分の意思で変えられるらしい。
巨人の体を残して少女の形態に戻ることも可能だとか。
全てユミル自身が教えてくれた。
治った舌を使って。
兵士から打たれた矢傷も治っている。
ユミルが我が領土まで戻ってきた際の足跡は目視できる。
つまり幽霊とかではない。
物理的なダメージを与えることができるわけだ。
巨人形態の時にビビった兵士に矢を打たれたようだが、
矢は刺さらず跳ね返されたようだ。
皮膚もかなり硬いらしい。
そんな、火縄銃すらない現代では核兵器にも勝る武力を手に入れた少女は、
俺の前で跪いている。
……なんで?
奴隷にされたあげく過失があったとはいえ死刑になったんだよ?
なんで恨まない?
巨人化して俺を踏みつぶさない理由が分からない。
分からないのは怖い。
理解できない強者なんて災害そのものじゃないか。
なので聞いてみた。
ユミルよ、お前の望みを言ってみろ。
……結婚がしたい、か。
なるほどな。
……なるほど、な?
ちなみに相手はいるのか?
……俺?
えっと、俺と結婚したいの?
……あー、なるほどね。
うん、分かった。
貴様の望みは分かったぞ。
だが、貴様は元奴隷の罪人である。
奴隷も罪人も結婚はできない。
なので条件を設ける。
……そんなに不安そうな顔をしなくてもよい。
道を開き、荒れ地を耕し、峠に橋を架ける。
その程度、今の貴様には容易いことだろう。
細かい指示は後日とする。
今日は休め。
召使いをつける。
何か欲しいものがあれば彼女に言え。
それでは、下がってよい。
……どういうことだ?
俺あの奴隷と話したことあったっけ?
ないよな?
初対面の時に追放を言い渡したんだよな?
なんでそんな相手と結婚したがるんだ?
意味わからん。
ま、まあ取りあえず敵対しないのは助かった。
なるべく苦しめて殺してやるから覚悟しろ(暗黒微笑
とか言われたら泣いちゃうとこだった。
でも結婚かあ。
いつかはするだろうと思ったけど、あの子が相手かあ。
そりゃあ外見は悪くないが、怖いよね、普通に。
寝ぼけて巨人化したりとかしないよね?
そんなことなったらぺちゃんこだよ。
何か月か様子見なきゃな。
さて、ユミルについて議論しよう。
え?
なぜマーレ帝国に嗾けないのかって?
そしたら帝国を支配できるのにって?
阿呆か貴様。
あいつは世間知らずの元奴隷だ。
だから身近にいる一番の権力者を手に入れようとした。
それが俺だった。
恨みもあるだろう俺を選ぶなんて、そうとしか考えられん。
だが、もしマーレ帝国の詳細を知ったら?
エルディア族なんかよりも巨大で裕福な国の存在を知ったら絶対に欲しくなる。
エルディア族では満足できなくなる。
マーレ帝国の王様に乗り換えちゃおっ☆
なんてことになるのは目に見えてる!
そんなことになったら俺たちは破滅だ!
もしエルディア族を大きくすることに楽しみを見出したとしても、
一度暴力という手段を使ってしまったら、その簡単さに確実に魅了される。
今の族長邪魔だなあ。
よーし私がリーダーになっちゃうぞ!
ってなったらどうする?
俺だけでなく幹部であるお前らも一緒にぺちゃんこだぞ!
細心の注意を払え。
国を亡ぼす力をもった子供だ。
扱いを間違えれば一瞬でお終いだぞ。
さて、それではユミルの今後について会議をするぞ。
まずはエルディアを国にする。
マーレ帝国から離れるようにして領地を開発するぞ。
道を舗装し、橋をかけて、畑を耕す。
領地には海と河を含むようにしよう。
そして山も掘らせよう。
燃料として石炭が必要だ。
現状では冬を乗り越えるのは一苦労だからな。
鉱山を開発するのだ。
後々にはマーレ帝国との間に壁を作り防衛できるようにする。
さっきも言ったが、戦力としてユミルを頼りたくはない。
いつ心変わりするか分からぬからな。
あくまで土木工事のみに従属させる。
あ、あとユミルの家族とか分かるか?
奴隷から解放して良い家に住ませた方が良いだろう。
なに?
もう死んでる?
……親殺しの族長と結婚するとかマジでなんなの?
と、とりあえず先程の内容で問題は無いか?
無ければ詳細を詰めるぞ。
俺は土木工事に明るくないからな。
何かおかしなところがあればすぐ言え。
時間を無駄にしたくない。
それではまずは道路についてだが……、
当初の予定では1年ほどかけてインフラを整えるはずだった。
その後、防衛用の武器を揃えてから銃や蒸気機関の開発に勤しむ予定だった。
だが、ユミルは頑張った。
あまりしゃべらないし表情も変わらないので何を考えているのか不明だが、
毎日のように、
仕事は早めに切り上げろよ、とか
早く寝るんだぞ、とか
急がなくても誰も逃げないからな、とか言い続けて早3カ月。
当初の目標は達した。
達してしまった。
エルディア王国の誕生である。
国民の数こそ少ないが、既に領土ではマーレ帝国を超えている。
ユミルの姿を見て支配下に加わった部族も10以上ある。
マーレ帝国を裏切った傭兵団もいた。
当然マーレに目を付けられている。
スパイも何名か捕獲した。
まあこれは想定内。
友好関係を申し込んでくることも想定内。
勿論受諾した。
戦うことになったら嫌だったが、流石にそんな度胸はないらしい。
関税面など、割とこっちが優位にたっている。
調印式当日。
暗殺の心配もあったので、結婚前だがユミルを王妃として傍に置いた。
毎日10時間土木作業をしているのでおしゃれさせる機会もなかったが、
これを機に煌びやかな服装をさせてみた。
あまり表情が変わらない女だが、嬉しそうであった。
やはり女は甘い物と宝石が好きだな。
巨人であってもそれは変わらないらしい。
そしてそのままサプライズ結婚式。
これはものすごく満足そうだった。
女はサプライズが好きという前世の記憶に感謝だ。
(まあ日本でそれをやったらブチギレだろうが)
さて、物事は順調に進んでいる。
問題があるのは俺の胃だけだ。
毎日毎日悪夢を見る。
ユミルに踏みつぶされる夢だ。
俺の命はあいつの気分しだいだ。
いや、エルディア王国の全てがユミルに握られている。
これからどれだけ技術革新を努力したところで核兵器は作れない。
ならばユミルを殺す手立てなどない。
暗殺ならできるかもしれんが、恐ろしい。
あんな巨人になれるような奴が普通に死ぬのか?
刺した瞬間巨大化したらどうなる?
毒を飲んでも苦しむだけで結局死ななければどうなる?
報復あるのみだ。
ああ恐ろしい。
この3カ月でユミルは大食漢だということが分かった。
昔はそんなに食べれなかったらしい。
巨人は腹が減るらしい。
俺と結婚する理由も大体想定通り。
身近な権力者で衣食住に困らない。
そんなところだろうな。
それでは駄目だ。
いつか切り捨てられる。
なんとかして俺に惚れさせなければいけない。
親を殺し、死刑を言い渡した俺に。
無理だろそんなの……。
だがやるしかない。
やるしかないんだ。