表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
くまクマ熊ベアー  作者: くまなの
クマさん、新しい依頼を受ける
913/913

889 クマさん、森に行く

「森の件、本当に妾が付いていかなくていいのか?」


 わたしたちはくまゆるとくまきゅうに乗って海を走り、海岸沿いまで戻ってくる。

 島から戻ってきたわたしたちは別れて行動することになる。


「大丈夫だよ。森のことはわたしに任せて、カガリさんは自分のことをして」


 カガリさんには目的がある。


「カガリさんなら、過去の経験から妖刀の行動も分かるんじゃない?」

「そう簡単に行けばよいが、持ち主しだいじゃろう。今は情報集めじゃな」


 早く見つかってほしいものだ。


「それじゃ、妾は行く。お主の実力は分かっておるが、気をつけるんじゃぞ」


 そう言うと、カガリさんの体が浮かび、飛んでいく。


「わたしたちも行こう」


 わたしはくまゆるに飛び乗り、くまゆるは森に向けて走り出す。その横をくまきゅうが並走する。

 しばらく走っていると森が見えてくる。


「カガリさんの話だと、あの森だよね」


 くまゆるを走らせ、森の前までやってくる。

 森の入り口で探知スキルを使ってみるが人の反応はない。

 カガリさんが発見してから、半日ほど経っている。

 移動するには十分な時間だ。

 やっぱり森の奥に行かないとダメみたいだ。

 最悪の場合、森から出ていった可能性もあるけど、こればかりは探してみないと分からない。

 わたしたちは森の中に入る。

 森は深い、普通に探したら見つけられない。上から見ても木々が邪魔で見つけられないかも。


「でも、こんなところに妖刀を持った人がいるのかな」


 戦う相手がいなければ意味がないと思うんだけど。

 こんな森の中に入って、どうしようと言うんだろうか。

 本人の意思なのか、妖刀の意思なのか。


「くぅ~ん」


 くまゆるが鳴く。


「見つけたの?」


 探知スキルを使うが反応はない。

 くまゆるが右の方向へ歩き出す。


「これは」


 ウルフの死骸だ。

 それも三匹。

 三匹とも首を綺麗に斬られている。

 冒険者なら、かなりの腕前だ。

 でも、冒険者なら討伐したウルフをこのままにしないはず。

 魔石を切り取った跡もない。

 妖刀の持ち主が通った?

 どうやら、正解を引いたみたいだ。

 日頃の行いがいいせいかもしれない。

 でも、森の中を進むけど、探知スキルに反応はない。


「これは手分けして探したほうがいいかな」


 一番怖いのがくまゆるとくまきゅうが斬りかかられることだ。

 妖刀の強さが分からないけど、もしもの場合もある。

 近寄らなければ大丈夫かな。


「くまゆる、くまきゅう、手分けして探すよ。わたしは前に進むから、くまゆるは右、くまきゅうは左」

「「くぅ~ん」」

「人の反応を発見したら、すぐにわたしのところに戻ってくること」

「「くぅ~ん」」

「怪我注意、無理に近寄らない。攻撃は仕掛けない」

「「くぅ~ん」」

「それじゃ、行くよ」

「「くぅ~ん」」


 わたしたちは、それぞれの方向へ走り出す。

 わたしは森の中を駆ける。

 木々の間を走り、岩を飛び越え、先に進む。

 しばらく移動したわたしは探知スキルを使う。

 探知スキルに反応はない。

 ハズレたかなと思っていると、探知スキル、ギリギリのところで人の反応が1つ出る。

こんな森深くに来るのは冒険者か、逃げた妖刀ぐらいだ。

 その人の反応を囲うようにウルフの反応が6つある。

 探知スキルを見ているとウルフの反応が1つ消え、さらにもう1つ消える。

 冒険者か妖刀か。

 探知スキルでは、その判断はできない。

 わたしは確認するために反応があるほうへ向かう。

 もうすぐだ。

 反応が近くになるとゆっくりと見える位置に移動する。

 見えた。

 男が襲いかかってくるウルフに向けて刀を振るう。

 首と胴体が離れる。

 速い。

 残りのウルフが男を囲み、襲いかかるが、正確に首を斬られる。

 様子を窺っていると、男は倒したウルフを解体もせずに歩き出す。

 冒険者なら解体をするはず。

妖刀の可能性が高い。

 男はさらに深く、森を進んでいく。

 このまま放置してもいいんじゃないかなと思ってしまう。

 森の魔物を討伐してくれる。

 そして、戦って力尽きてくれたほうが戦わないで済む。

 妖刀に限界がなくても、人には限界はある。

 人には食糧と水は必要だ。

 食べ物を求めて街に戻ってくる可能性もある。


「……」


 放置することなんてできないよね。

 わたしは諦めて、男に近寄る。

 草木を分ける音に気づいたのか、男が振り返る。

 30歳ぐらいの男性。

 武士っぽい服を着ていて汚れている。

 返り血?

 人でなく、魔物であることを願う。


「確認だけど、わたしの言葉、分かる?」


 目は虚ろだ。


「……魔物、斬る」


 男は鞘から刀を抜く。


「魔物って、わたしのこと?」


 もしかして、クマの格好のせいで魔物認定?

 男が迫ってくる。

 とっさに風魔法を放つ。

 だけど、男は刀を振って風魔法を斬る。

 そんなことができるのは漫画の世界だけでしょう。

 男は風魔法を斬ると同時に走る。

 距離が縮む。

 斬り掛かってくる。

 後方に跳び、躱す。

 さて、どうしたものか。

 魔法で倒すべきか。

 勇者の剣で戦うべきか。

 人もいないし、取り憑かれることもない。

 魔法で倒してもいいかも。


「悪いけど、わたしの土俵で戦わせてもらうよ」


 わたしは無数の空気弾を飛ばす。

 男は3回ほど刀を振って、空気弾を切り裂く。


「妖刀って呼ばれるぐらいなんだから、このぐらいはやるよね。それなら、これは」


 地面から土壁が現れ、男を囲む。

 まずは、捕まえる。

 その後のことは後で考える。

 だけど壁が切り裂かれ、土壁が崩れる。

 冗談でしょう。


 男が迫ってくる。

 速い。

 クマボックスから勇者の剣を出して、受け流す。

 受け止めたら、斬られる。

 男の刀を受け流すと同時に体を横に流し、男の横に回り、蹴り飛ばすが、空を切る。

 男が受け流された方向へ、体を移動し躱した。

 剣術だけじゃなく、身体能力も上がっている?

 わたしは空気弾を飛ばしながら後方に下がり、再度土魔法で男を囲む。

 今度はクマだ。

 男の周りに無数のクマが現れ、男を囲んだ。

 流石に妖刀でも斬れないはずだ。

 そう思った瞬間、男はクマを足場にして、上からクマの囲いを脱出する。

 あの一瞬でクマが斬れないって判断した?

 天井を塞ぐ前に逃げられてしまった。


「魔法使い……」


 男が小さい声で呟く。

 男が迫ってくる。

 わたしは土魔法で地面に穴を開ける。

 男が落ちて行く。

 今度はちゃんと蓋代わりにクマを置いて塞ぐ。

 捕まえたけど、どうしようか。

 クマをどかせば攻撃を仕掛けてくるよね。

 だからといって、隙間から魔法を撃ち込むのもあれだ。

 魔物ならいいけど、操られている人だったら問題だ。

 とりあえずは、くまゆるとくまきゅうを呼ぶことにする。

 わたしは心の中でくまゆるとくまきゅうに呼びかける。

 これで伝わったかな。

 男をどうしようかと考えていると、穴の蓋をしているクマの横の地面の土が盛り上がる。

 そう思った瞬間、地面から刀が飛び出す。

 そして、そのまま空を高く飛んでいった。


「…………」


 わたしは見えなくなった空を見上げたまま、惚ける。

 刀が飛んだよ。

 逃げたとも言う。

 しかもちゃんと鞘に入ったまま。


「……冗談でしょう。刀が空を飛んで逃げるの? もしかして、魔法で倒したから?」


 ちょっと待ってよ。

 これって、妖刀の回収に失敗したってことだよね。

 認めないからって、空を飛んで逃げるなんて、誰も思わないよ。

 シノブもカガリさんも知らなかったの?

 知っていたら、教えてほしかった。

 わたしが落ち込んでいると、くまゆるとくまきゅうがやってきた。


「「くぅ~ん」」

「ごめん、逃げられちゃった」


 こういうとき、空を飛べたらと思うけど。あの刀の速度は速かった。カガリさんでも追いつけなかったかも。

 まあ、カガリさんの最高速度で飛んでいるところは見たことがないから、分からないけど。

 逃げられたものはしかたない。

 気持ちを切り替えよう。

 妖刀を持っていた男は捕まえたから、半分は達成したことにしよう。

 普通に考えて妖刀に逃げられた時点で0点だけど。


「はぁ」


 わたしは穴を塞いでいるクマの置物を消す。

 ついでに他のクマも消しておく。

 穴を覗き込むと、男が倒れている。

 土魔法で穴を盛り上げ、男を穴から救い出す。

 男は気を失っているようで、動かない。

 暴れても困るので、土魔法で手錠をかける。

 そして、水魔法で男の顔に水を当てる。


「うぅ」


 男が目覚める。


「ここは?」

「あなたは誰?」

「ク、クマ!」


 男がわたしを見て驚く。

 そんなに驚くこと?

 目線が後ろを見ているような。

 後ろを見ると、くまゆるとくまきゅうがいた。

 だから、わたしを見て、怖がったんじゃないよね?


「くまゆる、くまきゅう、下がって」

「「くぅ~ん」」


 くまゆるとくまきゅうは素直に下がる。


「このクマたちはなにもしないから大丈夫よ。でも、あなたの行動と発言次第では、どうなるか分からないけどね」


 そう言って後ろを見ると、涎を流すくまゆるとくまきゅう。

 本当に、わたしの考えていることを理解してくれる。


「なんでも話すから、食わないでくれ」

「それじゃ、確認だけど、自分がなにをしたか記憶はある?」


 わたしの言葉に、男は考え込み、口を開く。


「ああ、ある。嬢ちゃんと戦った記憶もしっかりある」


 記憶はあるみたいだ。


「あの刀については?」

「拾った」

「拾った? どこで?」

「確か、城下町を出て、しばらくしたらだ。誰もいなかったし、落とし物かと思って拾ったんだ」


 つまり、盗んだ犯人じゃなかったってこと?

 でも、噓を吐いているかもしれない。


「刀を握ると、無性に斬りたい衝動に気持ちが湧いてきた。嬢ちゃんはあれがなにか知っているのか? あの刀はなんなんだ?」


 男の顔を見ると、本当に知らないみたいだ。


「わたしも詳しくは分からないけど、妖刀って呼ばれる刀みたい」

「妖刀? 妖刀って、物語に出てくるような?」


 物語がどんな物語か分からないけど、妖刀が出てくるなら、そうなので頷いておく。


「それで、あなたはどうしたの?」

「街に戻れば、人を斬りたい気持ちは抑えきれそうもなかった。だから、街から離れるようにしたんだ」


 凄い。

 妖刀に逆らったんだ。


「刀を放すことはできなかったの?」

「できなかった。気持ちを抑え込むのが限界だった。一生懸命に耐えていたんだが、徐々に自分の体が自分のようじゃ無くなってくるような感覚になった。あとは人を殺さないように森の中に移動させるのが精一杯だった」


 この人、凄い。

 妖刀の力が、どんなものなのかは、カガリさんたちから聞いたことぐらいしか分からないけど、妖刀に逆らうのが大変なことぐらい分かる。




妖刀が空を飛んで逃げました。


※くまクマ熊ベアーコミカライズ外伝4巻が8月1日に発売されました。

よろしくお願いします。店舗特典などは活動報告にてよろしくお願いします。


※くまクマ熊ベアー10周年です。

原作イラストの029先生、コミカライズ担当のせるげい先生。外伝担当の滝沢リネン先生がコメントとイラストをいただきました。

よかったら、可愛いので見ていただければと思います。

リンク先は活動報告やX(旧Twitter)で確認していただければと思います。


※PRISMA WING様よりユナのフィギュアの予約受付中ですが、お店によっては締め切りが始まっているみたいです。購入を考えている方がいましたら、忘れずにしていただければと思います。


※祝PASH!ブックス10周年

くまクマ熊ベアー発売元であるPASH!ブックスが10周年を迎え、いろいろなキャンペーンが行われています。

詳しいことは「PASH!ブックス&文庫 編集部」の(旧Twitter)でお願いします。


※投稿日は4日ごとの22時前後に投稿させていただきます。(できなかったらすみません)

※休みをいただく場合はあとがきに、急遽、投稿ができない場合はX(旧Twitter)で連絡させていただきます。(できなかったらすみません)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」コミカライズ公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

※PASH UP!neoにて「くまクマ熊ベアー」外伝公開中(ニコニコ漫画、ピッコマでも掲載中)

お時間がありましたら、コミカライズもよろしくお願いします。


【くまクマ熊ベアー発売予定】

書籍21巻 2025年2月7日発売しました。(次巻、22巻、作業中)

コミカライズ13巻 2025年6月6日に発売しました。(次巻14巻、発売日未定)

コミカライズ外伝 4巻 2025年8月1日発売しました。(次巻5巻、未定)

文庫版12巻 2025年6月6日発売しました。(次巻13巻、発売日未定)


※誤字を報告をしてくださっている皆様、いつも、ありがとうございます。

 一部の漢字の修正については、書籍に合わせさせていただいていますので、修正していないところがありますが、ご了承ください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
動揺、森のクマさん?
んな、あほな 読者とユナちゃんの気持ちが一体になった瞬間でした。
飛んで逃げるとか、もはや魔物じゃないのか?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。