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コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

戦争の後始末

2010-08-31 | Weblog
国を南北に分断した、コートジボワール紛争の両当事者が、国を統一して大統領選挙を実施する、という合意に至った時に(2007年3月、「ワガドゥグ合意」)、北部の旧反乱軍は「軍備解体」されること、という条項が入っていた。その後、この「軍備解体」は「大統領選挙の2ヶ月前に完了していること」という、追加合意が結ばれた(2008年12月、「第4次追加合意」)。

10月31日が大統領選挙の日に決定したのだから、「2ヶ月前」というと8月31日である。さて、「軍備解体」の約束はどうなるのだろうか、と思っていたら、招待状が来た。ブアケで、北部の旧反乱軍である「新勢力」軍が、「兵士の集合(encasernement)」をする式典がある、という。

ブアケという町は、コートジボワール中北部にあって、国が南北に分裂していた間、反乱軍側の「首都」になっていた。私は招待に応じ、8月27日に他の大使と一緒に、国連機でブアケに飛んだ。ブアケの飛行場から、車に乗せられてずいぶん走ったところで、広大な野原のなかに駐屯地があり、「新勢力」軍の兵舎が立ち並んでいた。「兵士の集合」の式典は、桃色に塗装された兵舎に囲まれた、中央広場で行われた。

「兵士の集合」とは、何のことだろうか。つまり、「新勢力」軍の兵士たちは、反乱軍なので駐屯地や兵舎がなかったのである。決まった駐屯地がなくて、町や村の中に住んで戦争を戦い、戦争が終わった後も、町や村の中に生活し、自分たちの「司令官」の命令に従って、さまざまな活動に従事していた。それは、「新勢力」軍の占領地域において、治安維持の活動のほか、道路を直したり、建設に労働力を提供したりする活動もあるけれど、何より「徴税」活動が重要だった。

「徴税」というのは、「新勢力」軍の行政の経費や、兵士の給料を稼ぐために、主に道路で行った。幹線道路に障害を築き、通過する貨物自動車などから、「通行料」を徴収した。他にも、国境での「関税」、町での商売への「営業税」など、さまざまなかたちでの「徴税」があった。それで、「新勢力」軍を、今後は正規軍として認め、給料をちゃんと国庫から支払う代わりに、そうした「徴税」はやめるのだ。そして、きちんと区画を決めて駐屯地をつくり、兵舎を建設し、兵士たちには兵舎に入居させ、正規軍として統制をとる。つまり、勝手に町に出て行って、「徴税」活動をしないようにする。

「新勢力」軍の兵士たちを一ヶ所に集めて、司令官の監督下におく、ということは、大統領選挙を実施する前提条件として、バグボ大統領側が強く求めてきた。なぜならば、それなしに選挙を行ったら、投票に際して、各地にいる兵士たちが、一般の人々に対してさまざまな妨害や圧力を加えるだろう。何より、選挙結果が気に入らないということになれば、再び暴れ出して国を混乱に陥れるだろう。バグボ大統領側は、そう懸念して、「軍備解体」の実施を、強く求めてきた。「兵士の集合」の式典は、この懸念に応えるものである。大統領選挙のための、大事な条件がひとつ、満たされることになる。

ブアケの式典には、ソロ首相の名代としてコネ司法相が出席した。コネ司法相は、私たち外交団と一緒に国連機に乗って会場入りした。私たちが到着するや否や、さっそく式典が始まる。待ち時間がないというのは、結構なことだ。国歌吹奏のあと、アマニ・ヌゲサン国防相と「新勢力」軍のバカヨコ司令長官が、コネ司法相を案内して閲兵式を行う。整列する「新勢力」軍の前を、コネ司法相がゆっくり歩いて、閲兵が終わった。

まず、バカヨコ司令長官が演説台に立った。
「このたび、「新勢力」軍が、新たな軍として再出発することができることを、大変喜びに感じます。これまでの(北部側の)兵士たちは、合計5千人の軍に再編成され、これからは選挙活動の安全確保など、平和のために働くことになります。」

バカヨコ司令長官はそう述べて、5千人を兵団(Groupement d'instruction)に編成しなおすことと、その兵士たちがどこの駐屯地に「集合」するかを発表した。
第一兵団:1200名をコロゴ駐屯地に集合
第二兵団:1000名をセゲラ駐屯地に集合
第三兵団:1600名をブアケ駐屯地に集合
第四兵団:1200名をマン駐屯地に集合

「そして、この5千人以外の元兵士たちは、銃を置き軍服を脱ぎ、これから市民生活に戻ります。そのための職業訓練や、再出発のための支援を受けることになります。そうした元兵士たちの社会復帰にむけて、国家からの支援計画が実施されます。」

引き続いて、アマニ・ヌゲサン国防相が演説を行った。
「今日こうして、兵士集合の式典に臨めるということは、コートジボワールの和平達成のために、最後の段階に入ったということを意味します。そして、「新勢力」軍の兵士の皆さん方は、これからは国家のため、つまり共和国のために働く兵士となるのです。国家再建のため、力を尽くしていただきたい。」

「そして、今回「新勢力」軍の兵士を除隊し、市民生活に戻ることを決めた人々は、同時に心や精神の武器をも措くようにしてください。なぜならば、コートジボワールの危機が終了するとともに、国への信頼を回復することが出来るからです。もはや、国内で対立することは止め、平和に向けて一丸となって努力しようではありませんか。もはや、国軍と「新勢力」軍とは、互いに対立する軍ではありません。」

たしかに、バグボ大統領側の国軍の最高責任者である国防相が、元反乱軍である「新勢力」軍の中に赴いて、演説をしているということ自体が、コートジボワールの戦争が既に過去の話になっていることを意味している。今、南北を問わず、コートジボワールの人々が一緒になって努力しているのは、戦争の後始末なのである。

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