goo blog サービス終了のお知らせ 

コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

選挙日程が守れるか

2010-08-30 | Weblog
独立50周年記念日(8月7日)の直前に、大統領選挙の投票日は10月31日と決まった。いよいよ大統領選挙が実現するのかどうか、私たち大使仲間の間でも、意見が分かれている。何せ、私が着任してからだけでも、2回も延期されているのだ。二度ある事は三度ある、と思われても仕方がない。

それはもう、こちらの新聞論調にも表れている。新聞各紙は、大統領選挙がどう戦われるかではなく、再び延期されるのかされないのかばかりを議論している。新聞論調だけをみていると、あたかも延期に持っていこうとする勢力と、そうはさせじとする勢力とが、激しい綱引きをしているかのように、情勢分析されている。

バグボ大統領もいけない。独立50周年記念日の演説で、力強く大統領選挙を実現しようと訴えるかと思ったら、そうではなかった。それどころか、選挙も大事だけれど、平和はもっと大事だ、と述べた。つまり、平和が乱れるような選挙ならば、また延期もやむを得ないという帰結になる。それに、10月31日に選挙をするとは、一切言わなかった。よく演説を振り返ってみると、バグボ大統領は、「大丈夫、年内には選挙をする」と言っただけなのだ。

何より鍵になるのは、「確定版」選挙人名簿が完成し、ちゃんと発表されるかどうかであろう。「確定版」が完成しさえすれば、あとは選挙人証を配って、投票用紙を作って、それで投票するだけ。すべての準備段階は終わり、もう大統領選挙をしないわけにはいかなくなる、と言える。

選挙人名簿は、「暫定版」を公表し、それに基づいて、人々から修正の要求を受け付けるところまでは進んだ。いわゆる、「異議申立て」である。これも、申立ての受付を8月6日に締め切り、今はその申立てを選挙管理委員会で審査し、手続き上の要件を満たすならば、各地の裁判所に上げて審査・裁定するという作業にかかっていることになっている。

「確定版」の完成に至る、最後の最後の手順であるこの作業が、どうも難航しそうな気配がある。というのは、既に出された「異議申立て」の中には、「登録抹消要求」というのがあって、つまり名簿にコートジボワール人として名前が載っているけれども、実はあいつは外国人だ、という「異議」を出すことも含まれる。審査の結果、この人は登録抹消、と決まれば、その人は選挙権はおろか身分証も得られないということになる。異議を申立てられた側は、真剣に自分の地位を守ろうとする。すでに各地で、「登録抹消」の決定に対して騒ぎが起きている。

そういう雰囲気の中で、マンベ前選挙管理委員長に替って任命された、バカヨコ選挙管理委員長による、外交団に対する現状説明会が、8月24日に開かれた。バカヨコ委員長は、私たち大使連中を前に、次のように説明した。
「私が新しい委員長になってから、選挙人名簿の「暫定版」への「異議申立て」を再開しました。そして所定の期間この「異議申立て」を行って、8月6日にこれを終了するところまでこぎつけたのです。今は、「異議申立て」の受付を終わり、裁判所が申立ての正否に付いて判断をしています。判断は、8月26日には終了することになっています。」

ということは、8月末までには、もう「確定版」選挙人名簿の完成にむけて、全ての手続きが終わるということになる。
「その司法判断を得た「確定版」は、首相府の責任で、政治的な判断で公表されます。そうなると、次の準備は、投票そのものです。投票そのものに必要な投票箱その他の資機材は、国際社会の協力によりすでに準備されています。しかし、それだけでなく、投票を行うためには、全国の投票所に、仮設小屋やテントなどの必要な設備を整えなければなりません。それに、投票用紙を印刷し、投票箱などとともに、全国の投票所にこれから配送しなければなりません。」

「また、課題としては、投票が行われたあと、各地でその結果を速やかに集計し、中央の選挙管理委員会において、確定得票数を宣言する、という態勢を整える、ということが重要です。投票が円滑に行われるように、国際社会からの協力を、引き続きお願いします。それから、投票にあたっては、各国から選挙監視団の派遣を歓迎します。」
各国からの協力を要請したい、というのは、今日の説明会のもうひとつ重要な趣旨なのだろう。ところで、日本から選挙監視団と言われても、手続きがあってそんなに簡単には出せない。まず、選挙を期日にやるのかどうか、それを確実にしてもらうことが先である。

さて、質疑応答に入る。真っ先に質問が出たのが、「工程表」である。工程表つまり、選挙当日までの日程はどうなるのか。
「工程表は、確定版の選挙人名簿が完成してからでないと公表できないのですけれど、「異議申立て」の審査結果について裁判所の判断を受けて、予定通り9月5日に名簿が確定するとすれば、技術的には次の通りに進むことになります。」
バカヨコ委員長はそう答えて、次の日程を読み上げた。

9月6日 選挙人名簿の電子データでの完成
9月8日 電子データを、首相により認証
9月15日 選挙公報の発表
9月30日 選挙人名簿を、インターネット上で公示
10月7日 印刷された選挙人名簿の各地への搬送
10月10-16日 各地での選挙人名簿の公示
10月10-23日 有権者への選挙人証の配布
10月31日 第一回投票の実施

たしかに、まだ9月と10月の丸二ヶ月があるのだから、選挙は十分に実施できる。でも、「技術的には」と委員長が付け加えているところが、今一つ気にかかる。それに、予定通り9月5日に、確定版の選挙人名簿が仕上がれば、という前提だ。そこまでに至れるのかどうか、つまり「異議申立て」の審査が完了するのかどうかが問題だ。

というわけで、私は手を上げて委員長に聞いた。「異議申立て」の審査が遅れている、とくに「登録抹消要求」への判断を示すことが大変そうだという雰囲気ですけれど、そこは大丈夫でしょうか。この質問に、バカヨコ委員長が答える。
「作業の手順書があって、それに従って、技術的に淡々と進む話なのです。選挙管理委員会で、「異議申立て」の申請書類に不備がないか、証拠があるのかを見て、そうした証拠が不十分なら、委員会で却下です。証拠があるなら、裁判所に回して、そこでの司法判断に委ねる、という技術的な作業なのです。だから、着々と進むはずです。それに、誰も大統領選挙の遅延を望んでいないのです。皆の心に、この作業に混乱が起きて日程の遅延に繋がるようなことは、避けたいという気持ちがあります。」

説明会が終わって、バカヨコ委員長が部屋の外に出たら、さっそく記者団に取り囲まれて質問が浴びせられている。大使たちは、委員長を横に、今日の説明をどう解釈するかを廊下でひそひそと議論する。
「結局、選挙管理委員会の作業は、「技術的」ということを言いたいのでしょうね。」
と、某大使。「政治的」な考慮は、選挙管理委員会とは別のところで働く、だから、選挙準備は技術的には整っても、何か政治的な要因で選挙に遅延が生じることは排除されない、ということを暗に言いたいのだ、と言う。

いやいや、それでも、首相府が「確定版」選挙人名簿を認証しさえすれば、あとは着実に手順が進む、とはっきり説明があったことは心強い。別の大使は、そう言う。つまり選挙準備は、司法判断と首相府の認証だけで、もう「確定版」が出来あがるところまで来ている。よしんば、「確定版」の完成が多少、例えば数週間遅れるにしても、それは10月31日を数週間遅らせる、というだけの話ではないか。つまり、バグボ大統領が言う通り、「年内には」大統領選挙が実施できる、という帰結になる。肯定的に考える大使は、そう言っている。

私も、まずは肯定的な大使に同意しておきたい。はじめから物事を悲観してはいけない。ともかくも、バカヨコ選挙管理委員長が、10月31日にむけて着実に手順を進めていくことを、強く期待することとしよう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

サービス終了に伴い、10月1日にコメント投稿機能を終了させていただく予定です。